トークン使用量にROIを求めるのは、「当たる宝くじ」を買おうとするようなもの:Go AbekawaのGo Global! 牛尾剛さん AI vs.人間編(後編)(2/2 ページ)
米マイクロソフトでAIと向き合う牛尾剛さんインタビュー。後編では、AI導入のROI(投資対効果)を求める企業への示唆や、ビジネス部門のノウハウを「アセット化」する重要性に迫る。55歳の牛尾さんが描く「あと5年で『僕はエンジニアだ』と胸を張って言いたい」という真摯(しんし)で切実な思いも深堀りする。
これからの若者がプログラミングを学ぶ意味
これから新しくエンジニアを目指す若手にとって、「プログラミング言語」を自ら学ぶ意味はあるのだろうか。この問いに対し、牛尾さんは「逆算思考」でその価値を説く。
「逆算で考えたらいいと思いますけどね。例えばコーディングエージェントがコードを生成してきますと。で、人間はレビューしてみますってなるじゃないですか。そうしたらコードレビューできないといけなくないっすかっていう話になるんですよ。じゃあそのコードレビューするときに、コードが何を書いてるんか意味が分かれへんのにどうやってレビューするんですかってなりますよ」
AIが書いたコードの品質を保証するのは人間である。その際、プログラミングの基礎知識がなければ、AIの提案の良しあしは判断できない。
「人間は理解抜いたらダメです。ボトルネックは人間なんで、AIに適切なアーキテクチャを提案できるようにするためには、どういうふうに勉強していったらいいかっていう話になるんで。そうなったときに、プログラミング言語1個ぐらいコンセプトみたいなのをちゃんと理解する。コードを読んだだけで分かりにくいときは自分でちょっと作ってみればいいじゃないですか。そっちの方が人間は理解しやすいかもしれんし」
「僕はエンジニアですよ」と言える人生でありたい
現在55歳である牛尾さんは最後に、自身の「夢」を静かに吐露した。
「自分で思ってんのは、あと5年ぐらい頑張って、その後FIRE(早期リタイア)しようかなと。人生を振り返ると、僕は仕事ばっかりしてきたんで。仕事以外もうちょっとやる時間があってもいいんじゃないかなって」
いますぐではなく「5年」という猶予を設けるのはなぜだろうか。
「まだまだやりきった感がないからね。できてると思えへんし。だからこの5年で、ちゃんとやった、頑張った、ちゃんとできたみたいになりたい。僕クソ不器用なんで、人生でそういうことがないんすよ」
今まで「できた」と心から思えた経験がない。だからこそ、自分の限界まで挑みたいのだという。
「エンジニアとして一流かと言われれば、僕は全然そうではないので、もう5年めっちゃくちゃ頑張って、5年後に『僕はエンジニアですよ』って言えるようになって仕事をやめたい。それが僕の1番の夢」
「AIに仕事を奪われる」「コーディングが終わる」といった外野の騒ぎをよそに、最前線のエンジニアは、ただひたすらに自身の「本体の強さ」と向き合い続けていた。AIという最強の部下を従えながらも、泥臭く失敗を繰り返し、同僚と語り合い、アーキテクチャの真理を探求する。
5年後、牛尾さんが「僕はエンジニアですよ」と胸を張って言えたとき、AIと人間の共創は一つの到達点を迎えるのかもしれない。ブームの熱狂が去った後のAI時代を生き抜くのは、結局のところ、思考を手放さず、己を磨き続ける“人間”だけなのだ。
Go's thinking aloud 編集後記にかえて
インタビュー中に牛尾さんはよく笑う。場がとても和むし、何よりこちらの気持ちが楽になる。そしてよくしゃべってくれる。これもとても助かる。用意した質問を超えて、あっ、これも聞きたい、あれも聞きたいと思いが巡る。はて、それはインタビュアー泣かせか(笑)。
だが牛尾さんは一方的に話してばかりでは決してない。こちらの話も深く相槌を打ちながらしっかりと聞いてくれる。そんな牛尾さんが「AIのおかげで、ひらめいたアイデアを自分の過集中を使って全て具現化できるようになった」「(AIは)私にとって夢をかなえてくれる最高のツールだ」と言い切る。
