爆発的に普及する生成AIを支える「AIデータセンター」の役割を学ぼう:ビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説(最終回)
IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、最終回となる第38回は「AIデータセンター」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
1 AIデータセンターとは
AIデータセンターとは、人工知能(AI)の学習(AIを賢くすること)や推論処理(学習した結果を基に回答を出すこと)を効率的に実行するために設計されたデータセンターのことです。
近年、生成AIの普及により、大量の計算処理を高速に実行できる計算基盤の重要性が急速に高まっています。AIデータセンターは、このようなAI処理を支えるインフラとして注目されています。
従来のデータセンターは、企業の業務システムやWebサービスを支えることを目的として設計されてきました。これらのシステムではCPU(中央演算処理装置)を中心とした計算処理が一般的で、サーバごとに個別に処理する構成が主流です。
一方、AIの学習処理では膨大なデータを用いた計算が必要になるため、従来のシステムとは異なる大規模な計算環境が求められるようになりました。こうしたAI特有の要求に対応するために整備されているのがAIデータセンターです。
2 AIデータセンターの特徴と構成
AIデータセンターの大きな特徴は、GPU(画像処理装置)を中心とした計算基盤である点です。GPUは多数の演算処理を並列に実行できるため、AIの学習処理に適しています。
主な構成要素は以下の通りです。
- GPUサーバ:複数のGPUを搭載した、計算の心臓部
- 高速ネットワーク:複数のサーバが協力して計算を行う(分散処理)ため、サーバ間で大量のデータを高速に交換できる「InfiniBand」などの技術が利用されます
- 高速ストレージ:膨大な学習データを扱うため、大容量かつ高速な読み書きが可能なストレージが必要になります
これらのサーバ、ネットワーク、ストレージを組み合わせて構成された計算基盤は「AIクラスタ」と呼ばれ、AIデータセンターの核となります。
3 AIデータセンターのメリット
AIデータセンターは、大規模なAIモデルの学習や、大量の推論リクエスト(ユーザーからの問い掛けへの回答)に耐え得る計算資源を確保できるのが最大のメリットです。
多数のGPUサーバを集約して運用できるため、大規模な計算資源を確保できます。これにより、大規模なAIモデルの学習や大量の推論処理など、膨大な計算を必要とするAI処理に対応できます。
生成AIや画像認識などのAIサービスでは、多くのユーザーから同時にリクエストが送られることがありますが、AIデータセンターの大規模な計算資源を利用することで、こうした需要にも対応できます。
また、電力供給や冷却設備などのインフラも整備されており、高性能GPUを大量に運用できる環境が整えられています。
このような設備を備えることで、効率的なAI開発やAIサービス運用を実現しています。
4 AIデータセンターの課題
AIデータセンターは社会的な観点から幾つかの課題も指摘されています。主な課題として、電力と環境負荷の観点から整理します。
4.1 電力消費
AIデータセンターでは多数のGPUサーバが稼働するため、非常に多くの電力を消費します。
AIの学習処理では複数のGPUを同時に利用することが多く、従来のデータセンターよりも電力消費量が大きくなる傾向があります。大規模なAIデータセンターでは、都市レベルの電力を消費する可能性も指摘されています。
そのため、AIデータセンターを運用するには大量の電力を安定して供給できる地域に施設を設置する必要があります。
4.2 環境負荷
GPUサーバは発熱量が大きいため、データセンターの冷却設備にも多くのエネルギーが必要になります。
従来の空冷方式だけでは十分に冷却できない場合もあり、液体冷却などの新しい冷却技術の導入が進んでいます。しかし、冷却設備の運用には電力や水資源が必要になるため、環境への影響をどのように抑えるかが課題となっています。
5 AIデータセンターの活用分野
AIデータセンターは、さまざまな分野で活用されています。特に近年は、AIモデルの規模が拡大し、膨大なデータを用いた学習が行われるようになったことで、大規模な計算基盤の需要が高まっています。
5.1 大規模言語モデル(生成AI)
「ChatGPT」のような大規模言語モデルは、インターネット上の膨大なテキストデータを用いて学習されます。こうしたモデルの学習では、数千億規模のパラメーターを持つAIモデルを扱うこともあり、膨大な計算処理が必要になります。
そのため、多数のGPUを高速ネットワークで接続したAIデータセンターが利用され、分散処理によって学習が行われています。また、生成AIサービスを提供する際の推論処理にも大規模な計算資源が必要となります。
5.2 自動運転
自動運転の開発では、車両に搭載されたセンサーやカメラから取得した大量の走行データを基にAIモデルを学習させる必要があります。
走行データは非常に大規模であり、画像認識や物体検出などの高度な処理を行うために大きな計算能力が求められます。そのため、自動運転の研究開発ではAIデータセンターが利用され、大量のデータを分析しながらAIモデルの精度向上が進められています。
5.3 医療、科学技術分野
医療分野では、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの医療画像を解析する画像診断AIの研究が進んでいます。また、創薬研究では膨大な分子データを解析するためにAIが利用されるケースも増えています。
さらに、気候予測や材料研究などの科学技術分野では、大規模なシミュレーションやデータ解析とAIを組み合わせた研究が進められています。こうした分野では大量のデータ処理と高度な計算が必要となるため、AIデータセンターが重要な役割を果たしています。
6 今後の展望
AI技術の発展に伴い、AI処理を支えるデータセンターの需要は今後さらに高まると考えられています。
IDC Japanの「国内データセンターサービス市場予測」によると、日本のデータセンターサービス市場は2023年の2兆7361億円から、2028年には5兆円規模まで拡大すると見込まれています。AIの普及に伴い、こうしたデータセンター需要はさらに増加すると考えられます。
一方で、先述の通り、AIデータセンターによる環境負荷は大きな課題とされています。エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの活用など、持続可能な運用も重要なテーマとなっています。AIデータセンターはAI活用を支える重要なインフラとして今後も拡大していくと同時に、課題の早期解決が求められるでしょう。
連載終了のお知らせ
本連載は、今回をもって終了となります。2022年から約3年半、全38回にわたってIT用語の解説をお届けしてきました。
エンジニアとして仕事をしてきた私にとって、まさか連載という形で執筆に携わることになるとは思ってもいませんでした。技術になじみのない方にも迷わず読んでいただけるよう心掛けてきましたが、いかがでしたでしょうか。
本連載をここまで続けてこられたのは、ひとえに読者の皆さまのおかげです。これまでご愛読いただき、誠にありがとうございました。
古閑俊廣
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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