第311回 巨人デンソー傘下か、日の丸連合か。半導体再編の鍵を握る「ローム」の行方:頭脳放談
デンソーによるロームへの買収提案が波紋を広げている。東芝や三菱電機との連合による世界シェア拡大の期待がかかる一方、対等な組織統合には意思決定の停滞というリスクも孕む。かつて「ロームレディ」で業界を席巻したロームの独自性を生かすのはどの道か。筆者の「デンソー推し」という大胆な視点から、業界再編の行方を分析する。
パワー半導体「日の丸連合」か「デンソー傘下」か。激動の業界再編、生き残りの正解とは
デンソーによるロームへの買収提案が波紋を広げている。東芝や三菱電機との連合による世界シェア拡大の期待がかかる一方、対等な組織統合には意思決定の停滞というリスクも孕む。かつて「ロームレディ」で業界を席巻したロームの独自性を生かすのはどの道か。筆者の「デンソー推し」という大胆な視点から、業界再編の行方を分析する。画面はロームのWebページ「パワー半導体素子&アナログ集積回路(IC)」。
デンソーが電子部品メーカー「ローム」に買収提案したことが明らかになり、それを巡るさまざまな報道が出ている。本稿執筆時点の状況を勝手にまとめさせていただく。
ロームのプレスリリース「(開示事項の経過)当社に関する一部報道について」
ロームは、2026年3月17日付けのプレスリリース「(開示事項の経過)当社に関する一部報道について(PDF)」で東芝の半導体事業との業務提携について協議している一方で、デンソーから株式取得に対する提案を受けていることを明らかにした。画面は、プレスリリースの一部。
デンソーのローム買収提案と、うごめくパワー半導体再編
2年ほど前からロームと東芝のパワー半導体事業「東芝デバイス&ストレージ」の統合の協議が進んでいた。ロームとしては統合と「スタンドアロン」な事業継続の両にらみでの協議である。なお2024年度のロームの業績はガタガタな状態だった。2025年度の決算発表はこれからだがV字回復しているようだ。
その傍らで、つい最近デンソーからロームの買収提案があった。デンソーは自動車電装メーカーとして最大手であり、ロームにとっては最大の顧客でもある。そして資金力も潤沢であるはずだ。
現段階でローム側は、デンソーの提案を真摯に検討しつつも、話が進んでいる東芝との事業統合については予定通り協議を進めていくという態度のようである。本稿が公開される頃には、新たな発表があるかもしれない。
ここで注目すべきは、東芝との事業統合の先には三菱電機のパワー半導体部門との統合も視野に入っている点だ(ロームのプレスリリース「東芝デバイス&ストレージ株式会社の半導体事業及び三菱電機株式会社のパワーデバイス事業との事業・経営統合に関する協議開始に向けた基本合意書の締結に関するお知らせ(PDF)」)。国内パワー半導体大手の3社の売上を単純に足し算すれば世界シェアは第2位に躍り出るようだ。なお首位は欧州の「Infineon Technologies」だ。
ロームと東芝、三菱電機のパワー半導体事業統合に関するプレゼンテーション資料
ロームが公開したパワー半導体事業統合に関するプレゼンテーション資料「東芝デバイス&ストレージ株式会社の半導体事業と三菱電機株式会社のパワーデバイス事業との事業・経営統合に関する協議開始に向けた基本合意書の締結(PDF)」。3社の統合により国際競争力の向上を実現するという。
少々勝手な意見かもしれないが、筆者は「デンソー」推しである。「デンソーがローム、東芝、三菱電機の3社連合を丸ごと買収する」という話も出ているらしく、ロームを巡る動きは非常に流動的だ。
独自路線を突き進んできた「ローム」の勝負勘
推しの理由を述べる前に、筆者が抱くロームの印象について触れておきたい。それは「日本の半導体会社としてはユニークで、動きが速く、しぶとくもうける会社」というものである。その印象は昭和の時代にさかのぼる。
業界のベテランの方々ならご存じだろうが、かつて「ロームレディ」と呼ばれた営業部隊がいた。昭和の時代の半導体営業といえば、汗をふきふき男性の営業職が売って回るスタイルが全盛の時代である。
そこにロームが投入したのは、若い女性営業であった。筆者は設計なので営業から聞いた話だが、なかなかアポがとれない売り込み先のキーマンに対しても、ロームレディだと「近くまで来たのでサンプル置かせてください」くらいのノリで会えてしまうとこぼしていた。
今の時代、性別で役割を論じるのは不適切だが、昭和の時代は違った。ロームレディの威力は抜群だった。営業の基本である「型番、単価、数量、納期」はもちろんのこと製品知識もしっかりと備えていたという。当然、高度な技術の話になれば、後ろにいるエンジニアにつなぐことになるのだが、それは他社の男性営業でも同じだ。
