連載 企業コミュニケーションとツール活用法(3)

コミュニケーション・ツールの活用事例(蓄積型編)

リアルコム
長谷川 玲
2005/12/10

- カテゴリ[B]の事例 − グループウェア

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 まずは、カテゴリ[B]の代表であるグループウェアである。グループウェアは、複数の人間でリアルタイムではないコミュニケーションや情報共有を行うためのシステムである。情報が徐々に蓄積され、参照する側は必要に応じてそこにアクセスし、情報を入手するという「プル型」のコミュニケーション・ツールである。

 グループウェアは、企業が持つ情報・ナレッジ・経験を形式化して蓄積でき、多人数での情報共有と再利用、継承を容易にする。従来のグループ内でのファイル共有にとどまらず、有効に活用している事例を紹介しよう。

■コミュニティの“場”を作る

 まず1つ目は、建築土木関連の調査・コンサルティングを行う企業である。調査現場において本当に役に立つ知識や経験というのは、調査報告書ではなく調査員の頭の中にある。これをどうやって引き出し、共有すればよいのか──。グループウェアの導入目的はこのようなものだった。

 まず、情報の登録・閲覧は支店や部署ごとではなく、テーマや業務ごとにし、支店を横断する形で、あるテーマに興味があったり同じ業務を行ったりしている技術者、調査員が集まる“場”をグループウェア上に構築、提供した。すなわち、「コミュニティ」の概念を用いて、ノウハウを共有する仕組みとしたのである(図2)。

図2 コミュニティの概念

 その効果として、支店ごとに分断されていたノウハウが全社的に共有でき、業務の迅速化につながった。

 このグループウェア事例と同様のソリューションを電子メールで実現することは、まったく不可能というわけではない。しかしまず、ノウハウを持っている側の人は「誰にメールすればよいのか分からない」という問題に直面する。自分と似た仕事をしているのは誰かを知る“場”が必要なのである。これはメールだけでは解決しない。また仮に支店や部署をまたがって、「全社の営業担当者」「全社の技術者」というようにグループを設定して一斉メールやメーリングリストを使ったとしても、そこに参加するメンバーの個性や興味をよく知らないのであれば、発信が“押し付け”にならない保証はない。さらにメールでのやりとりはあて名(Cc含む)以外の人には共有されないので、想定していなかった人からの意外なアイデアを得るといったことは期待できない。こうしてみると、「刹那(せつな)的な情報」ではなく「蓄積的な知識」を全社的に共有する仕組みを構築するには、電子メールはあまり向かないといえるだろう。

 他方、「多過ぎるメール」と同様に、グループウェアにも時間がたつにつれて登録情報が増えていくと、「情報過多」になるという問題がある。こういった状況を打破するためには、情報の棚卸し作業が必要で、そのための仕組み(アクセスログの集計など)が不可欠だ。誰がいつどの情報にアクセスしたのか、どの情報が皆に利用され、価値があるのかを把握・分析することが大切だ。

 このような分析は、新しいグループウェアに切り替えたりアップグレードしたりといった移行作業を行う際に便利だが、これを継続的に測定することで情報の発信側のモチベーションと発信される内容の質を上げることに有効に作用する。自分の投稿した情報があまり有益でないという評価を得ているか、あるいはほとんど参照されていないということが分かると、さすがに本人も反省したり考え直したりするだろう。逆に、自分の情報が活用されていると分かればやる気も出るし、より良い情報を載せようと思うものだ。

■不要な情報を吟味する

 次の事例は、金融機関での活用方法である。ある都市銀行では本店と支店間では明確に上下関係があり、原則的に通知は本社から支社へと一方向へ流れるものであった。ところが、本店側は一方的に情報を発信するだけで、支店で本当に活用されているのかが分からず、支店の方は必要な情報が続々と届くばかりでどこに何があるのかが分からないという課題もあった。

 そこで、投稿した情報に対してフィードバックを行う仕組みを取り入れ、内容に対する評価を把握できるようにした(図3)。これにより、「ただ発信するだけ」であった本店側の業務に、メリハリが出るようになったのである。

図3 本店/支店間での双方向コミュニケーション

 また、「1件の情報を見るのに必要な時間」を考慮することで無駄な情報発信を減らすといった方針で運用を行っている。例えば、1000人の従業員に対して情報を発信するとして、1件の情報を読むのに1分かかるならば、トータルで1000分つまり約16時間分の人的リソースを消費することになる。こうしたことを考慮に入れれば、発信する前に本当にそれだけの価値があるのか、本当に発信すべき相手は誰なのかを検討することになるだろう。

 なお、この金融機関では、移行前に過去に蓄積された大量の文書を棚卸ししたところ、なんと既存の文書のうちわずか6%だけが本当に必要な文書だということが分かった。そこで残りの94%を廃棄またはアーカイブし、必要な6%は業務フローに合うように再分類して移行した。電子メールで紹介した事例同様、最初に現状を数値的に把握してみることは大変重要である。

