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創業明治19年 気遣いが功を奏した「ザ・アナログ」企業のデジタル化現場×6代目社長×社外DX専門家(2/2 ページ)

IT人材不在の中小企業は、どうDXを始めるべきか。「ザ・アナログ」な環境から「攻めのDX」へと進む、食品卸企業のデジタル化「等身大の試行錯誤プロセス」に迫る。

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「DXとは程遠い」最初のステップ

 だが、経営者の理想がどんなに高くても、いざデジタル化や業務改善を進めていくと、思い通りにいかないことも多い。時には、現場がデジタル化の必要性を感じておらず、強い抵抗に合うこともある。最初はどこから手を付けたのだろうか?

 「まずは情報の整理と基盤作りから始めました。具体的には、共有フォルダの構築です。『DXとは程遠い』と思われるかもしれませんが、当時の原田商店には情報を共有する環境すらなかったんです」(宇治さん)

 「幸いなことに、従業員たちも情報共有に関する課題感を持っていました。ですが、以前は『いずれやりたいよね』くらいの優先順位だったんです。でも、いざやるとなったら、『やりましょう』と前向きで取り組んでくれて、スムーズに導入できました」(原田さん)

 だが最も大きな問題は、情報共有ではなかった。

 原田商店は近年経営が順調で、スーパーなどの取引先が増えている。だが、取引先が増えれば増えるほど、アナログ作業の手間も増加していた。また、売り上げが上がるのはいいが、請求書の郵送が遅れて取引先からクレームの電話が来たり、そのやりとりを都度FAXで送ったりしていた。現場の「本当の困りごと」は情報共有とは別のところにあることに、デジタル化を進める中で宇治さんたちは気が付いた。

 「そこで、改めて課題の洗い出しと、優先順位を付けるところからやり直しました。その結果、優先順位が最も高いのは『アナログ作業による二度手間の解消』だと分かりました。従業員からヒアリングした内容を宇治さんに伝え、一つずつ進めていきました」(原田さん)

デジタル化の前に大切な「お互いを理解し合う気遣い」

 デジタル化を進める際、一時的に新たな業務が発生したり、移行期には業務が二度手間になったりするケースがある。新たな困りごとや想定外は発生しなかったのだろうか?

 「従業員たちも課題を感じていたので、大変なのは承知の上でした。ただ、宇治さんも最初は食品業界の卸の流れを隅々まで理解はできていなかったこともあり、例えば、最初に提案されたツールが現場には合わず、すり合わせに時間がかかってしまったこともありました」(原田さん)

 「私の業界や業務に対する理解が不足していました。ツールを提案しても、『使いづらい』『いまとあまり変わらない』という声が上がってくることもありました。そこで、現場に足を運んで、話を伺って、いま使っているツールを自分でも動かしてみて、どこが手間なのかを理解した上で、改めて提案し直したこともありました」(宇治さん)

 これ以降、ツールを最も使う従業員と、宇治さんとの間でコミュニケーションを密にするようにした。まるで「社内のIT担当者」のように泥臭く手を動かしたのだ。その結果、お互いが「本当の課題」に向き合えるようになった。

 「デジタル化に関する状況把握に加え、もっと深く企業の業務内容や流れを知ることの大切さを改めて痛感しました。現場の皆さんと一緒に仕事をする気持ちで、業務知識を深めていきたいです」(宇治さん)

 「逆に私は、『宇治さんはDXのプロ。ある程度伝えればうまくやってくれるだろう』と思い込んでいました。でも、よく考えてみれば、そもそも畑違いの業界ですよね。お互いを理解し合う気遣いやヒアリングが、日々の業務と同じくらい大切なのだと勉強になりました」(原田さん)

デジタル化の推進で実感した「社内の変化」

 デジタル化は一筋縄ではいかず、小さな実践の繰り返しだ。変化を感じられなければ、継続すら難しい。社内で実感できる変化はあったのだろうか?

 「いままで、私の予定は従業員たちが直接確認しに来ていました。ですが現在は、スケジュールや社内データを共有することで、従業員がオンラインで確認し、計画を立ててくれるようになりました。ミーティングもスムーズになりましたね。

 また、工場のマニュアル作成を工場長に頼んだら、1週間ほどで文章化と写真撮影をしてくれました。『環境を整えたい』という私の思いが従業員たちにも伝わり、協力体制ができてきたんだと感じています」(原田さん)

 「見える化の活用が進んでいる実感はあります。特に出張先からの確認ですね」(宇治さん)

 「それが一番助かっています! 以前は出張前に全てのデータをUSBメモリに移して持っていかなければならず、それが本当に嫌でした。でもいまは出張先からアクセスできる。これは本当に素晴らしい変化です」(原田さん)

 こうした、小さな変化の実感が、デジタル化からDXへとつながっていくのだ。

「守りのDX」から「攻めのDX」へ

 最後に、DXに対する思いと未来について伺った。

 「今後は、従業員が増えたときに、誰もがスムーズに業務ができる体制を作りたいんです。それにはDXが必須です。データが整理・整頓された環境を前提として作る。その上で、個人のスキルを伸ばして、売り上げに貢献できる形にしたい。

 最終的には、地元の方に『原田商店で働きたい』と思ってもらえる魅力的な企業にしたいです。140年続いてきた資産をより長く後世に残していくために、長く働ける環境をできるだけ早く整えていきたいですね」(原田さん)

 「今は『守りのDX』として基盤を固めているデジタライゼーションの段階ですが、これからは『攻めのDX』に進んでいきたいと思っています。原田商店のブランド価値を上げ、若い方が魅力に感じる企業にしていきたいですね」(宇治さん)

 デジタル化やDXは、社内の人材のみで進めることもできる。だが、社内だけで進める場合、日々の業務に追われて優先順位が下がってしまうこともあるし、「これ以上仕事を増やしては申し訳ないな」という遠慮や気遣いをしてしまうこともある。

 だからこそ、外部人材にも目を向けるべきともいえる。はっきり言えば、社外の人材であれば、お金を払っているからこそ遠慮なくお願いができる。客観的な立ち位置からアドバイスもしてくれる。だからこそ、人的リソースが少ない中小企業のデジタル化やDXを、スピード感を持って進めることができる。内製化が叫ばれる昨今だが、あえての外部人材活用は、さまざまなメリットがある一つの選択肢だと感じた事例だった。

事例をお話しいただける企業や団体を募集しています

自社内でDXやデジタル化を進め、課題解決に取り組んでいる企業や団体の方がいらっしゃいましたら、下記までご連絡ください。

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筆者プロフィール

竹内義晴

しごとのみらい理事長 竹内義晴

「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、「コミュニケーションの質と量」の重要性を痛感。自身の経験に基づいた組織作りやコミュニケーションの企業研修、講演に従事している。

2017年よりサイボウズにて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事の在り方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。

元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任され「楽しく仕事ができるチームを創りたい!」と、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。

著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。


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