元任天堂開発者が伝授 「連想」のテクニックを使って、アイデアの量を増やす:リンゴを8方向から連想する(2/2 ページ)
アイデアの質を高めるためには、母数となる量が必要だ。では、どうやったらアイデアの量を増やせるのだろうか。WiiやSwitchの開発者が伝授する「アイデアの考え方」、今回は箱法というツールを使って、複数方向からアイデアにつながる連想をしてみる。
箱法による連想
箱とはサイコロのような立方体です。この立方体の空間的イメージを利用して連想をします。図にすると以下のイメージです。
箱には、上と下、前と後、左と右、中と外、があります。6面+表面、内面の合計8面です。この8つの面を手掛かりに連想していきます。「リンゴ」をテーマに連想しながら「箱法」を説明します。
上
箱の上をイメージさせる、上位概念や抽象、位置的に上、地位的に上、軽い、大きい、を手掛かりに連想します。
- リンゴの上位概念や抽象は、果物、食べ物、植物の繁殖手段……
- リンゴより地位的に上なのは、実をついばむ鳥、狩り取るリンゴ農家……
- リンゴより位置的に上にあるのは、枝、葉っぱ、空……
- リンゴより軽いのは、サクランボ、風船……
- リンゴより大きいのは、ボーリング球、リンゴを入れる箱、運ぶトラック、並べる棚……
下
箱の下をイメージさせる、下位概念、具体、位置的に下、地位的に下、重い、小さい、を手掛かりに連想します。
- リンゴの下位概念や具体は、サンふじ、ジョナゴールド、せかいいちなど具体的品種、高級、訳あり、規格外など具体的な状態……
- リンゴより位置的に下なのは、木の幹や根、土、ニュートン(リンゴの落下で引力の発見)……
- リンゴより地位的に下なのは、種を運ばせられる鳥、水と肥料をやるリンゴ農家……
- リンゴより重いのは、金属、キティちゃん(リンゴ3個分の体重)……
- リンゴより小さいのは、ひめリンゴ、サクランボ、いちご、ゴルフボール……
前
箱の前をイメージさせる、時間的に前、歴史的に前、位置的に前、を手掛かりに連想します。
- リンゴの時間的に前は、花、種、祖先の果物……
- リンゴの歴史的に前は、エデンの園の禁断の果実、野生のリンゴ……
- リンゴの位置的に前は、(言葉遊びの)しりとり、ぶどうやすいか(八百屋での棚の並びのイメージ)……
後
箱の後をイメージさせる、時間的に後、歴史的に後、位置的に後、を手掛かりに連想します。
- リンゴの時間的に後は、出荷、八百屋で販売、料理、リンゴジュース、アップルパイ……
- リンゴの歴史的に後は、品種改良、ハウス栽培……
- リンゴの位置的に後は、ゴリラ(しりとり)、バナナ(八百屋での棚の並びのイメージ)……
右
箱の右をイメージする、右腕や仲間、保守、位置的に右、を手掛かりに連想します。「仲間」が含まれるのは、相棒やパートナーを意味する「右腕」の抽象概念であるためです。同様に「保守」は、政治的に右翼であるために右に含まれます。
- リンゴの右腕や仲間は、梨(似ている果物)、ひめりんご……
- リンゴの保守的イメージは、伝統農法、無農薬、有機栽培、リンゴ狩り……
- リンゴの位置的に右は、葉っぱ(リンゴに付いている飾りの葉っぱは、なぜかいつも右向きに描かれる)……
左
箱の左を、敵、革新、位置的に左、を手掛かりに連想します。「敵」が含まれるのは、右で説明した右腕の逆の意味であるためです。「革新」は、政治的に左翼であるため左に含まれます。
- リンゴの敵は、害虫、ミカン(人気を争う果物)……
- リンゴの革新的イメージは、遺伝子操作、自動収穫機……
- リンゴの位置的に左は……思い付かない場合はスキップ
内面
箱の中身をイメージする、内容、部品や構成物、本質、中に入るもの、を手掛かりに連想します。
- リンゴの内容は、果肉、果汁……
- リンゴの部品や構成物は、種、皮、芯、蜜……
- リンゴの本質は、甘さ、栄養、カロリー、ビタミンC、種の移動……
- リンゴの中に入るのは、肥料の栄養、水……
表面
箱の表面をイメージする、外見、表向きのイメージ、テクスチャ(質感)、外に出るもの、飾り、名前を手掛かりに連想します。
- リンゴの外見は、皮、赤、つやつや、ワックス、頭をケガしたときにかぶるような網……
- リンゴの表向きは、人気、デザート、贈答品、「Apple」のマーク……
- リンゴのテクスチャは、つるつる、しまのような模様、赤と白のグラデーション、光沢……
- リンゴの外に出るものは、種、むいた後の皮、ジュース、甘い香り……
- リンゴの飾りは、ワックス、袋、贈答品のときの包装や網、芯と葉っぱ1枚……
- リンゴという名前から、リンゴ・スター、ハイヒールリンゴ、隣国、ビンゴ……
まとめ
アイデアは要素と要素の組み合わせという話でした。要素は分解する連想で得られ、組み合わせは要素と要素を合成する連想から成ります。つまり、「アイデアは連想でできている」と言えます。そのため、アイデアの量はテーマについての連想次第であり、さまざまな視点から連想をすることが望ましいというわけです。
今回紹介したテクニック「箱法」は、さまざまな視点から要素を分解する連想のツールです。知っているだけでも有効ですが、現実のツール同様に練度が求められます。要素を合成する連想も合わせて鍛えることで、アイデアの量と考えるスピードが上がります。
次回アイデアを考える機会のためにも、連想力を日々トレーニングするのはいかがでしょうか。
アイデアの考え方、次回は「反対」のテクニックを使ってアイデアの「質」を高めます。
杉山慎
八楽 新規プロダクトマネジャー
2002年ハードウェア技術者として任天堂に入社。世界累計出荷台数1億台のゲーム機WiiのコントローラーであるWiiリモコンの開発に従事。「Wii U」「Switch」の本体開発に携わった後、2016年に任天堂から独立。スタートアップ・新規事業のプロダクト企画・技術支援をするフリーのエンジニアとなる。
2016年、スタートアップ企業であるAtmophへ技術支援のため参画。初期から開発に携わった「Atmoph window2」は2019年、クラウドファンディングにて8000万円を超える資金を調達。2017年、中西金属工業の新規事業創出のための企業内起業に参画。2019年グッドデザイン賞のBEST100賞を受賞した「Clean Box」に、コンセプト設定、プロトタイピング、開発支援に携わる。
2020年、翻訳ベンチャー企業である八楽に新規プロダクトのプロジェクトマネジャーとして参画。
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