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PythonをTypeScriptが抜き、開発者は「コードの生産者」ではなくなったGitHubが開発者のアイデンティティーを考察

AI活用が進んだ開発者は、自らを「コードの生産者」ではないと捉え始めている。GitHubが役割の変化を考察した。

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 生成AI(人工知能)の利用がますます広がる中、「開発者であること」に訪れる変化とは――。GitHubは2025年12月8日(米国時間)、AIが開発者のアイデンティティーや役割に与える影響について考察したブログ記事を公開した。

 GitHubは2025年10月に公開した年次レポート「Octoverse 2025」で、同社のソフトウェア開発プラットフォームで最も使用されているプログラミング言語として、「TypeScript」が初めて「Python」を上回り、首位になったと報告した。

 こうしてTypeScriptの人気が高まっていることも、AIと開発者の関係性を考える上で重要な示唆を含む要素の一つだとGitHubは指摘している。

「コードの生産者」ではなくなった開発者像とは

 GitHubは今回の考察において、コーディング業務の半分以上でAIを利用し、複数のツールを使いこなす「高度なAIユーザー」である米国のソフトウェアエンジニア22人を対象にインタビューを実施した。

 まずAIへの向き合い方として、ほとんどの開発者は「懐疑論者」(AI Skeptic)から始まり、試行錯誤を経ながらから「探索者」(AI Explorer)、「協働者」(AI Collaborator)、そして「戦略家」(AI Strategist)へと成熟していく過程があるという。

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AI活用度4段階モデルの懐疑論者と探索者(提供:GitHub)
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AI活用度4段階モデルの協働者と戦略家(提供:GitHub)

 特に成熟した段階の開発者は、自身の役割を「コードの生産者」ではなく「コードのクリエイティブディレクター」と表現する傾向が見られた。そうした開発者は、意図の定義、エージェントへのタスク委任、曖昧さの解消、結果の検証に時間の重心を移しており、AIを脅威ではなく「うまく使えば競争優位を生む存在」として捉えている。

TypeScript台頭とGitHub Copilot利用に見られるAIの影響

 開発エコシステム全体の動きにも同じ傾向が現れている。2025年版Octoverseでは、2025年8月にTypeScriptがGitHub上で最も活発な言語(月間コントリビューター数1位)となった。

 型情報によって開発者の意図を明示しやすいTypeScriptは、AIに任せる領域が広がる中で、誤りを早期に検出しやすくする“ガードレール”として、特に好まれる傾向があるという。コードベースに明瞭性と構造をもたらすTypeScriptの型システムは、開発者とAIの双方がコードの正しさを推論しやすくするための基盤にもなる。

 開発者へのインタビューでも、「AIにより安全に委任するには、ガードレールやコンテキストをさらに明示的に提供する必要がある」との声が上がっている。AIが大量のコードを生成する時代においては、構造を強化し、エラーを早期に表面化させることが戦略的な選択となり得る。

Copilot活用が示す“AIネイティブ開発”の広がり

 2025年にGitHubに新たに登録した開発者の約80%が、初週からAIコーディング支援ツール「GitHub Copilot」を利用しており、開発の初期段階からAIツールを活用する“AIネイティブ”な開発スタイルが広がりつつある。

 また、自律型エージェント「GitHub Copilot Coding Agent」によるプルリクエストのマージ件数は、提供開始からわずか5カ月で100万件を超えた。これは、開発者がAIに対して変更意図を説明し、コンテキスト(文脈)を提供した上で、AIが生成したコードをレビューしテストするという「委任と検証」のプロセスが、実際の開発現場に広く浸透していることを示している。

AI時代の開発者に求められる3層のスキル

 GitHubは、調査結果に基づき、開発者に求められるスキルが「実装」から以下の3層へシフトしていると分析する。

1.何を作るべきかを定義するスキル

 生成AIを高度に活用する開発者は、実装作業そのものから距離を取り、まず「何を作るのか」「なぜそれが必要なのか」を定義する役割に重心を移している。課題設定や目的の明確化、要件や背景の理解といった実装前の思考が、AI時代の開発における中核的な価値となる。

2.AIを統率・委任するスキル

 開発者は、AIや複数のエージェントに対してタスクを分解し、制約条件や成功基準を与えながら作業を進める「統率者」として振る舞うようになっている。ここでは命令的な指示ではなく、設計、誘導、オーケストレーションが重要で、人とAIの協働を前提とした新しい開発スタイルが形成されつつある。

3.成果物の正しさと品質に責任を持つスキル

 AIが生成したコードや変更は、そのまま受け入れられるものではなく、開発者による検証と品質管理が不可欠だ。レビュー、テスト、セキュリティ確認を通じて正しさを保証することが、開発者の中心的な責務となり、委任を拡大するための前提条件になる。

AIがソフトウェア開発にもたらす変化を追跡するには

 GitHubは、AIがソフトウェア開発にもたらす影響を継続的に把握するための情報源として、以下のような手段を挙げている。

  • 大規模なデータレポート
    • Octoverseなどの年次レポートを通じて、AI活用の進展や開発行動のマクロな傾向を把握する
  • 長期的な業界調査
    • Google Cloudによる「DORA」(DevOps Research and Assessment)のような調査は、生産性の向上や停滞といった業界の長期的な変化を示す
  • 現場でのフィールドリサーチや開発者インタビュー
    • 大規模なデータの背後にある実情を正しく解釈し、広範なトレンドが表面化する前に兆候を捉えるために役立つ
  • オープンソースでの活動分析
    • 「GitHub Innovation Graph」などは、開発者がどのようなワークフローを採用し始めているかを示す“先行指標”として活用できる

 AIの進化が加速する中で、開発者には単なるコーディング以上のスキルが求められるようになっているとGitHubは捉えている。開発者の価値は、判断力やアーキテクチャ設計、推論力、成果への責任といった抽象度の高い領域へとシフトしており、多くの開発者がAIツールの活用と「委任と検証」の実践を通じて、この変化に適応しようとしている状況が伺える。

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