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日本人は「なぜこのコードを書いているのか」をおろそかにしがちGo AbekawaのGo Global!〜Paul McMahon(後)(2/3 ページ)

グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回もTokyoDevを運営する、Paul McMahon(ポール・マクマホン)さんにお話を伺う。多くの企業と国際的なソフトウェアデベロッパーをつないできた同氏が語る「日本企業が海外のソフトウェアデベロッパーを欲しがる理由」とは。

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海外のソフトウェアデベロッパーは「最初の仕事に就くこと」が難しい

阿部川 それは、とても素晴らしい経営哲学、他の言葉で言えばミッションや、ビジョンといった企業の最も大事な、核となる考え方だと思います。

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阿部川 “Go”久広

ポールさん ありがとうございます。TokyoDevの仕事には大変やりがいを感じています。明確なミッションステートメントもあって、それは「国際的なデベロッパーを育成する。そのための経験は日本で積んでもらう」というものです。私たちはFacebook(Meta)もTwitter(X)もやってはいませんからインパクトは小さいかもしれませんが、それ以上に多くの人々に情報を届けることができる。言い換えれば、TokyoDevは少ない人数で大きなインパクトを市場に与えられると考えています。

阿部川 TokyoDevの活動を通じて、さまざまな海外のデベロッパーとやりとりされていると思いますが、日本で活躍する海外出身のデベロッパーは増えているんでしょうか。

ポールさん 増えていると思いますよ。私が来日した当時は、日本語がある程度話せても、外国人のデベロッパーを雇用するなんて考えられませんでした。しかしここ5年くらい(2018年から2023年くらい)で、大手企業やスタートアップで外国人デベロッパーの需要が増えていると感じます。

 インターナショナルに活躍できるデベロッパーにとってはたくさんの機会が提供されるようになったと思いますし、この傾向は、今後も変わらないと考えています。日本のデベロッパーを雇うよりも外国人のデベロッパーを雇うことが企業にとってアドバンテージになると思います。

阿部川 おっしゃる通りだと思います。2年前(2021年)の東京オリンピックのときに「20万人のエンジニアが不足する」といった話がありましたが、日本で仕事をしている外国籍のエンジニアの助けを借りれば、この数字は劇的に変わるはずです。ちなみに外国から来たデベロッパーにとって、一番大変なことは何だと思われますか。言葉ですか、スキルですか、文化ですか。

ポールさん 一番難しいのは、「最初の仕事に就くこと」です。ということは、日本語が話せなくても問題ないという日本の企業は、世界中のデベロッパーの中からえり好みできるということです。デベロッパーの視点でいえば、一度日本の企業に入ってしまえば、たとえ日本語がそれほどうまく話せなくとも、スキルがあればより多くの機会に恵まれるわけですから、大きなメリットがあります。

 一方、日本に来て働きたいという海外のデベロッパーは比較的若く、経験が少ない人が多いので、企業側としては雇用に踏み切れないということもあるでしょう。

人々に価値を提供することの意味を考えてほしい

阿部川 日本のデベロッパーに対してアドバイスはありますか。

ポールさん 1つは「ジェネラリストになることに挑戦してほしい」です。

 幾つかの日本企業に実際に聞いたことがあります。日本の企業が、日本のデベロッパーではなく、外国籍のデベロッパーを雇用したいのはなぜでしょうかと。すると「彼らがジェネラリストだから」と答えました。日本のデベロッパーは専門性が高く、特定の分野についてはとてもうまく対処できるのですが、実は、特にスタートアップ企業などが求めているのは、ある意味どんなことでも対処できるジェネラリストです。海外のデベロッパーの方がそれにすぐに対応できると言っていました。だからジェネラリストになれるよう挑戦してほしいと思います。

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学生時代のポールさん。優雅ですね

 もう1つは「ソフトスキルを大切にしましょう」です。

 ハードに関するテクニカルスキルも重要ですが、企業により貢献できるのはソフトスキルだと思います。プログラミングやコードを通じてコミュニケーションする能力に加えて、通常の言語でのコミュニケーションができれば、もっと良いですよね。ソフトウェアの開発は、グループによる作業ですし、要求されていることは何か、などをしっかりやりとりできないといけません。なぜこのコードを書いているのか、という本質的な問いをもち、自信を持って自らの意見を通してほしいです。

 こうした“問い”は日本ではあまり重要視されないかもしれません。しかし、仕様書や要求書通りにやってくれと言われたとしても例えば「この方法でやるのは難しいが、仕様を一部変えてこの方法でやると、もっと良い結果を出せます」と提案できるケースはあります。ただ単に言われた仕事を淡々とこなすのではなく、積極的にこのような問題提起をもっとしてほしいと思います。

阿部川 言い変えると“開発の目的”ですね。コードを書くことが目的ではなく、良いサービスを提供することが目的ですから。

ポールさん おっしゃる通りです。それをよりよく理解できれば、より高価値をデベロッパーとしての提供できます。芸術的に美しいコードを書くことよりも、人々に価値を提供することの意味を考えてほしいと思います。


編集中村
編集 中村

 私がエンジニア時代は逆に「スペシャリストになれ」といったことをよく言われました。でもよくよく考えてみると、きっとそれは「何でも“平均的に”できるだけでは不十分」という意味で、ポールさんの言うジェネラリストはきっと、「何でも“ハイレベルに”できる人」を指しているのかな、と思いました。


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