AIによってプログラマーは不要になる、プログラミング言語を学ぶ意味がなくなる、などとちまたは喧しい。それについての牛尾さんのご意見はインタビュー本編に譲るが、牛尾さんが強調したのは「理解を手放さない」という一点だ。どんなにコーディングエージェントが進化しても、レビューは人間がやらなければならない、つまり生身の人間本体の、本当の実力が試される、それが明確になっただけのことだ、と。ならばそれが行き着く先はどうなるか、とつい先走った質問をすると「それは、いまは考えなくともええんちゃいますか」といなされた。
世の中は、あるときは緩やかに、あるときは急激に変わるが、必ず常に変わり続ける。そして既に優れたプログラマーやエンジニアの仕事のルールは変わった。それを強く意識して、変わったルールに従い、一日一日をしっかりとやり遂げる。思えばIT業界は、いつでもこの進化と学びの繰り返しではなかったか。牛尾さんいわく「そりゃ難しいことですけど、難しいと言ってたら、何だって難しいですからね」。
『部下としてのAI』(牛尾剛著、文藝春秋刊)は、現時点で分かっていると思えることを、ご自身に向けて整理したものでもあるとおっしゃる。だが書籍の内容もここからどんどん変化していくだろうと。この書籍は間違いなく、グローバルで戦う第一線のスーパーエンジニアの、実践から得た学びとその卓越した英知の結晶だ。一刻も早い精読をお薦めしたい。
阿部川“Go”久広
アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略担当、情報経営イノベーション専門職大学(iU)学部長、教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)元特任教授、インタビュアー、作家、翻訳家
コンサルタントを経て、AppleやDisneyなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在、iU情報経営イノベーション専門職大学の学部長、教授も兼務し、多くの企業とプロジェクトを推進。元神戸大学経営学部非常勤講師、元立教大学大学院MBAコース非常勤講師。ビジネスや起業のコンサルティング、英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーの他、作家、翻訳家としても活躍中。
編集部鈴木の Editor's view
2年前の取材時に牛尾さんは、「僕はずっとプログラマーになりたかったんですよね」と話していた。子どものころからプログラミングが好きで、でも不器用だから人3倍の努力をして、プログラマーであれる場所を求めて働く場所を変えてきた。そんな牛尾さんは、エンジニアがプログラミングをしなくなった世界をどう見ているのだろうか。大好きなギターを取り上げられた子どものように泣き叫んでいるのではないか。そんな心配をしていた。
著書『部下としてのAI』には、生成AIの超速な進化を前に「マジで職を失うかもしれないな」とおびえた牛尾さんが、AIを受け入れ、エンジニアとして生きると決めた覚悟が書かれていた。だが、それでも……と一抹の不安を抱いていたのだが、杞憂(きゆう)だったようだ。
ブラウザ越しにお会いした牛尾さんはにこやかで、生成AIの進化と浸透を受け入れた上で、人間(本体)の強さと理解こそが大切だという真理に行き着いていた。取材に同席した同僚や私の悩み相談に近い質問を丁寧に聞き、はげますようにアドバイスしてくれた。
牛尾さんは取材でも著書の中でも、お世話になった人たちの名前をたくさんだし、感謝を伝えている。そしていま、牛尾さんは多くのエンジニアやビジネスパーソンたちに感謝される存在になった。何より私がいま、めちゃくちゃ感謝している。もしも願いが1つだけかなうなら、牛尾さんがディープブルースを一生楽しめますように!
編集部から
「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍する外国籍のエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCTO(最高技術責任者)など、ぜひご一報ください。取材の確約は致しかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。
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