Insider's Eye
Tech・Ed 2001:VS.NETベータ2など、プログラマ待望の最新版.NET開発環境がついに登場デジタルアドバンテージ 遠藤孝信 2001/06/21 |
2001年6月19日より、米国ジョージア州アトランタにおいて、Microsoftの技術者向けカンファレンスであるTech・Ed 2001が開催された。かねてより今回のTech・Ed 2001では、Microsoft.NET向けの開発環境の最新版(Visual Studio.NET(以下VS.NET)ベータ2)が参加者に配布され、.NETに関する最新情報が公開されると予告されており、内外から多数の開発者が会場に集まった。すでに、VS.NETベータ1は昨年より公開されていた。しかし前評判では、ベータ1からベータ2へのバージョンアップでは、クラス・ライブラリなどを始めとして、かなり大幅な改変が加えられると噂されており、プログラマにとっては待ちに待った開発環境の登場となる。マイクロソフトの説明によれば、クラス・ライブラリの基本的な構成などはこのベータ2で確定し、以後は微調整レベルで最終製品まで推移するとしている。つまりプログラマにとってこのベータ2は、ある程度安心して(バージョン間での大幅な修正を気にすることなく).NETプログラムを開発できる最初のバージョンとなるわけだ。
VS.NET、.NET Framework SDKの最新版(ベータ2)がダウンロード可能に
Visual Studio.NETベータ2(英語版)は、Tech・Edでの発表と同時に、マイクロソフトのMSDNユニバーサル会員を対象としたダウンロード・サービスが開始された(VS.NETベータ2の製品オーバービューのページ[英文])。またこれと同時に、.NET対応プログラムを開発するためのコンパイラやクラス・ライブラリ、プログラム実行環境、各種開発ツール、ドキュメントなどをひとまとめにしたソフトウェア開発キットの.NET Framework SDKベータ2(英語版)のダウンロード・サービスも開始された。こちらはMSDN会員だけでなく、誰でもダウンロードすることが可能である(.NET Framework SDKベータ2のダウンロード・ページ)。.NET Framework SDKの詳細については、本サイトの別記事「特集:.NET Framework SDKで始める.NETプログラミング」を参照されたい。
XML Webサービスのメリットを強調
米Microsoft社チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのビル・ゲイツ(Bill Gates)氏は、2日目のキーノート・スピーチを行った。この中で同氏は、Visual Basicが生誕10周年を迎えたことを発表するとともに、過去10年間のVisual Basicの躍進になぞらえ、「現在のXML Webサービスは、10年前のVBと同じくらい重要だ」と述べた。これまでは単に「Web Service」と呼んでいた.NETのキーテクノロジは、今回のTech・Ed 2001からは「XML Web Service」と呼称を変更・統一したようだ。単なる「Web Service」では、伝統的なWebページでの情報サービス(今ご覧になっているページのように、ブラウザで静的に表示されるもの)と区別がつきにくいということだろうか。真意のほどは不明である(Webサービスの詳細は用語解説「Webサービス」を参照)。
このビル・ゲイツ氏のキーノート・スピーチを始め、今回のTech・Ed 2001では、事前予想を大きく覆すような新発表は飛び出さなかったようだ。しかしVS.NETベータ2の公開と、それに付随して発表された各種開発環境など、いくつか注目すべきものもある。以下では、これらについて簡単にまとめてみよう。
Visual Studio.NETベータ2
すでに述べたとおり、.NETアプリケーションを構築するための統合開発環境であるVS.NETのベータ2は、MicrosoftのWebサイトよりダウンロードできる(Visual Studio.NETベータ2のダウンロード・ページ)。ただしベータ1と同様、VS.NETをダウンロードできるのはMSDNユニバーサル会員のみに限られる。
このVS.NETについては、2001年5月に次の3つのバージョンが発表された(米Microsoft発のニュース・リリースの参考訳「マイクロソフト、Visual Studio.NET Enterprise Toolsを公表」)。このうち今回公開されたのは、Visual Studio.NET Professionalに相当するものだ。
VS.NETバージョン | 内容 |
Visual Studio.NET Professional | 統合開発環境とVB.NET/VC++.NET/C#.NETのコンパイラを含む基本的な開発環境 |
Visual Studio.NET Enterprise Developer | Professional版に加え、Visual Source Safe、ビジュアルなデータベース・ツールなどを含む開発環境 |
Visual Studio.NET Enterprise Architect | Developerに加え、BizTalk Server Developer Edition、データベース・モデリングなどを含む最上位の開発環境 |
