兄が私を技術の世界に連れて行ってくれた:Go AbekawaのGo Global!〜Pachpind Mayur Annasaheb(前)(2/2 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はインタースペースでエンジニアとして働く、Pachpind Mayur Annasaheb(パッチピンド・マユール・アンサヘブ)さんにお話を伺う。インド生まれのマユールさんが日本の会社に入ってびっくりしたことは「ランチを1人で食べている人がいること」だった。
我らエンジニア一家!
阿部川 大学は、プネー大学(現サヴィトリバイ・プーレ・プネー大学)のシュリマティ・カシバイ・ナヴァレ工科大学(Shrimati Kashibai Navale College of Engineering)に進学します。なぜこの大学を選んだのですか。
マユールさん 教育が充実していることと就職率が高いことですね。インドには幾つか、そういう点で有名な大学があります。プネー大学は、その中でも優秀な大学の一つだと思います。
大学進学を希望する学生は試験を受けて、試験結果で応募できる大学が決まるのですが、私は幸運にも良い成績が取れたので希望するプネー大学に入学できました。ちなみに兄もプネー大学のサンガムネカレッジ出身です。
阿部川 インドでは、大学内での競争がとても激しいと聞いています。優秀校を卒業された2人は、ご両親にとって自慢のご子息でしょうね。
マユールさん はい。実は兄の奥さんも、私の家内もエンジニアでして。一家全員エンジニアで、両親もとても喜んでいます。
阿部川 それはすごい! インド映画では、エンジニアとお医者さまが成功の証しとして描かれていますからね。大学ではどのようなことを学びましたか。
マユールさん 非常に広い範囲のテクニカルスキルと、エンジニアリングに直接関連する技術を学べました。例えばJavaやC、データベースマネジメントシステムなどです。また、複雑なアプリケーション開発に必要な知識も得られました。プロジェクトマネジメントやデベロップメント手法を学べたことも良かったです。今日のアジャイルコンピューティングの理解へとつながりました。
ただ一番大切なことは、ハンズオン(実際に自分の手で動かすこと)で、さまざまなプロジェクトを学べたことだと思います。私の学科ではシンプルなソフトウェアの開発に代表されるようなプロジェクトを行い、かなり複雑なシステムに対しても、どのように対処すればよいかを自信を持ってできるようになりました。
阿部川 アカデミックな勉強も実務的な経験もかなりたくさん積んだのですね。ハンズオンを学生だけで手掛けるなどは大変良い経験になりますよね。
編集鈴木 最近、「無職の大卒(原題:Velaiyilla Pattathari)」という映画を見ました。この映画によると、インドで土木工学科を学んだ人は(IT系ではないので)就職が難しい、と。インドではIT系の大学にいけば容易に就職できるそうですが、ITを好きでなくとも就職のために勉強する、といった傾向はありますか。
マユールさん 残念ながら、ありますね。ITであれば多くの就職先がありますし、給与も悪くない。皆、やはり良い生活がしたいですから、「IT=良い仕事」といった見方があります。ですから多くの人が、興味がなくともITを勉強しようとします。
編集鈴木 マユールさんはどうですか。
マユールさん もし兄がエンジニアリングに誘ってくれなかったら、そのような人たちと同じだったかもしれません。兄が基本を教えてくれたから、しっかり学べるようになったのだと思います。
鈴木 お兄ちゃんにサンキューですね。
インド人、1人でごはんを食べない
阿部川 大学卒業後は、どちらに入社したのですか。
マユールさん プネのNTTデータに入社し、開発者として2年ほど仕事をしました。次の2年は富士通コンサルティングインディアに勤めました。
阿部川 新卒時に日本の企業を選んだのは、なぜですか。
マユールさん 就職フェアのイベントで大学にNTTデータの人が来たんです。NTTデータで働いたことで日本のことを深く知ることででき、日本の技術はもちろん、日本そのものに興味が湧くようになりました。
阿部川 インドの労働環境に身を置きながら、日本の企業の仕事の仕方も学んだのですね。インドと日本、労働環境について大きな違いはありますか。
マユールさん インドは大きな国なので、州によって異なりますし、企業によっても異なります。ただ日本と同様、立場やヒエラルキーといったものは根強くあります。チームワークやコラボレーションを重視するところは似ているかもしれません。
インドでは、同僚や顧客ととても強い関係を構築することを大切にしていますし、それが成功の秘訣(ひけつ)でもあります。ランチやちょっとした集まりなどのイベントに出席して知り合うことが大事で、そのような機会は日本よりもずっと多くあります。人と人のつながりを重視するところは日本よりも強いと思います。インドの人は毎日ランチを必ず誰かと一緒に行きます。1人で食べる人はいません。
コロナ禍前には、ワークライフバランスといった考え方はあまり一般的ではありませんでしたが、今は少しずつ変わってきています。それは日本も同じかとは思います。日本で働き始めたときは1人でランチを食べている人をたくさん見ましたが、現在は少なくなっていると思います。
阿部川 みんなと1人、どちらの方がリラックスできますか。
マユールさん もちろん、みんなで一緒に食べる方がいいですね。会話をすればお互いを理解できますし、お互いに何を問題に思っているかなどが分かります。これはとても重要なことだと思います。現在の私のチームは、ベトナム、フィリピン、中国、など多国籍ですから、少しでも話すことはお互いの理解に本当に役立ちます。
阿部川 そうでしょうね。私たちが互いをよく理解できるのは、その単語やフレーズのもとになっている、文化的な背景も一緒に理解するときですものね。たとえ同じ単語を使ったとしても、その意味するところは違ったりしますよね。ランチなどの機会はこれを理解する大切な機会ですね。チームワークをよくするためのコツはどこで学んだのですか。子どものころからそうやってきたのでしょうか。
マユールさん 主に大学ですね。プロジェクトをチーム単位で行うときに学びました。NTTデータでもそういう機会はありましたので、その度ごとに理解が深まっていったのだと思います。
インドで成功するにはエンジニアか医者が近道なため、「就職のために嫌々勉強する」という人もいる。しかし、マユールさんは違い、学ぶことそのものを楽しんでいる。それは尊敬でき、優しく導いてくれた兄の存在が大きかったに違いない。後編は日本での仕事と、将来の夢について。
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