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AIは若手の実務経験を奪うが人材育成を担うことができるGartner Insights Pickup(443)

AIの活用で上級職の業務は効率化するものの、若手が実務経験を積む機会は減ってしまう。問題は将来のリーダーをどう育成するかだ。この課題の解決に、実は生成AIシミュレーターによるメンタリングが有効だ。Gartnerは2028年までに、大部分の従業員は新しい職務に就く際に、AIによるトレーニングやコーチングを受けるようになると予測している。

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Insights」などのグローバルコンテンツから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 AI(人工知能)は、リーダーシップ育成の在り方を急速に変えつつあり、企業が必ずしも想定していなかった事態も生じている。幹部が自らの業務遂行力を拡大するためにAIへの依存を高めるにつれて、若手人材は、これまでリーダーシップ能力の基礎を培ってきた支援業務やシャドーイング(指導者や先輩に同行し、行動を観察、模倣すること)、実務経験の機会が乏しくなっている。

 こうした「経験の欠乏」という新たな傾向は、将来のリーダー育成のパイプラインを細らせる恐れがある。現代のリーダー職は、複雑で曖昧な状況で判断を下す必要があるが、従来のタスクベースの育成では、キャリア初期の従業員はそのための十分な準備ができないからだ。

 だが、この混乱の中に強力な解決策も潜んでいる。生成AIシミュレーターを通じて提供されるAI主導のメンタリング(助言、指導)は、現実世界の課題を反映し、没入感のあるスケーラブルな環境を生み出している。AIをメンターとして利用することで、企業は経験欠乏の傾向を逆転させ、育成の加速、コスト効率化、パフォーマンス向上により、競争優位を獲得できる。

 CIO(最高情報責任者)や人事責任者の目下の急務は、AIが従業員の学習期間を大幅に短縮できる職務やシナリオを特定し、生成AIシミュレーターの導入により、従業員がリーダーとなる準備ができる大規模な仕組みを作ることだ。このアプローチにより、企業はリーダー育成のパイプラインを強化できるだけでなく、効率化と持続的な成長のためにAIを最大限に活用できる。

 メンターとしてのAIは、特に若手人材にとって革新的だが、新たなスキルの習得や重要な能力の維持を目指す経験豊富な従業員にとっても、大きな価値がある。トレーニングツールとしてのシミュレーターは、目新しいものではない。だが、全従業員向けに大規模に展開できる点は新しい。

 Gartnerは2028年までに、ほとんどの従業員は新しい職務に就く際に、AIによるトレーニングやコーチングを受けるようになると予測している。これは、企業が人材や将来のリーダーを育成する方法における根本的な転換を示している。

生成AIシミュレーターの導入

 メンターとしてのAIの可能性を最大限に引き出すには、CIOは体系的かつ規律あるアプローチにより、その能力を適用する領域を優先順位付けする必要がある。そのための最も効果的な第一歩は、以下の3つの観点からユースケースを評価することだ。

  • インパクト:AI主導のメンタリングがビジネスの成果やパフォーマンスをどの程度向上させるか
  • 実現可能性:利用可能なリソース、データ品質、技術的な制約から見た導入の容易さ
  • スケーラビリティ:メンターとしてのAIサービスを、さまざまな職務、チーム、拠点にわたって展開できるか

 CIOはこうした体系的な評価により、AIが人材育成を大幅に加速させ、測定可能な価値を実現する領域に、投資を集中させられる。

 生成AIシミュレーターは今後、こうしたAIメンタリングの中核となる。若手人材にとっては特にそうだ。従来のデジタルアドプションプラットフォーム(DAP)は、アプリケーションを操作して業務タスクをこなせるようにユーザーを導くが、生成AIシミュレーターは、人材育成をさらに一歩前進させる。

 シミュレーターは、従業員に操作手順を示すのではない。従業員はシミュレーターを用いて、仕事で必要となる問題解決、優先順位付け、交渉、危機対応など、より深い認知行動とリーダーシップ行動を実践的に訓練できる。DAPからシミュレーターへの転換により、トレーニングの成果は「手順への習熟」から、「真の能力開発」へと変わる。これにより、人材は業務で直面する、ますます複雑化するシナリオに備えられる。

 生成AIシミュレーターの効果を最大化するために、CIOは3つの戦略的施策を推進すべきだ。第1に、ドメイン固有のデータを用いてシミュレーションを構築し、シミュレーションツインを微調整することだ。この施策は自社の業種、顧客の期待、業務実態をきめ細かく反映し、現実的でコンテキスト(文脈、背景)に即した環境を生成するために不可欠だ。

 第2に、人事部門と連携して価値の高いシナリオのポートフォリオを構築することだ。これには、批判的思考や問題解決を必要とする多面的な課題を提示して学習効果を高める、分岐するストーリーラインの作成が含まれる。

 最後に、マルチユーザーシミュレーション環境をサポートし、チームが共同作業、対人コミュニケーション、集団的意思決定の実践的な訓練ができるようにすることだ。これは個人の能力を高めるだけでなく、効果的なリーダーシップに不可欠な関係構築スキルも身に付けさせる。

出典:How AI Could Become An Asset in Developing Tomorrow’s Leaders(Gartner)

※この記事は、2026年2月に執筆されたものです。

筆者 Kristin Moyer

Distinguished VP Analyst


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