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元任天堂開発者が解説 「反対」のテクニックを使ってアイデアの質を高めるリンゴの反対はダルマ?(2/2 ページ)

新しい価値ある画期的なアイデアは、一見関係のなさそうな事柄を結び付けることで生まれる。その手順は? やり方は?――。WiiやSwitchの開発者が伝授する「アイデアの考え方」、今回は反対のテクニックを使って、イノベーションにつながるアイデアの考え方を学びます。

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リンゴの反対を考える

リンゴを具体例として、手順の詳細を説明します。

1 連想で分解する

 テーマに関して分解連想をします。箱法による連想が便利です。箱法でなくても構いませんが、できるだけさまざまな方向にムラなく連想します。

 具体例としてリンゴの連想は、箱法の説明でご確認ください。

2 特徴度で並べ替える

 テーマを表すような特徴や印象が強い単語を上位にするように、連想した要素を並べ替えます。その要素を失うとテーマを表さなくなるような度合いが高い順で並べ変えるイメージです。リンゴでいうと「果物」や「丸い」という要素です。

 この際、具体性の強い単語は抽象化して、抽象化した単語が重複する場合は省略します。「リンゴジュース」を抽象化すると「ジュース」や「果汁」ですが、これらが特徴的ならば並び替えに追加します。サクランボを抽象化すると果物で、重複するので省略します。

 リンゴの場合、「果物」「丸い」「赤」「つるつる」「ボールサイズ」「食べ物」「人気」「栄養がある」などと要素を並び替えてリストアップできそうです。

3 対義語、隣接語を考える

 抽象度の高い単語は対義語を考えやすい、という性質を利用して、リストアップした単語の対義語を考えます。例えば果物の対義語はありませんが、強いて言えば「野菜」です。果物はリンゴよりも抽象的なので対義語が考えやすい、というわけです。

 以下は、反対の記号を「⇔」として、リンゴについてリストアップした要素の対義語です。

  • 果物⇔野菜
  • 赤⇔白、青、緑
  • 丸い⇔四角い
  • つるつる⇔でこぼこ、ざらざら
  • ボールサイズ⇔とても大きい、小さい
  • 食べ物⇔食べられない物
  • 人気⇔不人気
  • 栄養がある⇔体に悪い

 また、リストアップした要素に隣接するような単語を考えます。少し抽象化して近い単語を考えるイメージです。「赤」を抽象化すると「色」です。「赤」に近い「色」を考えると、オレンジ色や茶色があります。つまり、赤の隣接語はオレンジ色や茶色というわけです。

 以下は、隣接の記号を「≒」として、リンゴについてリストアップした要素に隣接する単語です。

  • 果物≒野菜(隣接でも反対でもある)
  • 赤≒オレンジ色、茶色
  • 丸い≒ラグビーボール型
  • つるつる≒てかてか
  • ボールサイズ≒ビー玉サイズ、ボーリング玉サイズ
  • 食べ物≒飲み物
  • 人気≒たまに人気、少し人気
  • 栄養がある≒体に良い

4 連想で合成する

 ここまでで、「2」でリストアップした特徴を表す要素、「3」でリストアップした対義語、隣接語の準備ができました。これらを組み合わせて合成連想をします。この合成連想した結果の言葉がテーマの反対というわけです。

 以下は、合成の記号を「×」として、リンゴの反対の例です。

  • 果物×茶色×ボールサイズ⇒梨
  • 野菜×赤×ボールサイズ⇒トマト
  • 果物×オレンジ色×ボールサイズ⇒ミカン
  • 果物×緑×ボールサイズ×つるつる⇒青リンゴ
  • 果物×赤×でこぼこ⇒いちご
  • 果物×赤×ビー玉サイズ⇒ブドウ、サクランボ
  • 果物×赤×ボールサイズ×体に悪い⇒毒リンゴ
  • 食べられない物×赤×丸い⇒だるま

 組み合わせは膨大にあるので、無数に反対が考えられます。そのため、元の言葉と反対の言葉の距離感が適切かを考えて絞ります。距離感は直感的に判断することもできますが、センス次第といえます。センスに自信がない場合は論理的に考えて補うことが有効です。

 例えば、リンゴの反対として青リンゴを挙げました。しかし2つの距離感が近い、つまりそれぞれの特徴が重複し過ぎて、反対というより隣接していると個人的には感じます。逆に、だるまはリンゴの主要な特徴である果物の特徴を持たないので、遠過ぎるように感じます。トマトも果物でないので同様です。

 また、言葉の心象は、その人の生活に頻繁に現れるかどうか、つまり文化で大きく変わります。一般にはリンゴはスーパーマケットで見かけることが多いと思いますので、日本のスーパーマーケットでの売り場面積や販売期間で考えてみます。そうすると、反対として挙げたものの中でリンゴの反対は「ミカン」が最も適当そうです。

まとめ

 アイデアを考えるテクニック「反対」の説明は以上です。反対は、対義語とは異なり1つの単語に複数存在し、特徴的な属性の対義になる要素の数が多いほど反対度が高い、という特徴を持つという話でした。質のいいアイデアには、意外性のある組み合わせが必要です。意外性を生み出すのには、今回の反対のテクニックが有効であることがつかめたのではないかと思います。

 また、リンゴを例に反対を考え出す手順も説明しました。抽象度が高いと対義語を考えやすい性質を利用し、抽象要素に分解して一部を対義にして組み合わせるという手順です。

 リンゴの反対はミカンと結論しましたが、最もふさわしいとは思えない人もいるでしょう。反対を考える場合、多くの人が納得すれば広いセンスがあることになります。逆に、センスがとがっていて多くの人が納得しなくても特定の人に深く刺さるような場合もあります。どちらが良いか悪いかではなく、広いセンスもとがったセンスもどちらも鍛えられる能力なので、センスを磨き続ける姿勢が大切です。



 アイデアの考え方、次回は実践編です。連想と反対のテクニックを使って、「きのこの山/たけのこの里」の対抗勢力のアイデアを考えます。

杉山慎

八楽 新規プロダクトマネジャー

2002年ハードウェア技術者として任天堂に入社。世界累計出荷台数1億台のゲーム機WiiのコントローラーであるWiiリモコンの開発に従事。「Wii U」「Switch」の本体開発に携わった後、2016年に任天堂から独立。スタートアップ・新規事業のプロダクト企画・技術支援をするフリーのエンジニアとなる。

2016年、スタートアップ企業であるAtmophへ技術支援のため参画。初期から開発に携わった「Atmoph window2」は2019年、クラウドファンディングにて8000万円を超える資金を調達。2017年、中西金属工業の新規事業創出のための企業内起業に参画。2019年グッドデザイン賞のBEST100賞を受賞した「Clean Box」に、コンセプト設定、プロトタイピング、開発支援に携わる。

2020年、翻訳ベンチャー企業である八楽に新規プロダクトのプロジェクトマネジャーとして参画。


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