トークン使用量にROIを求めるのは、「当たる宝くじ」を買おうとするようなもの:Go AbekawaのGo Global! 牛尾剛さん AI vs.人間編(後編)(1/2 ページ)
米マイクロソフトでAIと向き合う牛尾剛さんインタビュー。後編では、AI導入のROI(投資対効果)を求める企業への示唆や、ビジネス部門のノウハウを「アセット化」する重要性に迫る。55歳の牛尾さんが描く「あと5年で『僕はエンジニアだ』と胸を張って言いたい」という真摯(しんし)で切実な思いも深堀りする。
国境を越えて活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。今回も、米マイクロソフトの牛尾剛さんにお話を伺った。
前編では、米国マイクロソフトの開発最前線では、既にコーディングエージェントのブームは去り、AIは「当たり前のツール」として定着したこと、AIを10倍のアーマーとして着こなすためには「本体の強さ」と「人間同士のコミュニケーション」が重要だという話を伺った。後編では、AI利用にROIを求める企業への苦言や、牛尾さんの5年後の夢などを伺った。
ビジネス部門の悩みと「アセット化」の是非
AIが人間の業務を代替していく中で、不安を抱えているのはエンジニアだけではない。例えば営業などのビジネス部門では、自身の持つ「ドメイン知識」(特定の業界、業務分野の専門知識やノウハウ)を言語化してAIに与えてしまえば、自分たちの価値がなくなるのではないかという切実な悩みがある。
人間の「暗黙知」をAIに食わせることは、企業の生産性を上げる一方で、個人の存在意義を揺るがす行為にも思える。しかし牛尾さんは、こうした不安を優しく打ち消す。
「気にしなくていいです。いまのうちはドメイン知識最強的なところあるんで、『本体の強さが最強』は変わんないんじゃないですかね。どっちかというとオートメーションって考えた方がいいと思うんです。AIが何かをしてくれるのではなくて、本来人がやってたことをオートメーションしてくれるもんであると。多分、AIは1番ドメイン知識のある人間には勝てないですよ」
そして、個人のノウハウをAIでアセット(資産)に変えること自体が、これから最も評価されるべき「バリュー」(価値)なのだと語る。
「自分が出し惜しみするよりも、AIにアセットを与えて他の人も実行できるようにするってすごいアウトカム(成果)じゃないですか。すごいバリューですよね。そんな感じでやってその人が楽になれば、他のことに脳みそを使えるはずなんですよね。だから、出し惜しみせんとそういうのはやる。そういう活動の方が大変なんです。いかにアセットを作るかとか、みんなにそれを協力してもらうかとか、アセットをアップデートするとかね。そういうのが価値がある行動ですね」
ROIを急ぐのは「当たる宝くじ」だけを買おうとする愚
しかし、いざ企業としてAIを推進しようとすると、必ずぶつかる壁がある。「コスト」と「ROI(投資対効果)」だ。AIツールを使えば使うほどコストが上がり、経営層が「どこまで投資していいか分からない」と判断に迷うケースは日本企業に限らず多い。
牛尾さんは、この「最初から成果(ROI)を求める姿勢」を、痛烈な比喩でバッサリと切り捨てる。
「理屈で言うとROIがっていうのが分かるけど、研究開発と一緒で、『芽が出る研究開発にフォーカスして投資しよう』っていうのは、どれが当たるか分からへんけど『当たる宝くじを買おう』って言ってるのと一緒。そんなん“無理にゃんにゃん”よって感じじゃないですか?
何でいま各企業がトークンの使用量とか締め始めてるのかって言うと、AIの『訳が分かってきたから』ですよね。でも訳が分かるまではそういうフェーズが必要やと思うんすよ。だからアセットを開発する人はジャブジャブに使えた方がいいんじゃないかな。失敗を許容せんといきなり初手からROIを求めるとか、マイクロソフトでも無理やったんやから、普通の企業だともっと無理じゃねえかよって感じ」
最初から「当たり」の活用法だけを見つけることはできない。まずは特定の人材にジャブジャブとAIを使わせ、失敗を許容しながら暗黙知の「アセット」を構築する。そのフェーズを経なければ、真のROIに到達することはできないのだ。
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