VS.NETの3つのバージョン |
.NET Framework SDKベータ2
前述したとおり、.NET Framework SDK(以下.NET SDK)は、.NETアプリケーションを作成し、テストし、配置するのに最低限必要な、ドキュメント、ツール、コンパイラ、サンプル・プログラムなどが収められたものだ。こちらはVS.NETとは違い、インターネットから誰でもダウンロードすることができる(.NET SDKベータ2英語版のダウンロード・ページ)。
ベータ2で提示された使用条件によれば、前出のVS.NETおよびこの.NET SDKベータ2を用いて開発されたアプリケーションを製品として出荷(shipping)することはできないが、ASP.NETを使用したWebアプリケーションなどは商用で使用することが可能である。ただしこの場合には、Visual Studio.NETベータ2サイトにて「ASP.NET Go Live license agreement」を受ける必要がある(このサイトへのアクセスには認証が必要だが、登録は無償で行える)。
なおこのVisual Studio.NETベータ2サイトでは、VS.NETベータ2に関して、すでに明らかになっている問題点などが「Late-Breaking Known Issues」として公開されている。VS.NETベータ2を使ってプログラム開発を行うプログラマは、開発環境自体の問題によって無駄な時間を使わないように、この情報に目を光らせる必要があるだろう。
ここでは.NET SDKベータ2をインストールし、その使用感を簡単に述べておこう。ベータ1では、ビルド番号がv1.0.2204となっていたが、ベータ2ではこれがv1.0.2914となっていた。
.NET Framework SDK ベータ2のセットアップ画面 |
ビルド番号は、ベータ1のv1.0.2204からv1.0.2914に変わっていた。 |
まず、.NET SDKに付属するドキュメントやサンプルは、分量的には若干増えており、項目ごとに分類されて調べやすくなっている。またドキュメントは、ベータ1のWindows HTMLヘルプ・ファイル(.chmファイル)ではなくなり、Document Explorerというビューア(ブラウザ)で閲覧するようになった。このDocument Explorerでは、VS.NETと同様のドッキング可能なペイン形式になっているので、使い勝手は向上している。ただし、クラス・ライブラリのリファレンスには、まだかなりの[To be supplied.](提供予定)の項目が残っているようだ。細かいことだが、この新しいドキュメントでは、あるクラスを参照した場合に、その派生クラスも表示されるようになった。これは便利だ。
Document Explorerでクラス・ライブラリのリファレンスを表示している画面 |
Visual Studio.NETと同様のドッキング可能なペイン形式になっており、操作性は向上している。 |
ざっと眺めた程度でも、クラス・ライブラリのかなりの部分がベータ1から修正されていることに気づく。ドキュメントが収められたディレクトリの下の、api_changeディレクトリには、これらの変更点を列挙したファイルがある。その数は膨大だ。特に、Windows Forms関連のクラス・ライブラリに修正箇所が多いようだ。ベータ1で記述したプログラム・コードをベータ2環境で再コンパイルするためには、少なからず修正が必要となるだろう。
ベータ1と比較した場合の大きな変更点の1つは、WSDL(Web Services Description Language)のサポートだ。ベータ1が発表された時点(2000年12月時点)では、まだWSDLの規格が確定しておらず、マイクロソフト独自のSDLがWebサービスの記述言語として用いられていた。しかしここにきてWSDLも規格が固まり、それが.NET Frameworkにも正式に反映された。最近になって登場してきた新しいXML Webサービスは、サービス記述言語としてWSDLを採用している。ベータ2でのWSDL対応により、VS.NETや.NET SDKで開発したサーバやクライアントと、これらのWebサービス間での相互運用性がテストできるようになった。
.NET Frameworkベータ2(再配布パッケージ)
今回のベータ2で特筆すべきことの1つは、上記.NET SDKと同じダウンロード・ページで、.NET Frameworkの再配布パッケージが公開されたことだ。このパッケージは約17Mbytesのファイルで、内部にはCLR(Common Language Runtime)やクラス・ライブラリのDLL、ASP.NETとIISを連携させるためのいくつかのモジュールが含まれている。従来のベータ1では、.NET対応プログラムを開発しても、.NET開発環境(VS.NETや.NET SDK)をインストールしていない環境では、CLRなどの実行環境が存在しないため、プログラムを実行できなかった。通常このような場合には、プログラムを実行するために必要なファイル群をパッケージにして、作成したプログラムと一緒に配布する。しかしベータ1では、このようなしくみが用意されていなかった。
