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「レースが面白ければ、走るのは人間でもAIでも構わない」 若きエンジニアが夢見るモータースポーツとAIの共存Go AbekawaのGo Global! スコットさん from イギリス(2/3 ページ)

自律走行レース「A2RL」で優勝を飾った日本のレーシングチーム「TGM Grand Prix」。現場でマシンを制御したのは、スコット・ロベル氏。イギリス人である彼は、なぜ、あえて日本の過酷なモータースポーツ界に飛び込んだのだろうか。

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鶏口となるも牛後となるなかれ

 大学卒業を目前にしたスコット氏が、モータースポーツの本場であるイギリスのF1チームではなく、あえて「日本」をキャリアの出発点に選んだ理由は、極めて戦略的かつ情熱的なものだった。


バイクも好き

 まず、競技レベルの高さがある。日本の「スーパーフォーミュラ(※2)」や「スーパーGT(※3)」は、世界中のモータースポーツの中でもトップクラスの速さと技術水準を誇るカテゴリーである。スコット氏は、ここでもまれることがエンジニアとしての実力を高める最短ルートだと考えたのだ。

 「F1チームはオックスフォードのすぐ隣にもありますが、そこには数百人のスタッフがいて、業務が細かく分業されています。私は、より小さいチームに入って、1人で幅広い領域を担当した方が、エンジニアとしての勉強になると考えたのです」

 彼は、大きな組織の一部として特定のパーツを突き詰めるよりも、限られた人員の中でマシンの全体像を把握し、責任ある仕事を任される環境を求めたのである。

 また、彼自身のルーツも大きな後押しとなった。東京で生まれたスコット氏は、幼少期から日本という国に対して特別な親近感を抱いていた。日本びいきの父親から聞いた文化や歴史、特に宮本武蔵や戦国時代の哲学に深い興味を持っていたという。

 「去年、宮本武蔵の村を訪ねました。日本の歴史的な背景への関心と、世界最高峰のレース環境が日本にあること。その2つが重なり、日本へ行くという決意になったのは自然な流れでした」

 具体的なアクションも早かった。大学生の頃からSNSを駆使して日本のチームをリサーチし、当時セルブスジャパンで働いていた外国人エンジニアを見つけ出した。自らコンタクトを取り、2019年ごろからオンラインで交渉を重ねてきたのである 。

 「本当は学士課程が終わったらすぐに引っ越すつもりでしたが、コロナ禍で断念せざるを得ませんでした。その間に修士で1年勉強して準備を整え、入国制限が解けた2022年11月、ようやく念願の日本のモータースポーツ界に飛び込むことができたんです」

 若きエンジニアとしての冷徹なキャリア計算と、生まれ故郷への純粋な憧れ。この両輪があったからこそ、彼は迷うことなく日本という舞台を選び取ったのである。

※2 スーパーフォーミュラ:Super Formula。日本国内最高峰のフォーミュラカーレース。F1に次ぐ速さを持つと言われる
※3 スーパーGT:Super GT。日本で人気のあるツーリングカーレース。「GT500」「GT300」の2クラスが混走する

パフォーマンスエンジニアの日常

 2023年に入社したセルブスジャパンで、スコット氏は現在「パフォーマンスエンジニア」として、スーパーフォーミュラや「KYOJO CUP(※4)」といった複数のカテゴリーを担当している。

 日本のレースチームは少数精鋭だ。多くのチームは、チーフエンジニア、パフォーマンスエンジニア、データエンジニアの3人体制で1台のマシンを見る。スコット氏が担うパフォーマンスエンジニアの領域は驚くほど広く、タイヤの摩耗管理、エアロダイナミクス、車高の調整といった物理的なセットアップから、燃料消費モデルの構築やレース戦略のシミュレーションまで把握しなければならない。

 「パフォーマンスエンジニアは、車のセットアップを管理して、どうやってパフォーマンスを上げるかをトータルで考える仕事です。スーパーフォーミュラでは調整可能なパラメーターが膨大にあるので、最適解を見つけるのは非常に難易度の高いタスクです」

 彼の拠点はサーキットだけではない。静岡県御殿場市のワークショップでは、ドライビングシミュレーターを用いた開発に心血を注いでいる。テレメトリーデータとドライバーのフィードバックを照らし合わせ、シミュレーター上のマシンの挙動を「実車」の動特性に近づけていく仕事だ。

 「実車と同じ感覚で運転できるように調整を繰り返すことで、レース本番前の準備を整えるんです。ドライバーがワークショップに来てシミュレーターを回し、どのセットアップが良いかを事前に調整しています」

※4 KYOJO CUP:競女カップ。女性ドライバー限定のプロレースシリーズ。富士スピードウェイで開催される

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