マネジメントも大切だけど、プログラミングを完全に手放すことはきっとない:Go AbekawaのGo Global!〜韓さんFrom韓国(後)(2/2 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。前回に引き続き、アイディスでゲーム開発のプログラミングとマネジメントを担う、韓相恩(ハン・サンウン)さんにお話を伺う。新人にまず伝えるのは「ゲーム以外の趣味を持って」だという。その真意とは。
なぜ「ゲーム以外の趣味」が大切?
阿部川 ゲーム業界で働いてきて、エンジニアとして「こうしていればよかった」といったことはありますか。
ハンさん 難しいですね、何といえばいいのか……。新卒で入社した人によく言っているのは「ゲーム以外にも趣味を持った方がよい」ということですね。ゲームが仕事になるので、仕事で疲れて家に帰ってゲームしかやることがないとつらいですから。家でも会社でもずっとゲームだと飽きてしまうという面もありますし、本当に疲れたときはモニターを見ているのもつらくなります。
「好きなものを仕事にしてよいのかどうか」という問いですね。この問いに明確な答え(万人が納得する答え)はありませんが、個人的には「逃げ道があるかどうか」だと考えています。つらいときは部屋の電気をつけることさえ大変に思えるので、そんなときに気持ちを切り替えられる場所や趣味が大切ですね。
阿部川 ちなみにハンさんのゲーム以外の趣味は何ですか?
ハンさん 最近いろいろやっているのですけど、先週末はスカッシュに行きました。
阿部川 いきなりフィジカル。
ハンさん 2024年になってからいろいろ始めました。スカッシュもそうですし、ギターとか、1日体験できるものに参加しています。毎月何か1個体験してみようと思いまして。他には映像の編集もやってみたいですね。
阿部川 先ほどの助言は自分に対するものでもあるわけですね。
ハンさん そうかもしれません。まだ、これだというものには出会えていませんが、やっているうちに、ずっとやりたいものが出てくると思っています。
阿部川 そういうのを探し続けるのは大事ですよね。
エンジニアなら勉強はずっとやっていかないと
編集鈴木 先入観かもしれませんが、ゲームの開発ってシビアで、ちょっとでも不具合があったり止まったりすると、ものすごい勢いでユーザーからクレームが来る、といったイメージがあるのですけれども、ハンさんの今までのゲームエンジニア人生で最大のピンチってどんなことがありましたか。
ハンさん あり過ぎて決められませんね(苦笑)。タイトル画面から進まなくなって、24時間メンテナンスをしていたこともあります。あと、モバイルゲームは修正に時間がかかります。例えば私の担当しているクライアント側の処理であれば、その場で修正してサーバを更新すればいいのですが、その後、モバイルゲームの“再申請”が必要になるのです。審査を出したらこっちは何もできずに待つしかない、それがもどかしいですね。
他にはやっぱり締め切り。締め切りは変わらないのに「こういうのやりたい」「こういうのもやりたい」という要望だけが来て、やらなくちゃいけなくなったこともありました。
編集鈴木 そういうときは徹夜でやっちゃうんですか。締め切りを守るために。会社に泊まり込みするとか?
ハンさん 現在はありませんが、これまでの経験としてはありますね。受託開発の場合は契約があるので絶対に間に合わせないといけませんから、仕方なく徹夜したことはあります。
編集鈴木 何とか契約日に間に合わせて納品したときはどんな気分になるのですか? 解放感なのか「コンチキショー」みたいな気持ちなのか。
ハンさん 解放という感じではないですね。納品後にフィードバック対応が必要になることもあるので「取りあえず1つ乗り越えたけど、次があるから気は抜けない」という感じです。
編集中村 最近は定期的にバージョンアップさせることが当たり前ですからね。ラストクラウディアの韓国語版と中国語(繁体字)版のローカライズを担当されていたとのことですが、ローカライズって単純に翻訳すればいいという感じではないですよね。表現的なところを調整したり、文化的に分かりやすく改変したりすると思うのですが、ラストクラウディアのローカライズで意識したところはありますか?
ハンさん 基本は日本版そのものを展開する感覚だったので、文化的なところはあんまり変えていません。ただ、英語版を作るときには、翻訳で多くなってしまった文章量に合わせて画面のデザインを一部変更しています。
アイディスの方針で「日本の味を出しつつ世界に通用するものを作りたい」というものがあります。そのため、あまりローカライズしなくていいように、最初から世界に通用するような面白さやアクションを考えて作っているんです。文字を直すとデザインが崩れるのはよくある問題ですが、例えば「キャラクターのあるポーズは特定の地域では差別表現になる」といったところは会社としても、ものすごく注意して作っています。
編集中村 なるほど。現地の文化的なところを意識しつつ、文字数の違いによってデザインも考慮されているということですね。
ハンさんの今後についても教えてください。現在モバイルゲームに携わっていますが、今後はどの方向――クロスプラットフォームなのか、PCのゲームに力を注いでいきたいのか、コンシューマーに力を振っていきたいのかといった展望はありますか。
ハンさん いろいろしてみたいと思っているのでプラットフォームでの制限はかけたくないですね。VR(仮想現実)ゲームなどがよい例ですが、今後どういった新しいプラットフォームが登場するのか分からないので。その時代によって遊ばれるプラットフォームでゲームを出せるようにしていきたいですね。
常に勉強し続ける必要はありますが、エンジニアになった以上、勉強は仕事を辞めるまでずっとやっていかないといけないと思っていますので大丈夫です。
Go’s thinking aloud インタビューを終えて
ソウルで、子どものころから、「J-POP」、マンガ、アニメを全身に浴びて育った。大学は迷いなく日本へ。専攻は機械工学だが、プログラミングを夢中で学んだ。その後現在まで、こちらも迷いなくゲーム業界一筋。パズル、RPG、知育、音楽、何のゲームでも手を抜かない。サブリーダーになることでマネジメントの業務も増えたが、ニコニコしながら(過去の)徹夜の話をする。
現在は、各国対応のバージョンにいちいちローカライズしなくとも、世界でそのまま通用するモバイルゲームを開発している。
「コンシューマーゲームと違い、リリースしてからがスタート。そこからブラッシュアップしていくのが楽しい」。これはしばらく、忙しくも楽しい日々が続きそうだ。
阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)
アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 訪問教授 インタビュアー、作家、翻訳家
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学の学部長、教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行う他、作家、翻訳家としても活躍中。
編集部から
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