Windows Server 2012/2012 R2のESUに“抜け道”なし――サポートが終了したOSをセキュアに保つ正規の方法とは:検証! Microsoft&Windowsセキュリティ(9)
Windows Server 2012/2012 R2に対して「拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)」を通じて提供される「セキュリティ更新プログラム」は、Microsoft Updateカタログから誰でもダウンロード可能です。しかし、それをインストールするには“ESUを利用する権利”が必要です。ESUを知らずにセキュリティ更新プログラムを入手、インストールした場合、どうなるのでしょうか。検証してみました。
ESUを利用するにはインスタンスをAzureに移行するか、ESUを購入する必要あり
2023年10月10日に製品サポートが終了した「Windows Server 2012/2012 R2」に対しては、1年目の「拡張セキュリティ更新プログラム(Extended Security Update、ESU)」が提供されています。
ESUは最大3年間利用可能で、2026年10月までWindows Server 2012/2012 R2のセキュリティ更新プログラムを受け取ることができます。ESUは「SQL Server 2012」にも用意されており、2023年7月から2年目のESUが提供されています。Windows Serverの場合は「緊急」または「重大」と評価されているセキュリティ問題が、SQL Serverの場合は「緊急」と評価されているセキュリティ問題が対象になっています。
ESUは「Microsoft Azure」(以下、Azure)上のインスタンス(Azure VM《仮想マシン》にインストールされているインスタンス)には無料で提供され、Azure以外(オンプレミスの物理/仮想マシン、他社クラウド上のインスタンス)には「Windows Serverソフトウェアアシュアランス(SA)」契約者に対して販売されています。ESUは年単位で購入する他、「Azure Arc」を通じた月次サブスクリプションでも利用できます。
- Windows ServerおよびSQL Serverのサポート終了に備える(日本マイクロソフト)
Windows Server 2012/2012 R2でESUのセキュリティ更新プログラムを受け取るには、「ESUライセンス準備パッケージ(KB5017220またはKB5017221)」をインストールする必要があります。
Azure上のインスタンスは、そのまま「Windows Update」や「Windows Server Update Services(WSUS)」を通じてESUのセキュリティ更新プログラム(Monthly Rollup)を受け取ることができます(画面1)。Azure以外の場合は、さらにESUの購入と「ESUライセンスキー」の入手、ESUライセンスキーのインストールが必要になります。いずれにも該当しない場合は、ESUの更新プログラムは提供されません(画面2)。
画面1 Azure上のWindows Server 2012 R2インスタンスには、Windows Updateを通じて2023年11月のセキュリティおよび品質ロールアップ(.NET Framework用およびWindows Server用)が提供された
画面2 ESUを利用できないWindows Server 2012/2012 R2には、2023年11月以降のセキュリティ更新プログラムは提供されない。2023年10月のものが最後のセキュリティ更新プログラム
Windows Server ESUの更新プログラムパッケージはダウンロード自由だけど……
Windows Server 2012/2012 R2に対し、ESUを通じて毎月リリースされるセキュリティ更新プログラムは、「更新履歴(update history)」のWebページで確認できます。
- Windows Server 2012 update history[英語](Microsoft Support)
- Windows 8.1 and Windows Server 2012 R2 update history[英語](Microsoft Support)
各更新プログラムのリリース情報を見ればすぐに分かりますが、更新プログラムの「Microsoft Updateスタンドアロンパッケージ(.msu)」は「Microsoft Updateカタログ」サイトから誰でもダウンロードできます。
ちなみに、SQL ServerのESUのセキュリティ更新プログラムは、Microsoft Updateカタログでは公開されていません。Azure上のインスタンスの場合は、Windows Updateを通じて提供され、Azure以外のインスタンスの場合は「Azureポータル」にSQL Serverを登録し、ダウンロードリンクを入手する必要があります。
ESUなしでESUの更新プログラムのインストールを試みることは“時間の無駄”
