創業明治19年 気遣いが功を奏した「ザ・アナログ」企業のデジタル化:現場×6代目社長×社外DX専門家(1/2 ページ)
IT人材不在の中小企業は、どうDXを始めるべきか。「ザ・アナログ」な環境から「攻めのDX」へと進む、食品卸企業のデジタル化「等身大の試行錯誤プロセス」に迫る。
DX(デジタルトランスフォーメーション)といえば、高度な技術を必要とし、中小企業にはなかなか手が届かない印象がある。中小企業の場合は、「最初の一歩」として、ファイル共有やスケジュール管理などのデジタル化から進めるのが現実的、かつ効果的かもしれない。
しかし、中小企業にとって、その「小さな一歩」でさえ踏み出すのが難しいことがある。なぜなら中小企業には、その小さな一歩を推進するIT人材すらいないケースが多いからだ。
そんな中小企業の「小さな一歩」を歩み出す支援をしているのが、シードテックの「DX職-デジショク-」(以下、デジショク)だ。今回は、デジタル化の必要性を感じながらも、なかなか手が付けられなかった中小企業の「等身大の試行錯誤プロセス」を取り上げる。
「ザ・アナログ」な中小企業がデジタル化に取り組むまで
長野県諏訪市に本社を置く原田商店は、長野県産の果物を使ったジャムやはちみつ、蜂の子などの食品を製造し、長野県内や全国の百貨店やスーパーに卸している創業140年の食品卸企業だ。諏訪市はかりんの特産地であり、長野県は昆虫食の文化がある。
デジタル化に対して、原田さんはどのような課題感を持っていたのだろうか?
「私が家業の原田商店に入社したのは6年ほど前、社長になってから5年ほどになります。入社前に勤務していた東京の食品企業はデジタル化が進んでおり、PCで仕事をするのが当たり前でした。一方、原田商店はPCすらほとんどない状態で、とてもギャップを感じていました。ですが、当時は業務が回っていたので『まあ、いいか』と思っていました。
そんな折、コロナ禍になりました。ネット注文やオンライン会議が急激に増え、デジタル化の切り替えに迫られました。ですが、私にはデジタル化の知識や経験がありません。デジタル化を推進した方がいいと、頭では分かっている。でも、一人で進めるのは難しい……そんなタイミングで耳にしたのがデジショクでした」(原田さん)
デジショクのサービス内容を一言で言えば、「DXを推進する実務人材を提供するサービス」だ。DXのコンサルティングができる人はごまんといる。だが、中小企業の中に入って、一緒に手を動かしてDXを推進する、いわば「社内のIT担当者」のような役割を担ってくれる人はあまりいない。
原田さんにサービス導入を決意させたのは、最初に受けたデジタル化診断サーベイだった。
「一言で『デジタル化』といっても、『どこから手を付ければいいのか分からない』『何に気を付ければいいのか分からない』という場合が多いものです。そこでデジショクでは、「業務プロセスのデジタル化」や「セキュリティ・ITリテラシー」といったカテゴリーごとに診断して採点し、業務改善が必要なポイントを客観的に見える化した上で、進め方のロードマップを作成しています」(宇治さん)
診断によってうすうす分かっていた社内の課題が可視化され、原田さんは「何を、どのように取り組み始めればいいか」を理解できた。
「例えば請求書です。原田商店では当時、請求書業務はほぼ100%紙ベースで郵送していました。また、工場のマニュアルは担当者が走り書きで作成したもので、誰が見ても分かる状態ではありませんでした。診断を受けることで、具体的な数値として危機感を突きつけられたのは衝撃でした」(原田さん)
デジタル化を後押しした、人と人の「関係の質」
診断結果だけではない。原田さんがデジタル化に取り組もうと思ったのは「宇治さんなら信頼できる」と思ったからだった。
「比較的早い段階で、宇治さんと直接お会いしました。お酒を飲みながらいろいろな話をし、『最終的に、企業をどうしていきたいか』というビジョンの話にもなりました。単にITの話だけではなく、売り上げの話だけでもない。『働く環境を良くして、業界を良くしていきたい』。その思いに、宇治さんはすごく共感してくださったんです。同じ最終目標を描く中で『一緒にやろう』という熱意が伝わってきて、『宇治さんなら信頼できる』という気持ちになりました」(原田さん)
「デジショクは『経営者の伴走者』になるサービスです。原田さんから『工場の建て替えをしたい』『次の世代が継ぎたいと思える企業にしたい』という大きな目標を伺ったとき、『単なるITサービスの導入ではなく、10年後、20年後の未来に向けた投資だと思ってもらえる、企業の価値を高める基盤作りをしたい』と私も思いました」(宇治さん)
デジタル化の推進には、ITの導入だけではなく人と人の「関係の質」が欠かせない。デジショクは外部からの客観的な「俯瞰(ふかん)した視点」があるから、経営者の伴走ができるのだ。
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