契約書にも民法にも書かれていませんが、「義務」なので履行してください:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(106)(1/3 ページ)
担当者の急逝によって所在が分からなくなったソースコードを引き渡せとせまられたベンダー。契約書に記載されていない納品物を渡す義務は果たしてあるのだろうか――。
契約に存在する「見えない義務」
仕事の契約には契約書が存在する。契約書に記載された条項を守らなければ、契約を解除されたり受け取るべき費用を減額されたりすることがあり得る。では契約書の内容を順守してさえいればいいのかというと、そういうわけでもないのがソフトウェア開発だ。
例えば、納入したソフトウェアに不具合が見つかれば修補しなければならないという「契約不適合責任」などは、契約書に規定していなくとも受注者が負うべき責任として民法の条文に書かれている。契約書というものは本来、受注者と発注者が特に取り決めることについて記載するもので、民法上の責任は契約書に書かれていなくとも存在する。
さらに、契約書にも民法にも書かれていないが、仕事の実態上受注者が果たさなければいけない「義務」というものも存在する。
今回は、この義務について争われた裁判を紹介する。まずは事件の概要を見ていただこう。
東京地方裁判所 令和4年3月15日判決より
あるITベンダーX(以下「元請け企業X」あるいは「X」)が、別のベンダーY(以下「下請け企業Y」あるいは「Y」)に対して、自身が開発を請け負った姿勢計測システムの開発の一部を発注した。
下請け企業Yは、これを順次開発して段階的に納品したが、開発中にYの従業員で本件開発にほぼ1人で携わっていた従業員Aが死亡したため、開発が続けられなくなった。
XはそこまでにYが製作したソフトウェアの納品は受けていたが、一部の最新ソースコードは納品されていなかった。Xとしては本件ソフトウェアを今後も継続的に改善し続けていく予定であったが、最新のソースコードなしには、そうしたことができない。ところが、従業員Aが死亡したこともあり、Yにも最新のソースコードの所在は分からない状態であった。
このためXは、ソースコードの納品がないことはYの不履行であるとして一部代金の返還などを求めて訴えを提起したが、Yは「そもそも契約書には実行形式ファイルを成果物とする旨は書かれているが、ソースコードは成果物ではなく納品の義務はなかった」と反論した。
出典:出典ウェストロージャパン 文献番号 2022WLJPCA03158015
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