- カテゴリ[B]の事例 − ブログ

 同じくカテゴリ[B]に属するといえるブログを取り上げてみよう。ビジネス目的でブログを使っているところはまだ少数かもしれない。いわゆる「社長ブログ」のようにマーケティング・PRのためのメディアとして、自社のWebサイトや特定のブログ・サイトに社外向けのメッセージを掲載している企業がほとんどだろう。全社的に使っている例はあまり多くなさそうだ。しかし、いくつかの企業では社内外への情報発信や蓄積型コミュニケーションのためのツールとして活用している。

■個人の知恵を開かれた知識に

 例えばある企業では、研究開発部門のエンジニアが、日々の発見や業務内容、技術的な記事を社内向けに掲載しているという。ブログは一方向な情報発信になりがちだといわれるが、その企業の社内ブログではほかのエンジニアからのコメントがあるなど双方向のコミュニケーションとなっている。情報を発信しているエンジニア自身も、最初はほとんど「独り言」のようなもので「誰も見ないとは思うけれど……」と思っていたが、普段はあまり交流のない同僚やベテランの技術者からのコメントに加え、ある尊敬する技術部門の取締役からのコメントがあるのを見てとても感激したという。

 ブログというスペースでの情報発信やディスカッションは、業務と関連はするものの若干の距離が保て、業務日報のように発信側と読者の間に上下関係があるわけではない。「気軽」ではあるが、社内ブログであるために内容は「真剣」なものである(社内ブログ上のやりとりが2ちゃんねるのような状態になることはあまり想定できないだろう)。しかもその内容はデータとして記録・蓄積され、ほかの人間が参照することもできる。参加する方も時間があるときに自由に参加すればよい。参加者が役職や所属組織に関係なく、同じレベルで行うピア・ディスカッション(同輩との議論)であるともいえ、新しい知識やアイデアの創発にも役立つかもしれない。改まって会議を開いてもなかなか出てこない意見や、人前ではなかなか話さないようなメンバーの意見を取り入れることもできるだろう。

 電子メールとは違って、ある程度不特定な相手を対象としたコミュニケーションが、グループウェアやブログでは可能になる。これまでもメーリングリストなどでも似たことは実現できていたともいえるが、最初に述べたように、グループウェアやブログの方が得意なコミュニケーションをメールで行うと、メールの件数があふれてしまう。本来メールが持つ、受信相手を明確に特定する──というメリットを消してしまうのである。

 今回は、「蓄積型(非同期型)」に分類される社内コミュニケーションのためのツールの事例を、「メール」と比較した場合の違いを挙げながら紹介した。メール以外のツールを利用した方が効果的なこともあるだろうし、メール以外のツールに目を向けることで、これまでできていなかった新しい社内コミュニケーションを実現できることもあるといえる。次回は活用方法と事例紹介の後半として、「リアルタイム型」ツールの活用事例を紹介していこう。

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2/2 第4回

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連載:企業コミュニケーションとツール活用法(3)
 コミュニケーション・ツールの活用事例(蓄積型編)
  Page 1
電子メールの基本的性格とメリット/デメリット
 電子メールの便利さが呼び込む“依存症”
Page 2
カテゴリ[B]の事例 − グループウェア
 コミュニティの“場”を作る
 不要な情報を吟味する
カテゴリ[B]の事例 − ブログ
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■要約
発信が容易で便利な電子メールは社会に広く普及しているが、メッセージ件数が予想以上に多くなり、重要なメッセージが埋もれてしまうという問題が出てきた。電子メールの利点を生かすにはその弱点を補完するツールを利用し、特性に合わせて運用することだ。

ある建築土木関連の調査会社では、グループウェア上にコミュニティを作り、支店ごとに分断されていたノウハウの全社的な共有を図った。こうした「蓄積的な知識」を共有する手段に電子メールはあまり向かないといえる。

また、ある都市銀行では通知が本社から支社へと一方的に発信されるものだったが、グループウェアで支店からフィードバックを行う仕組みを取り入れ、内容に対する評価を把握できるようにした。これにより、発信側は何をどう発信すべきかを検討するようになった。

ある企業の研究開発部門ではエンジニアが、日々の発見や業務内容、技術的な記事を社内向けにブログに掲載している。これが参加者が役職や所属組織に関係ない、ピア・ディスカッション(同輩との議論)を生んでいる。

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長谷川 玲(はせがわ れい)
東京工業大学卒業後、ドイツ系・米系ソフトウェア企業にてプロダクトマネジメント、製品マーケティングなどに従事。リアルコムではKnowledgeMarket製品のコミュニケーション力強化に向けて、パートナリングやマーケティングを担当。


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