ソフトウェア開発者が自身の業績評価を最大限に生かす6つのヒント:「ソフトウェア開発者のキャリアを決めるのは自分自身」
可能な限り苦痛なく業績評価を最大限に生かすためのヒントを6つ紹介する。
一般的に、企業では少なくとも1年に1回は業績評価がある。だが、業績評価を心から楽しんでいる担当者はめったにいない。上司の大半は否定的な評価を下すことを快く感じていない。また、従業員も否定的な評価を受け入れるのは難しい。批判をせず、良いことだけを話すのであれば、業績評価など時間の無駄だと感じるだろう。
本稿では、可能な限り苦痛なく、専門的に業績を評価するためのヒントを6つ紹介する。
- 業績評価のプロセスには欠陥があることを受け入れる
- 業績評価の準備を1年を通じて行う
- 否定的な評価を受けた場合は慎重に耳を傾ける
- 業績改善の計画を理解して実施する
- 肯定的な業績評価が下されたときはその詳細を求める
- 自身のキャリアは自身がコントロールできることを忘れない
業績評価のプロセスには欠陥があることを受け入れる
業績評価のプロセスには幾つか問題がある。そう語るのは、米国ワシントン州レドモンドを拠点に技術系キャリアの指導者として活動するカルロス・ガルシア・フラド・スアレス氏だ。同氏は機械学習を中心とする研究に重点を置くソフトウェアエンジニアでもあり、独立系の寄稿者としても活動している。また、大手テクノロジー企業数社とスタートアップ企業1社でマネジャーとしての役割も務めている。
何よりもまず、業績評価のプロセスは主観的なものだと同氏は指摘する。例えば、1人の管理職が2つの異なるプロジェクトで働く2人の部下を評価する場合、それぞれのプロジェクトに求められる難易度を基準に両者の貢献度の質を比較するのは難しい。
また、開発者の業績を以下のような物理的指標に基づいて評価することにも問題がある。
- 記述したコードの行数
- 寄稿したコードの数
- 解決したチケットの数
こうした指標に基づく評価は、誤った行動を取らせたり、さらには誤った行動を助長したりする可能性があるとスアレス氏は指摘する。例えば、記述したコード行数を基に業績を測定すれば、無駄なコードを記述しないことが大切なのに、大半の開発者は高い評価を得るためにコード行数を増やそうとするだろう。「ソフトウェアエンジニアは、指標に合わせて最適化することに非常に長けている」と同氏は語る。
業績評価の背景には、評価に影響を及ぼす力学もある。大半の企業は、賞与、昇給、昇格(昇給にも関係)というかたちで業績評価と報酬を結び付けている。そこには、1〜5段階のスコアを割り当てる査定システムが関係することが多い。スコアは全て、複数の上司やチームが共有し、限られた予算の範囲内で振り分けられるのが一般的だ。
こうした査定システムは、管理職の立場を難しくする。管理職Aは、チームの全員が最高スコア5に値し、全員がその評価に見合う報酬を受け取るべきだと考えるかもしれない。管理職Bも管理職Cも自身が監督する開発者に対して同じように感じるかもしれない。ただし、予算には限りがあるため、管理職全員が自身の部下全員に最高スコアを与えることはできない。
「ほとんどの場合、最終的に報酬を振り分けなければならなくなる。そのためには、非常に高く評価する部下と低く評価する部下を分けてバランスを取るか、全員を平均点で評価することになる」(スアレス氏)
業績評価の準備を1年を通じて行う
業績評価が低く、部下がその評価に驚くとしたら、上司が業績評価を定期的に部下に伝えていないか、部下が評価を定期的に求めていないかのいずれかだ。
こうした状況を避けるため、部下は積極的に行動し、定期的(理想としては6〜8週間ごと)に上司に評価を求めるよう、スアレス氏は開発者に勧めている。定期的な評価は、改善が必要な分野に部下が力を注ぐのに役立つだけでなく、自己評価の筋書きを書くためにも役に立つ。
「定期的な評価は期待値を高めることにもつながる。1年を通じて『よくやっている』という評価を下していたら、業績評価を下げるのは難しくなる」(スアレス氏)
肯定的な評価を受けるたびに、上司から伝えられた評価内容と1年の中での貢献内容をドキュメントに記録することをスアレス氏は勧める。「大半の企業は、業績評価の際に自己評価を行い、その評価を裏付ける資料を提示するよう求める」と同氏は語る。だが、業績評価に貢献する評価を受けたとしても、数カ月前のことなど簡単に忘れてしまう。
否定的な評価を受けた場合は慎重に耳を傾ける
否定的な業績評価は、次のようにさまざまなかたちで知ることになる。
- 昇進を期待していたのに昇進できなかった
