Ciscoにとって「HPE×Juniper」は脅威か? 次に来る“量子時代”にどう備える?:競争環境の変化と量子コンピューティング時代を見据えたCiscoの戦略
HPEによるJuniperの買収など、ネットワーク市場を取り巻く競争環境は変化している。量子コンピューティング時代を見据えた動きも活発化している。Cisco Systemsはこうした変化をどう見ているのか。
Cisco Systems(以下、Cisco)はルーターやスイッチを手掛けるネットワークベンダーとして成長してきた。近年はサーバやセキュリティ、オブザーバビリティーなどへと事業領域を広げている。
競合各社も動きを活発化させている。Hewlett Packard Enterprise(以下、HPE)によるJuniper Networks(以下、Juniper)の買収は、その象徴的な例だ。Ciscoでプロダクトポートフォリオ戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるジェフ・シュルツ氏に、競争環境の変化や量子コンピューティング時代を見据えた同社の戦略を聞いた。
もはやネットワークベンダーではない――Ciscoは“何者”か?
──Ciscoはビジネスのスタートこそルーターやスイッチといったネットワーク機器でしたが、現在はサーバやセキュリティなどにも範囲を広げています。今後はどのような方向に進むのでしょうか。
ジェフ氏(以下、敬称略) 当社が注力する「データセンター」「ワークプレース」「デジタルレジリエンス」の3つの領域は、それぞれ独立して存在するものではありません。ユーザー企業が求めているのは個別の製品ではなく、それらが連携して価値を発揮することです。そのためネットワークやサーバ、セキュリティといった製品を一体的に組み合わせて提供する必要があります。
中でも重要なのが、セキュリティ機能をネットワークに組み込むことです。われわれはこれを「セキュアネットワーキング」と呼んでいます。
先日、あるパートナーとの会話で興味深い意見を聞きました。「将来的には『セキュリティ』という言葉さえ不要になるのではないか」というものです。セキュリティは本来、ネットワークに組み込むべき機能であり、別製品として切り分けて考える必要はないということです。
これは、まさに当社が進めている方向性と一致しています。機能を個別に提供するのではなく、一体として提供する。それが当社の目指す姿です。
「HPEによるJuniper買収」がCiscoに及ぼす影響は?
──HPEがJuniperを買収するなど、業界再編の動きが顕在化しています。こうした変化は、今後のCiscoの戦略にどのような影響を与えると考えていますか。
ジェフ Juniperは特に無線LANに強みを持つベンダーだと認識しています。出社回帰が進む中、企業は優れた接続環境やWeb会議システムを求めるようになりました。こうした中、無線LANをはじめとするキャンパスネットワーク(オフィスなどの単一拠点内ネットワーク)の重要性が非常に高まっています。
キャンパスネットワークやブランチネットワーク(支社や店舗などの小規模拠点ネットワーク)を含むエンタープライズネットワーク市場では、当社が相当なマーケットシェアを持っています。トップシェアのベンダーがさらにシェアを伸ばすことは難しく、競合がシェアを奪う方が容易です。結果として、競合他社が少しずつシェアを侵食する可能性はあります。
JuniperはAI機能を備えた製品やサービスによって、無線LANを必要とする企業への訴求力を高めてきました。無線LAN分野ではここ数年、同社の優れた機器と運用しやすい管理機能により、当社はシェアの一部を奪われました。
状況は変わりつつあります。当社の新しい無線LAN製品は、スイッチやルーターと連携してネットワーク全体を一体的に制御できるようになりました。これらはAI支援型の運用ダッシュボード「Cisco AI Canvas」で一元的に監視、管理できます。Cisco AI Canvasは、ネットワーク運用の在り方を大きく変える可能性を秘めています。
当社は無線LANや有線ネットワークに加えて、AIによる運用管理ツールやクラウドサービスまで統合的に提供できます。これまでの課題だった運用管理の複雑さや使いにくさの解消にも挑んできました。こうした取り組みによって、市場の流れを変えられると考えています。
“量子時代”にどう備えるか
──1920年代半ばに量子力学が確立されてから、ほぼ100年がたちます。節目のタイミングということもあり、量子コンピュータをはじめ、量子の物理現象を計算に利用する量子コンピューティング関連の話題をよく聞くようになりました。この分野でのCiscoの取り組みを教えてください。
ジェフ 最近に販売開始した主要な機器には、「ポスト量子暗号」(PQC:Post-Quantum Cryptography)を実装しています。PQCは、量子コンピュータによる解読が困難だと考えられている暗号方式です。機器内に保存するデータだけではなく、ネットワークを流れるデータについても、それぞれに適したセキュリティ基準を適用しています。
量子研究グループも立ち上げており、米国サンディエゴを拠点に量子チップ(量子状態で情報を扱う量子ビットを集積し、量子特有の計算処理を実現するデバイス)の研究を進めています。量子コンピューティング時代を見据えて、当社が取り組むべき課題をより高い次元で検討します。
──量子コンピュータそのものの開発も視野に入れていますか。
ジェフ 量子チップの研究を進めていますが、まだ量子コンピュータ本体の開発までは至っていません。量子コンピュータに限らず、量子コンピューティングは業界にとって大きなテーマになると考えています。
業界では「量子コンピュータの実用化は10年先か、それとも1年先か」という議論があります。1年後はないにしても、予想外に急速に進展する可能性があるというのが、私個人の見方です。当社としては、機運を見誤ることのないように市場の動向を注視しています。
ネットワーク機器の購入サイクルは周期的です。現時点で顧客が購入した機器が、5年後や7年後にも量子コンピュータの脅威から安全であるようにしたい。だからこそ、PQCの実装は絶対的な最優先事項であり、当社も着手しています。
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