Windows Server 2012/2012 R2のサポート終了は知っていても、ESUをよく知らず、ESU前提の更新プログラムのリリース情報にたどり着いた人の中には、月次更新プログラムがまだ利用可能と勘違いし、ダウンロードとインストールを試みるかもしれません。そうした場合、いったいどうなるのか、実際にやってみました。
Microsoft Updateカタログサイトから「2023年11月のWindows Server 2012 R2のセキュリティ更新プログラム(KB5032249)」のパッケージをダウンロードして実行してみると、インストールがブロックされたり、エラーになったりすることなく、「インストールの完了」まで進みました(画面3)。
「今すぐ再起動」をクリックして再起動すると、何度か再起動を挟んで「更新プログラムを構成しています」の画面で進捗(しんちょく)が90%以上進み、もうすぐ100%というところで「Windows更新プログラムを構成できませんでした 変更を元に戻しています」と表示され、更新前の状態にロールバックされてしまいました(画面4)。
ロールバック後、Windows Updateの「更新履歴」や「イベントログ(システム)」を確認すると、「0x800F0922」エラーで失敗したことが記録されていました(画面5)。
Windows Server 2012でも「2023年11月のWindows Server 2012のセキュリティ更新プログラム(KB5032247)」のインストールを試みましたが、Windows Server 2012 R2と同様、更新プログラムのインストールがロールバックされ、「0x800F0922」エラーで失敗したことが記録されていました(画面6)。
さらに、Windows Server 2012 R2の「2023年11月の.NET Frameworkのセキュリティ更新プログラム(KB5032001)」も試してみましたが、3つある更新プログラムのうち再起動を要求しなかった2つはインストール最終段階に失敗し、1つはインストール完了後の再起動中にロールバックされ、いずれも「0x800F0922」エラーを報告していました(画面7)。
今回検証に使用したのは、2023年10月まで何の問題もなくWindows Updateで更新できていたWindows Server 2012/2012 R2のHyper-V仮想マシンであり、ESUは購入していません。全てインストールの最終段階に「0x800F0922」エラーで失敗するということが再現されたため、Windows Update自身のトラブルではないことは明らかです。ESUを購入していない(または、利用していない)Windows Server 2012/2012 R2に、ESUのセキュリティ更新プログラムをインストールしようとしたことが理由と考えて間違いないでしょう。
今回の検証は、ESUをよく知らない人向けに、一見、利用可能なセキュリティ更新プログラムでも、“ESUなし”では利用できないことを示すためのものです。ESUの更新プログラムをESUなしでインストールする抜け道を探しているわけではありません。「0x800F0922」エラーを解消しようとして、無駄に時間を費やさないよう願います。どうしてもESUのセキュリティ更新プログラムが必要なら、Azureに移行するか、ESUを購入しましょう。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2024(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Windows 11登場! 11で変わること、思ったほど変わらないこと
新しいWindows OS「Windows 11」の正式出荷が2021年10月5日に開始された。Windows 10からの無償アップグレードが可能であるため、どのような新機能が実装されたのか気になる人も多いのではないだろうか。そこで、本稿ではWindows 11の新機能、削除された機能などを簡単にまとめてみた。 - Windows 11一般提供開始、企業での導入/展開時に注意すべきポイントは?
MicrosoftはWindowsデスクトップOSの最新バージョンである「Windows 11」を正式にリリースし、Windows 11対応ハードウェアを搭載したWindows 10デバイスに対して、無料アップグレードの段階的なロールアウトを開始しました。 - 買って、試して分かったWindows 365(契約・セットアップ編)
Microsoftからクラウド上でWindows 10が動く「クラウドPC」の利用可能なサブスクリプションサービス「Windows 365」の提供が開始された。早速、サブスクリプションを契約し、クラウドPCの設定を行ってみた。契約からセットアップまでで見えてきた便利な点、不便な点などをまとめてみた。 - いよいよ完全終了へ。Internet Explorer(IE)サポート終了スケジュール
長らくWindows OSに標準装備されてきたInternet Explorer(IE)。その「寿命」は各種サポートの終了時期に左右される。Windows OSごとにIEのサポート終了時期を分かりやすく図示しつつ、見えてきた「終わり」について解説する。