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Rubyの父 まつもとゆきひろさんが示す、AI時代の若いエンジニアに必要な“4つのスキル”AIは間違えるんですよ(1/3 ページ)

「インデントはスペース2つ」と指定したのに、4スペースで書き出す。バグを指摘しても全く関係ない所をいじり始める。思い込みで間違った場所を修正し続ける。場合によっては大事な編集まで巻き戻そうとする……。だからこそ、AIには人間が必要なんだ。

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 生成AI(人工知能)が進化すれば、エンジニアは不要になるのでは――。現役エンジニアだけでなく、エンジニア志望の学生たちも、こんな不安にさいなまれている。

 プログラミング言語「Ruby」の開発者として知られるまつもとゆきひろさん(通称Matz)は、若者のAIへの不安を「深い絶望」と表現する。

 まつもとさんは、学生エンジニア向けイベント「技育祭2025秋」の講演「学生エンジニアの生存戦略 〜Rubyの父が語るキャリアのヒント〜」で、若者の気持ちに寄り添いながら、AI時代に生き残るための“4つのスキル”を説いた。


今回は、少し具体的な話をします(画面下のウサギとカメにもご注目ください)

AIは「最高の教師」だが……

 まつもとさん自身、最近は愛用のエディタ「Emacs」を封印。「ちょっと面倒だけど」AIにソフトウェア編集を依頼するようにしているという。その経験から、AIの得意不得意を解説した。

 「AIは、ものすごく便利なツール」だとまつもとさんは言う。特に、学生などプログラミング未学習の人が学ぶために「これ以上ない、優れた教師」だと。

 AIは人間の教師と違い、同じ質問をしても怒らないし、機嫌が悪くなることもない。「君には才能がないからやめた方がいい」などの暴言も吐かないため、学習者は萎縮せずに学びを深めることができる。

 AIとともに学習することで、プログラミングが上達する人が実際に増えており、そこから優秀なエンジニアも出てきているという。


学習補助に最適

 コーディングを直接教わるだけでなく、開発に必要な周辺知識をAIに教えてもらうこともできる。例えば、簿記を知らないまま事務系のソフトウェアを開発する仕事を任された際には、AIに簿記を教えてもらえば、「AIと協働し、知識を補ってもらいながら設計できる」というわけだ。

 開発計画書作りにも便利だ。「こういうソフトウェアを、こういう方針で作りたいんだけれど、計画を立ててください、と依頼すると、80%ぐらいの出来の計画書を出してくる」ので、それをベースに計画を立てられる。

 AIは文章作成能力が高いため、Readmeテキストやコミットメッセージなどのドキュメントを英語で書くときにも使える。

 一方で、AIにもできないことや不得意なことは多い。それを補うスキルを身に付けることで、AI時代に生き残るエンジニアになることができるとまつもとさんは考える。

AIによる開発は「成功率1割以下のガチャ」

 まつもとさんによると、AIは、既にあるモノを再現するのが得意だ。欲しいソフトウェアの要件を自然言語で伝えるだけで、AIがコードを生成してくれる「バイブコーディング」で、テトリスなど既存のシンプルなプログラムを再現させると、AIは「ほぼ100%成功する」という。

 AIが一瞬でテトリスを完成させる動画がSNSでバズることもあり、「AIがあれば、エンジニアは不要になる」と言い出す人もいる。

 だが、「現状は、そうではない」とまつもとさんは言う。AIによるバイブコーディングは「ガチャみたいな感じで、当たり外れがある」ため、人間が適切にガイドしないと、必要なモノを作り出せないからだ。


現状では、バイブコーディングはガチャのようなもの

 AIが開発したソフトウェアがイメージ通りに動く確率は「体感で1割以下」ほど。仕事でソフトウェアを開発するなら、この成功率では話にならない。

 仕事で成果を出すには“ガチャ要素”を排除する力=「AIそのものをガイドする力」が必要になる。AIが間違えたら軌道修正する、AIが見つけ切らなかったバグを発見するなど、AIをサポートする能力だ。

 加えて、仕事のソフトウェア開発で求められるのは、既存のプログラムの再現ではなく、新しいものを作り出すことだが、AIは、新しいものを作るのは苦手。体感で「99%失敗する」とまつもと氏は言う。

 新しいものの開発には結局、人間のプログラミング力や設計力が必須。AIは「一人でプログラムしてもできる人向けの『能力拡張マシン』」にすぎないのだ。

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