解説

実例で学ぶASP.NETプログラミング
―― ショッピング・サイト構築で学ぶASP.NET実践講座――

第1回 ASP.NETの観点からショッピング・サイトを定義する

小田原 貴樹(うりゅう)
2002/11/01

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本連載の主旨

 統合開発環境であるVisual Studio .NET(以下VS.NET)の日本語版が発売されて半年以上が経過し、さまざまな開発現場で使用が検討されていたり、すでに実際の開発フェイズに入っていたりと、本格的な利用が始まってきている。

 しかし、特にASP.NETに関していえば、ほかのWeb開発プラットフォームと比較して、よくいえばあまりに先進的すぎるため、とっつきにくい部分もあるように見受けられる。より現実のシステムに近い、実践的なサンプルが、現状ではほとんど存在していないせいもあるだろう。

 筆者は@ITのInsider.NET会議室によく出没して(笑)おり、ここでいろいろな質問を見るのだが、ASP.NETの実装ベースにおける方法論に関する質問がかなりの割合を占めているように見受けられる。ASP.NETは、VS.NET上で記述できる、これまでのWeb開発プラットフォームとは一線を画した環境である(Javaの環境にかなり近いといえる)。しかしだからといって、Web上に存在するさまざまな制約や規約、HTMLの限界やブラウザの仕様、HTTPの動作などから解放されているわけではない。システム開発にあたり、そうした知識が要求されているという点も、混乱をさらに深める要因になっているだろう。

 と、いうことでこの連載では、筆者が開発して実際に販売・構築しているハーフパッケージ・ショッピング・サイト・システムである「V-STORE.NET」という商品を元に、ショッピング・サイトの一連の製作を通して、実装ベースのASP.NETのノウハウやテクニックなどを把握していただくことを主旨としている。この連載を通して作成するショッピング・サイトは、商品のデモ・サイトとして不完全ながら動作する状態で公開されているので、動きなどに関してはそのサイトの方も参考にしていただければ幸いである(デモ・サイトはこちら『http://www.v-st.net』。なお現時点では若干不完全なこのサイトは、連載が進むとともに完成度が向上する予定である(笑))。

筆者が公開しているデモ・サイト「V-STORE.NET
このサイトは、筆者が開発して実際に販売しているショッピング・サイト・システムを利用して構築したデモ・サイトである。本連載では、このショッピング・サイトの一連の製作過程で得た、ASP.NETの実装ノウハウやテクニックを紹介していく。

 画面を見ていただいても分かるように、このデモ用ショッピング・サイトは日本酒を販売するためのものである。ここで、デモ・サイトとして公開している「VS屋」が、なぜ日本酒販売なのか? を簡単に紹介しておきたい。実はこのデモ・サイトには日本酒専門ショッピング・サイト「一升瓶.COM」という実際に稼働しているモデルがあり、筆者が所属している会社が企画・開発している。デモ・サイトを製作する際に、デモといえどもある程度のリアリティと専門性が必要であったために、各種データなどを利用させてもらっている。ただし「一升瓶.COM」は、プロジェクト・スタートが約2年前であったために、ASPで製作されたサイトになっている。そこでこのサイトと、ASP.NETで開発された「VS屋」とを比較していただくのも面白いかもしれない。

本連載の読者対象

 Insider.NETのサイト内には、すでにVisual Basic .NET(以下VB.NET)やASP.NETの言語仕様を分かりやすく解説した連載がある。従ってこの連載では、そうした言語仕様などに関してあらためて解説・言及することはしない。そうした基本的なことをある程度理解されている方を対象に、ショッピング・サイトという構築物を作成する。といっても、基本的にはVS.NETを使用して流れを追って解説していくので、逆にいえば、何らかのプログラミング言語による開発経験があれば、VB.NETなどの最新の言語仕様を一切理解していなかったとしても、読み進むことができるかもしれない。文中にはVB.NET/HTML/CSS(Cascading Style Sheet)/Java ScriptSQLなどのコードが登場することになるが、それぞれの命令やタグに関する詳細な解説も省くので、それらについては鋭意ほかのドキュメントを参照されたい。

 誤解を恐れずに例えるならば、この連載は、

「キュー○ー3分間クッキング」

のようなものだ。「包丁の使い方」や「『みりん』とはどういうものか」について完全に理解していなかったとしても、料理は作れる。それと同じくプログラミングにおいても、製作の手順と実装のためのノウハウが分かってしまえば、道具立てを個別に完全に理解していなくても、取りあえず「動くものを作る」ことはできる。もちろん、言語仕様などの基本を身に着けておけばさらによい。しかし、オブジェクト指向型言語の本質は「どこまで覚えるか」では決してない。大事なのは「何を作り出すか」を自分自身がしっかりと意識することにある。この連載は、ショッピング・サイトという題材を元に、あなたが今後「何かを作り出す」ときのための構築のモデル・ケースを、流れを追って解説する。その上で「どう作るか」という問題に対し、なるべく楽に解決するノウハウを提供しようとするものである。

 と能書きを並べたところで、本論に入る前に明言しておきたいのだが、この連載は、以下の5つ点が普通の技術解説と比較して偏っている。

  1. あらゆる開発作業はVS.NET開発環境上で行う。
  2. なるべくGUIベースで作る。
  3. 「コードビハインド(分離コード)」オンリーである。
  4. 実行環境としてのWebブラウザは、Internet Explorer 5.0以上のみを対象として開発する(といっても、Webブラウザのシェアは、この条件でも90%以上を占める)。
  5. 各言語の正当性についてあまり考慮しない。各言語に流れる思想に沿ったコーディングかどうかなどはあまり考えず、楽なコーディングを優先する。

 このような前提から、本連載で構築するWebサイトは、決して「最適な」構成ではない。特にオブジェクト指向型となったASP.NETでは、1つの事象を解決するためにとり得る方法論がいくつも用意されているので、何が「最適」なのかは時と場合によって異なる。ここで、ハッキリいい切ってしまおう。私のような現場のプログラマーにとって、コーディングという作業工程は、

『動けばいい』

が前提であり、さらに、

『楽ならなおいい』

というのが正直な思いである。もちろんプログラミングに対する姿勢は技術者によってさまざまなので、読まれる方によっては納得しかねる内容かもしれないが、そのあたりはご容赦願いたい。

 

 INDEX
  実例で学ぶASP.NETプログラミング
  第1回 ASP.NETの観点からショッピング・サイトを定義する
  1.本連載の主旨と読者対象
    2.ショッピング・サイトの定義
    3.ASP.NET Webプロジェクトを新規作成
 
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