人口減でも「人材不足」を乗り越える カギは「人に仕事を合わせるDX」:「働きたい」を諦めない社会へ(1/3 ページ)
人口減でも人材不足に悩まない社会へ――IT未経験の主婦やシニアがノーコード開発で活躍し、新しい働き方を実現しているジョブシェアセンター。誰もが能力を発揮できる「人に仕事を合わせる」DXが、個人と地域の好循環を生む取り組みを深掘りする。
人口減少が進む中、人材不足が深刻だ。パーソル総合研究所は「2035年までに、384万人相当の労働力が不足する」という調査結果を発表している。
他方、2024年の労働力人口(就業者と、仕事はしていないが仕事を探している人の人口)は過去最多の約7000万人となっている。つまり、現在の労働市場は「人口減なのに、労働力人口は過去最多」という状況だ。
その背景には、女性やシニアの活躍がある。
だが、子育てや親の介護をしている人にとって、フルタイムで働くのは難しい場合がある。また、一度キャリアから離れてしまって、いままでの経験を生かせない人もいる。その結果、労働力人口は増えたが「新たなことにチャレンジしたくても、その機会に恵まれない」「本来の能力を発揮できない」と感じている人も多いだろう。
会社や社会のさまざまな課題に「ITのチカラ」で取り組んでいる人や企業の「ストーリー」をお届けする「ITのチカラ」、今回はパーソルビジネスプロセスデザインが取り組む「ジョブシェアセンター」を取り上げる。育児や介護中、シニアなど「働きたいと願う人々」に雇用の場を提供しながら、地方創生、地域活性化を目指す取り組みだ。
神戸市と連携した「職住近接オフィス」の開設
神戸市須磨区の名谷エリアにある「神戸名谷ワークラボAOZORA」と「SUMAile(スマイル)」は、神戸市とパーソルビジネスプロセスデザインが公民連携で運営するオフィスで、全国に4つあるジョブシェアセンターの中の2つだ。
行政機関や民間企業の業務をアウトソーシングで受託しており、育児や介護中の人やシニア世代など「働きたいと願う人々」に雇用の場を提供している。
神戸名谷ワークラボAOZORAは、以前は公立の幼稚園だった建屋をリノベーションして2019年12月に、神戸名谷ワークラボSUMAileは、名谷駅前の商業施設に2023年7月にオープンした。
コンセプトは「住むところと、働くところが近い」職住近接オフィスだ。子育て中の方なら、保育園や幼稚園、学校へ「いってらっしゃい」と子どもたちを送り出した後に仕事をし、帰宅したときには「おかえり」と迎えることができる。さらに、新たな仕事をすることでキャリアアップになり、生活の質、人生の質が向上する。この5年で、2つの施設で815人の雇用を創出している。
なぜ、こうした新たな取り組みにチャレンジしたのか。パーソルビジネスプロセスデザインの中野幸司さんは、こう説明する。
「社会問題である労働人口の減少は私たちも実感しており、人材会社として人材の確保と新しいキャリアの創出が必要なのではないか、と考えました
また、主婦層やシニア層を働き手として大切にしたいと思ったこともあります。通常、採用といえばフルタイムの方が中心ですが、ここでは職住近接のコンセプトを意識して、パートタイマーや時短勤務の方を積極的に採用しました。一緒に仕事をしてみて、皆さん、本当に優秀なんだなと実感しているところです」(中野さん)
ジョブシェアセンターが行政機関や民間企業から受託しているのは、BPO(ビジネス プロセス アウトソーシング)と呼ばれる事務の業務がメインだ。特に、近年の行政機関はデジタル化を推進しており、デジタルツールやAI(人工知能)を業務に取り入れていくのが必須となってきている。
だが、働く全ての人がデジタルツールやAIが得意なわけではないだろう。そこで「神戸名谷ワークラボSUMAile(スマイル)」で働く2人の女性、SさんとAさんに話を聞いた。
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