つまり開発者の立場から言えば、例えば、C#とWindows Formsを使って作成したWindowsアプリケーションをやっと広く一般に使ってもらえるようになったということだ。この再配布パッケージは、Windows XP、Windows 2000、Windows NT 4.0、Windows 98、Windows Meで使用することができる。
試しに日本語版Windows XPベータ2(評価コピービルド2462)にインストールしてみた。リブートの必要もなしにインストールは完了し、.NET SDK Beta2でコンパイルした実行ファイルが問題なく動作した。
.NET Framework ベータ2 再配布パッケージのセットアップ画面 |
Windows XPベータ2日本語版に再配布パッケージをセットアップしてみた。 |
.NET Framework ベータ2再配布パッケージをインストールしたWindows XP ベータ2で.NET SDK ベータ2に付属のClass Viewerツールを起動した画面 |
このClass Viewerは、CLRで開発された.NETプログラムである。再配布パッケージを組み込めば、開発環境をインストールしなくても、.NETプログラムを実行可能になる。 |
Microsoft ASP.NET Premium Edition
大々的に取り上げられてはいないものの、Microsoftのダウンロードサイトでは、Webアプリケーションを構築し、実行するための環境である「ASP.NET Premium Edition」も公開されている(ASP.NET Premium Editionのダウンロード・ページ)。
これは上記の.NET Framework ベータ2に、Webファーム(Web farm:単一アプリケーションを複数のサーバでホスティングする機能)や、出力キャッシュ(output caching)のサポートを加えたものだ。これらの機能は.NET SDK ベータ2には含まれていない。
Mobile Internet Toolkitベータ2
Mobile Internet Toolkitは、携帯電話やPDAなどのモバイル端末向けのWebアプリケーション構築ツールキットで、以前は.NET Mobile Web SDKと呼ばれていたものだ。こちらもMicrosoftのWebサイトからダウンロードできる(Mobile Internet Toolkit ベータ2のダウンロード・ページ)。
詳細は追ってご紹介するとして、日本の開発者としてまず注目すべきは、日本国内で2400万ユーザーを誇るというiモード端末仕様のコンパクトHTML(cHTML)に対応した点だ。これまでは携帯電話への対応は、WAP(Wireless Application Protocol)プロトコル向けのWML(Wireless Markup Language)がメインだった。国内での成功をバネにして、EUや米国に進出しようというiモードをMicrosoftとしても無視できなかったということだろう。
なおこのMobile Internet Toolkitベータ2をインストールするには、上記のVS.NETベータ2または.NET SDKベータ2が必要となる。このうちVS.NETと組み合わせれば、ドラッグ&ドロップにより、モバイル機器上でのユーザ・インターフェイスをデザインすることもできる。
Windows .NET Server
ビル・ゲイツ氏は、.NET Framework をサポートしたWindows Whistlerサーバについてもスピーチで触れ、これらの名称が「Windows .NET Server」と決定されたことが発表された。これにより、同一のOSコアを持ちながら、クライアント向けのWhistlerはWindows XP(Home EditionとProfessional)と、サーバ向けWhistlerはWindows .NET Serverと呼ばれることになった。
なお、Tech・Ed 2001で使用されたスライド(ppt)の一部はすでに公開されており、GOTDOTNETのサイトからダウンロードすることができる(Tech・Ed 2001スライドのダウンロード・ページ)。また、Tech・Ed 2001でアナウンスされたPeer-to-Peer Samplesも同じくGOTDOTNETからダウンロードできる(Peer-to-Peer Samplesダウンロード・ページ)。Webアプリケーションのサンプル・サイトであるIBuySpyもすでにベータ2に対応しているようだ。
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現在の予定でいけば、VS.NET(および.NET Framework SDK)の日本語版ベータ2は、2001年8月29日から千葉県の舞浜で開催されるTech・Ed 2001で配布される予定である。ただし日本語版といっても、日本語版ベータ1と同様、メニューや各種メッセージ、付属ドキュメントが日本語化されているだけで、今回提供された英語版と本質的な違いはないはずだ。.NETに興味を持っているなら、この日本語版を待つ必要などない。英語版でさっそく本格的な.NETプログラミングを始めよう。
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