オブジェクト指向データベースの復権(前編)
CachéとObjectStore、脱RDBMSの真価を探る Page 3
2004/9/2
山田祥寛
■ObjectStore―CFAがパフォーマンスと拡張性を支える
ObjectStoreは、CFA(Cache-Forward Architecture)と呼ばれる特許技術が特徴のOODBだ。CFA技術はObjectStoreやそのほかのRDBから取得したデータをアプリケーション層にローカルキャッシュとして保持する。これによって、アプリケーションは、ボトルネックとなりがちなバックエンドサーバに要求を送ることなく、ローカルキャッシュからメモリアクセスと同等のスピードでデータを取得できる。また、CFA技術は分散キャッシュとバックエンドサーバ間の整合性管理や複数キャッシュ間のロードバランシング(負荷分散)、障害時リカバリなどの機能を提供することで、エンタープライズシステムでの用途にも耐え得る安定性を提供する。これらCFA技術に関する詳細は、@ITのFYI記事「RDBのボトルネックを解消する「キャッシング技術」とは?」が詳しいので、興味のある方は併せて参照してほしい。
なお、ここで興味深いのは、ObjectStoreのキャッシュ技術を利用することで、従来のRDBとOODBとのハイブリッドな連携システムも実現可能だということだ。つまり、よりビジネス・オペレーショナルなデータ――例えば、刻一刻と変化する在庫データや金融における取引データ――の操作はObjectStoreで、データモデルの集計やマスタ管理などの固定データの操作は従来のRDBで行う「水平ハイブリッド型」、あるいは、RDBのフロントエンドとしてObjectStoreを用いる「垂直ハイブリッド型」というように、用途に応じてObjectStoreの配置を組み替えることが可能となる。
図5 垂直型ハイブリッドと水平型ハイブリッド |
Operational System | Transactional System | Analytics | |
Amazon | オンライン在庫管理 | 本の購入 | 売上傾向分析 |
Goldman Sachs | マーケットデータ管理 | トレーディング | コーポレートリスク管理 |
Delta | 飛行経路探索 | 予約 | 適正な飛行運賃 |
Orange | 顧客管理 | 請求 | 顧客維持 |
アプリケーション |
アプリケーション |
||
表2 ObjectStoreが提唱する「Operational System」の構成図 |
ObjectStoreは、もともと金融商品などリアルタイムなデータ処理が求められる金融業界、あるいは、複雑かつ変動の激しいデータモデルを特徴とするテレコムやCAD/CAMなどの業界に適用されてきた製品だ。つまり、ObjectStoreの登場当初は、RDBの適用が難しい分野を補完する水平ハイブリッド型的な位置付けでの活用がメインであったといえる。
しかしその後、1995年前後を境に、WWW(World Wide Web)が次第にビジネス密着の傾向を強めてくるに伴い、高負荷なサイトのパフォーマンスを支えるソリューションという位置付けでの再評価がなされることとなる。つまり、従来のRDBをバックエンドに置きつつ、ObjectCacheをミドル層に配置する垂直ハイブリッド型的な適用だ。特にこの時期は、J2EE(EJB)がパフォーマンス上の問題を指摘されることが多かった時代でもある。「Javlin(ジャバリン)」と呼ばれるObjectStoreのキャッシュ・モジュールが、EJBアクセラレータとして適用されるケースが多くなった。Javlinは、後に「ObjectCache」と呼ばれるようになる製品である。
さらに1998年10月、XML1.0が正式にW3Cから勧告されると、システムへのXML適用の事例が次第と増えてくる。そこで登場したのが、ObjectStoreをXML機能に特化させたNXDB(Native Xml DataBase:ネイティブXMLデータベース)である「Sonic XIS(eXtensible Information Server)」だ。Sonic XISにおけるコアエンジン(DXE:Dynamic XML Engine)は、ObjectStoreから見ると、いわゆるクライアント・アプリケーションの位置付けに当たる。もちろん、ObjectStore単体でもXMLデータベースとして利用することは可能であるが、XML機能に特化したSonic XISを利用することで、より簡便にXML連携が可能になるというわけだ。Sonic XISに関する詳細については、拙稿「XMLデータベース製品カタログ 2003〜ネイティブXMLデータベース編〜」が詳しいので、興味のある方は併せて参照してほしい。
ObjectStoreをベースとした製品はObjectCache、XISだけではない。リアルタイムなイベント処理に特化した「RTEE(Real Time Event Engine)」や組み込み用途にフォーカスしたシングルプロセス版ObjectStoreである「PSE Pro」なども用意されている。それぞれの適用局面に応じたラインアップが提供されているのもObjectStoreの魅力だ。
今後は、無線ICタグ技術であるRFID(Radio Frequency IDentification)に特化した製品や.NET Framework対応のインターフェイスの開発を進めるなど、ObjectStoreはさらに適用範囲を拡大していく予定だという。(次ページへ続く)
3/4 |
Index | |
連載:オブジェクト指向データベースの復権(前編) CachéとObjectStore、脱RDBMSの真価を探る |
|
Page
1 ・オブジェクト指向データベースの置かれた状況 ・オブジェクトモデルをそのまま格納できるメリット |
|
Page
2 ・Caché―多次元データモデルが効率的なデータ管理を実現 ・Cachéの機能進化の歴史 |
|
Page
3 ・ObjectStore―CFAがパフォーマンスと拡張性を支える ・ObjectStoreの機能進化の歴史 |
|
Page
4 ・個性的な進化を遂げたOODB |
オブジェクト指向データベースの復権 |
- Oracleライセンス「SE2」検証 CPUスレッド数制限はどんな仕組みで制御されるのか (2017/7/26)
データベース管理システムの運用でトラブルが発生したらどうするか。DBサポートスペシャリストが現場目線の解決Tipsをお届けします。今回は、Oracle SE2の「CPUスレッド数制限」がどんな仕組みで行われるのかを検証します - ドメイン参加後、SQL Serverが起動しなくなった (2017/7/24)
本連載では、「SQL Server」で発生するトラブルを「どんな方法で」「どのように」解決していくか、正しい対処のためのノウハウを紹介します。今回は、「ドメイン参加後にSQL Serverが起動しなくなった場合の対処方法」を解説します - さらに高度なSQL実行計画の取得」のために理解しておくべきこと (2017/7/21)
日本オラクルのデータベーススペシャリストが「DBAがすぐ実践できる即効テクニック」を紹介する本連載。今回は「より高度なSQL実行計画を取得するために、理解しておいてほしいこと」を解説します - データベースセキュリティが「各種ガイドライン」に記載され始めている事実 (2017/7/20)
本連載では、「データベースセキュリティに必要な対策」を学び、DBMSでの「具体的な実装方法」や「Tips」などを紹介していきます。今回は、「各種ガイドラインが示すコンプライアンス要件に、データベースのセキュリティはどのように記載されているのか」を解説します
|
|