競争力を左右する企業の「IT調達」は“3極化” 最適な体制構築を進めるポイントとは:IT調達、満足度は約4割
IT部門の人材不足がよりいっそう深刻化する今、Gartnerは「IT調達プロセスのメリットを最大化する取り組みが重要だ」と指摘する。
ビジネスとIT活用が直結している今、IT製品やサービスを比較検討し、導入するIT調達プロセスは、企業の競争力強化や事業のデジタル化推進を担う重要な要素の一つとなっている。Gartnerが国内企業のITリーダーを対象に実施した調査(2025年2月)でも、国内企業のITリーダーの77%は、IT調達を「非常に重要」または「ある程度重要」と回答しており、その重要性は広く認識されている。
一方、IT部門にとってIT調達は大きな課題だ。人材不足がいっそう深刻化する中で、生成AI(人工知能)をはじめとする新技術や業務効率化を目的としたSaaS(Software as a Service)の導入、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の戦略立案といった「攻め」の取り組みを経営層から求められているためだ。こうした状況下で、IT部門のリソースだけでは全てのニーズに応えるのは困難だ。
同調査によると、現在の調達活動に対するITリーダーの満足度は43%にとどまるという。
企業におけるIT調達の在り方は3極化
ITリーダーは企業におけるIT調達業務の在り方について、「IT組織へ集中化すべき」(43%)「事業部門へ分散化すべき」(28%)「集中と分散を併用すべき」(29%)と、3極化している。
集中型のIT調達
IT部門が、全社的な観点を持ちつつIT調達を推進する方式だ。全社的な視点で製品比較やボリュームディスカウントによるコスト最適化が図れる一方、導入期間が長期化したり、事業部門のニーズとの間に乖離(かいり)が生じたりするリスクがある。
分散型のIT調達
個々の事業部門が、目的やニーズに応じてIT調達をする方式だ。事業部門の担当者が直接、製品やサービスを選定、導入が可能になるため、意思決定から導入まで迅速化できる。だが、個々の事業部門が独自の判断でIT調達を推進する場合、IT部門が全体を把握できなくなり、ガバナンス面での課題が生じる。
併用型のIT調達
IT部門が特定のIT調達業務を担い、事業部門も独自にIT調達をする方式だ。それぞれのニーズを生かす選択肢で、バランスが取れているようにも見えるものの、複数の調達ルートが生じることにより、調達業務の重複や同じ機能を持つ別々の製品が複数の部署で導入されるといった非効率化を招くリスクが潜んでいる。
IT調達体制構築の4つのポイント
Gartnerはこれらの調査結果を踏まえ、現在のIT調達プロセスを見直す上で、どのような調達方式を取るにしても、以下の4つに取り組むことが重要だと指摘している。
- IT組織内のIT調達業務を棚卸しし、人材の充足度と調達業務の集中、分散のメリット、デメリットを勘案しながら、IT組織内で実施すべきIT調達業務の優先順位を付ける
- IT組織への調達業務の集中化にこだわらず、IT組織外のリソースの活用可能性を検討し、調達業務の分担/移譲の有効性を非IT組織と精査する
- IT調達業務を非IT組織に分散移譲する場合でも、調達に関する規範やプロセスのガイドライン、製品/サービスのセキュリティ基準などはIT組織主導で策定し、事業組織へ周知/徹底を図る
- 調達先の企業プロファイルや他社実績はもとより、過去の交渉における実績、経験、知見、反省などを組織横断的に共有し参照できるナレッジベースを構築し、価格などの交渉力の底上げを図る
Gartnerでシニア プリンシパル アナリストの弓 浩一郎氏は「IT調達体制の指向に関係なく、メリットを最大化しデメリットを最小化する方策を策定し実行する必要がある。ITのソーシング/調達/ベンダー管理(SPVM)は、特に技術革新が急速に進む時代において、あらゆる組織に不可欠な戦略的な能力であり、重要性が高まっている」と述べている。
経営層はIT調達について「経営者目線を持って取り組め」と抽象的な要求を投げかけるのではなく、自社の競争力を左右するIT調達プロセスをどう変えていくのか、主体的に、あるいはIT部門と協働しながら取り組む必要があるだろう。
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