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資生堂ジャパンが挑む「多少情緒的」なAIトランスフォーメーションって何だ?(3/3 ページ)

資生堂ジャパンが全社的なAIトランスフォーメーションに取り組んでいる。情緒的、右脳的な要素を重視し、トップダウンでもボトムアップでもないサンドウィッチ型推進体制を採用。130名のアンバサダーが「失敗しないAIの業務活用」を進めている。

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業務の判断を再現する業務特化型エージェントの開発

 現場での日常利用が定着する一方で、より複雑な業務や専門的な判断を支援する仕組みの開発も進められた。定型的な情報検索や文書作成の枠を超え、企業の持つ専門知識を再現する「業務特化型エージェント」の開発である。

 資生堂で業務特化型エージェントの開発に携わる徐氏は、業務知識の理解、業務判断の再現、継続的な改善の3つの要素を設計の基本としていると述べる。開発においては、複雑なロジックを厳密に制御する「スクラッチ実装」と、迅速な構築を可能にする「プラットフォーム活用」の2つのアプローチを、業務の性質に応じて使い分けた。


業務特性に応じて、スクラッチとプラットフォーム活用の2つのアプローチを適切に選択する

 事例として、徐氏は研究開発領域において開発した「エキス原料探索エージェント」を挙げる。これまで新規テーマに合致する化粧品原料をデータベースから選定する作業は、ベテラン研究員の長年の経験と知識に依存していた。この属人化により、1回の探索に膨大な時間を要し、選定される原料候補が限られるという課題が存在した。

 これを解決するため、研究員の思考プロセスを再現する設計が行われた。検索の精度を高めるため、幾つかの工夫が施された。

 利用者の曖昧なプロンプトを適切な業務文脈に変換する「HyDE」(Hypothetical Document Embeddings)を導入。次にベクトルの意味検索とキーワード検索を組み合わせた「Hybrid RAG」により、専門用語や成分名の合致率を高めた。さらに、抽出された大量の候補を複数の言語モデルで自動的に評価する「Multi LLMレビュー」を採用し、候補の妥当性を多面的に評価する。そして、独自開発のUIからGemini Enterpriseへの展開を行い、セキュアな運用環境の整備、データ連携基盤の構築も行った。

 この結果、原料の探索に要する時間は95%削減され、提案される原料のバリエーションは20%から50%増加したと徐氏は述べる。


業務高度化を支えるエージェントの工夫

 2つ目の事例として、EC領域における「Commerce Insight Agent」を紹介する。これは顧客との接点における体験向上と、そこから得られる改善サイクルの高速化を目指したシステムである。ここではプラットフォームを活用して迅速に立ち上げられること、運用コストを抑える工夫がなされた。

 このシステムは、予算や効果に合わせた商品提案、使用期限や順序などの悩み相談、定期便の配送変更といった多様な顧客対応を自然な対話で実現する。さらに、顧客との対話履歴や行動データを、「BigQuery」や「Vertex AI」を用いたデータ基盤に集約する。

 「EC運営ではお客さまがなぜ購入しなかったのか、どこで迷っているのかが見えづらいという課題がある。Commerce Insight Agentは顧客行動や対話内容を基に顧客コンテクストや意図を可視化できる。さらにその結果を基に商品説明やFAQ動線などの見直しに生かすことで、現場での継続的な活用を支援でき、顧客体験の向上や業務の高度化が実現できる」(徐氏)


業務特化型エージェントは単なる作業の自動化ではなく、判断と改善サイクルの高度化を実現する

科学と情熱の融合が拓くAgentic Commerceの未来

 一連のAIXを牽引した永盛氏は、変革を成功に導くポイントについて、変革のデザインとプランニングに加え「サイエンティフィックな合理性と、泥臭さや情熱を伴うパッションを掛け合わせ、両輪で進めること」だと述べる。

 資生堂の最大の強みは、全国に存在する美容部員が直接顧客に寄り添い、丁寧なカウンセリングを行うことにある。しかし、店舗を訪れず、まずは対話型システムを介して自分に最適な化粧品を納得して選びたいという顧客行動の変化もある。同社はこの市場変化を捉え、技術を用いて伝統的な美容提案の価値をデジタル空間に拡張しようとしている。

 人間の強みである温かみや感性と、デジタル技術の即時性や正確性を融合させる――。永盛氏は「伝統の部分と新しく革新的な技術の両面が必要。皆さんの声をいただきつつ、次の新しいビューティーの世界を作っていきたい」とセッションを締めくくった。

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