- 業績の低下が伝えられるか、改善すべきスキルまたは取得すべきスキルが伝えられる
- 業績が極めて低く、業績改善計画(PIP:Performance Improvement Plan)に加えられたことが伝えられる
- 従業員が予測していなかった上記のいずれかあるいは全ての組み合わせ
否定的な評価が伝えられ、それを意外だと感じる場合は、上司の話に注意深く耳を傾ける。「心を閉ざし、耳をふさぐのは実に簡単だ。難しいかもしれないが、まずは話に耳を傾け、その評価を理解するよう努めてほしい」とスアレス氏は語る。
米国ボストンを拠点にキャリアおよびエクゼクティブコーチとして活動するタミー・グーラー・ローブ氏によると、否定的な評価を下され意外に感じる人は、どうすればよいか分からなくなってしまうことが多いという。こうした状況に陥ったソフトウェア開発者は、一歩下がって、自身がコントロールできる要素を試すことを同氏は勧める。
「次に取るべきステップを幾つか考えてみるべきだ」と同氏は語る。そうすることで、前に進むために必要な話し合いのきっかけを見つける基礎演習になる。実際には、新たなトレーニングを要請する機会や、指導者を見つけるのに役立つ機会がもたらされる可能性がある。
上司からパフォーマンスを上げる必要があると言われたら、1カ月、3カ月、6カ月後にあるべき自身の姿を上司に尋ね、その目標を実現するためのスケジュールを立てる。
「ベンチマーク、行動など具体的に測定可能な目標を定め、それに向かって行動する」(ローブ氏)
業績改善計画(PIP)を理解して実施する
最悪なのは、評価があまりにも低く、PIPが立てられる場合だ。通常は、この時点で別の仕事を探し始めるのが得策だとスアレス氏は語る。従業員の解雇を考える企業は、不当解雇の訴訟を回避するために、PIPを立てることが多い。
それでも、PIPを受けた従業員が事態を好転できる可能性はある。だが、それは部下と上司の関係に大きく左右されるとスアレス氏は話す。
「上司は助けようとしてくれているのだろうか。それとも、何らかの区切りをつけようとしているのだろうか。その点をしっかりと読み解く必要がある」(スアレス氏)
上司が真剣に支援を申し出ていると判断したら、この機会を利用して上司に定期的な評価を依頼し、改善に向けての行動を起こす。
とはいえ、こうした事態に陥った従業員は、結局のところ。自身は本当に優れた仕事ができるかどうかを真摯(しんし)に自問する必要がある。
「適切なスキルや能力がなく、極度にストレスを抱えているのであれば、事態を好転させるのは極めて難しいかもしれない。これまでスキル面で苦労していたり、同僚の貢献レベルに追い付くのに苦戦しているのであれば、間違った仕事に就いているのかもしれない」(スアレス氏)
その場合は、今後自身にとって適切な仕事は何なのかを考える方がよい。上司との関係が良好ならば、上司の協力を得て、自身のスキルにあった仕事を探してはどうだろう。
肯定的な業績評価が下されたときはその詳細を求める
上司は肯定的な評価を下しても、評価の内容を必ずしも詳しく説明するとは限らないとスアレス氏は語る。部下が改善方法を尋ねても、その答えは役に立たないことが多い。「君はうまくやっている。そのまま続けなさい」
キャリアアップを目指すなら、もっと直接的な質問をして、自身の業績を評価するべきだとスアレス氏は述べる。評価についてもっと細かい説明を上司に求める。例えば、今のまま1つ上の職位に就いたとしたら、評価はどのように変わるかを上司に尋ねる。「これは、昇進するためや、自身を新たなレベルに引き上げるのに役立つ質問だ」と同氏は語る。
自身のキャリアは自身がコントロールできることを忘れない
業績評価プロセスには欠陥があり、上司が定期的かつ十分に業績を評価しないことは多い。だが、ソフトウェア開発者のキャリアを決めるのは自分自身だとローブ氏は話す。評価の説明がなく、必要なサポートが得られないのであれば、それを自身で手に入れる。
「自分の役割、仕事、運命は自分ではコントロールできないと考える人は多い。自身の専門的成長と自身の軌跡に責任を負っていないと感じるなら、まずは四半期ごとの目標の確認を上司に求めることから始める。自分の責任を負うのは会社ではなく自分自身だ」(ローブ氏)
その要請を上司に断られたら、自身が成功したと認識している点と改善が必要だと思う点を文書にして上司の意見を求める。「そうしたことは自分自身で責任を持てるプロセスだ」と同氏は話す。
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