特に当時のローム製品は、コモディティに近いものが多かったという記憶がある。他社との差がそれほどないのであれば、サンプルとかで親しみのある製品に傾くのは道理だ。平成の時代になり、男女の差別が徐々に解消されていき、他社でも女性の営業職が増えたという印象がある。いつの間にかロームレディも消えたみたいだが、他の半導体会社とは目の付け所が違った。
また、ロームは半導体会社のM&A(企業の合併・買収)でも鋭いところを見せている。バブル崩壊からしばらくして日本の半導体会社は大手も中小も苦しくなっていき、苦しくなったところから経営統合やら買収やらが相次いだのだ。
しかし、その中には「ババを引く」ような買収案件もあったように記憶している。当然、買収前には買収先の資産など「精査」する。ただ、いざ買収してから「売り先が見込めない不良在庫の山」や「高級化した設備の更新費用」などの問題が発覚し、期待した買収の効果が得られないどころか、買い手側まで窮地に陥るケースもあった。
一方、当時のロームは業界内では、どちらかといえば中堅どころの半導体会社で、売られる側でなく買う側に立っていた。そしてババを引くことなく他社を買収できていたように見える(内情は知らないが)。
新幹線に乗って出張へ行くと、浜松付近で「YAMAHA」の看板がかかげた半導体の建物の看板が「Rohm」になり、中央線沿線の「OKI」の看板がローム傘下の「ラピスセミコンダクタ」(Rapidusに似た名前だが、ラピスセミコンダクタの方が先だ)に変わった光景を思い出す。業績不振の他社部門を買収しつつ、ロームは規模を着実に拡大した上に、製品ポートフォリオも幅を広げていっている。
バブル崩壊後現在まで逆風、荒波にもまれてきた日本半導体業界で生き残り、規模を拡大できたということ自体、決断の速さ、的確さの証だろう。
なぜ「3社連合」よりも「デンソー傘下」を推すのか
さて、やじ馬の筆者が東芝(その先の三菱)との事業統合路線を危惧するのは、事業統合がロームの「いい所」を消してしまうのではないかと思うからだ。3組織の売り上げなど見比べると、桁違いという差はなく、大小あるけれども似たような感じである。桁違いの差があり、一方が他方を飲み込むような形なら、判断も一方的にできる。統合に伴う重複分野の整理統合なども素早くできるだろう。
しかし似たようなレベルだと、日本的な意思決定のスタイルでは各部門間の調整に膨大な手間と時間を要することになる。もともとは違う会社なのでカルチャーも異なる。そして、それぞれの部署は自部門の製品や工場に誇りと責任を持っているので、現場同士が歩み寄るのは容易ではないことが多い。
よい例(?)がある。勝手なこと書いて申し訳ないが、「ルネサスエレクトロニクス」だ。筆者は当時在職していた会社で「赤ルネ(NECエレクトロニクスと統合前のルネサス テクノロジ)」になる一方の会社の部署と付き合いがあった。統合に際してはた目にも大変そうだった。
また「青ルネ(NECエレクトロニクスと統合後のルネサスエレクトロニクス)」ができた直後に、統合のあおりで「青ルネ」を辞めてきた何人かと同僚になる、という経験もした。ルネサス自体は今でも立派な会社だが、対等な規模感の会社同士を統合して機能するようになるのは非常に大変ではないかと思う。「1+1」は即座に「2」とならず、「1.5」か下手すると「1」くらいにしかならないのではないかと思っている。
一方、デンソーはロームの顧客であり、押しも押されもせぬ車載のティア1(一次サプライヤー)企業である。デンソー傘下に入った場合、車載優先になり他の分野が軽視されるという懸念は理解できる。
しかし、筆者としてはデンソー傘下に入った場合、車載向け製品の優先度が上がるかもしれないが、その他をみんな止めろ、などとは言われないんじゃないかと思う。あまり知られていないが、デンソー自体、車載以外の製品もいろいろ手掛けているからだ。聞いた話だがデンソーは半導体製品を家電分野に売っていたこともあるらしい。直接話をしてみると決して「車一本やり」の会社ではないことが分かる。
最大の利点は、デンソーという巨大資本の傘下で独立性の高い半導体部門として活動することで「スタンドアロン」的な判断の速さや方向を維持できる可能性が高い点だ。これは似たような製品を持つ同等な組織統合を上回る利点だと思う。
さらに内部組織として製品開発の初期段階から深く関与できるメリットも大きい。デンソーの商談ルームに行くと分かるがセキュリティはかなり厳しい。製品企画など情報統制はそれ以上に厳重だ。しかし内部組織であれば、他社に一歩も二歩も先んじることができるだろう。これはロームレディ以来のアドバンテージではあるまいか?
筆者紹介
Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。
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