最終回 ポイントは? コストは? 事例に見る「ホントのところ」


株式会社野村総合研究所
田中 穣
首都圏コンピュータ技術者株式会社
工藤 一樹
青柳 隆
2009/7/28


監視、監査、バックアップ運用のツール選び

 CPU/メモリ/ディスクなどのリソース利用状況を取得する場合、Linuxであればvmstat、topなどのコマンドの機能を利用するのが一般的ですが、VMware vCenter Server(旧VMware VirtualCenter)を利用すれば、ホストOS側から複数の仮想OSのリソース情報を一括で取得することが可能です。

 一方監査ログについては、Linuxであれば一般的にはsyslogなどのログ機能を使って管理します。これに対し、VMware ESX(以下ESX)やvCenter Serverには、ゲストOS上のログを管理する機能はありません。それぞれメリット、デメリットがありますので、状況に応じて使い分けるのがポイントです。

 バックアップの例でいえば、長期間保持する必要のある監査ログはゲストOSで取得し、障害時のリストアを目的とした仮想OSのバックアップは「vcbMounter」の機能で実装し、容量の問題で短期間しか保持しない、などの役割分担が効果的です(vcbMounterは、仮想OS起動中に仮想OS全体をバックアップすることができるツールです)。

 下記の表に運用の一例をまとめます。どの方式を検討するかは、運用ポリシー、コストによって大きく異なるため、状況によって変更する必要があります。

運用要件 実施方法 考え方
1
リソース監視 シェル実装(duコマンドを利用)
vCenter Serverを利用
OS上のディスク利用率はESXやvCenter Serverに機能がないためシェルで監視
CPU/Memory/Disk/Network利用率はvCenter Serverの機能をそのまま利用
2
統計情報取得 VI Perl Toolkit(vCenter ServerのAPI)でVCより情報取得 vCenter Serverの統計情報をVI Perl Toolkitで取得して長期間保持(vCenter Serverは一定期間しか保持しないため)
短期間の監視・管理はvCenter Server単体で行う
情報はプロビジョニングで利用する
3
プロセス監視 シェル実装(psコマンドを利用)+syslog+運用管理ツール OS上のプロセス死活監視コマンドはESXやvCenter Serverに機能がないためシェルで実装
障害時は自動再起動を実施するとともにsyslog転送し、syslogは運用管理ツールが監視
4
ログ監視 syslog+運用管理ツール syslogを運用管理ツールで監視
5
ログ監査 シェル実装(独自)+rsync アクセスログはログ管理サーバに転送して一元管理
6
ログローテーション logrotate ESX、vCenter Serverには用意されていないのでOSの機能を利用
7
バックアップ rsync、vcbMounter rsyncはログの長期間保持目的
vcbMounterではvCenter Server自体をリストア目的で短期間保持
表5 運用方式

苦労したポイント

 この事例で技術的に一番苦労したポイントは、仮想化テンプレートの作成でした。

 仮想化テンプレートはクローニングされる複数のOSのベースとなるため、仮想化テンプレートの作成には、通常の1システムを構築するときよりも高い汎用性が求められます。仮想化テンプレートには多くのユーザーの要件が集中するため、あらかじめ深い検討はしておいても、ほとんどの場合において後から変更点がでてきます。1システムの構築であれば直接修正してしまえばよい場合も多いのですが、仮想化テンプレートの場合、変更が複数のシステムに影響を及ぼすため、念のため仮想化テンプレートを初めから作り直すようなことも何度か発生しました。

 このときに、手順書に従って手作業で作り直すのでは時間も掛かり、人為的なミスも多くなります。そこでOSインストール後の自動設定スクリプトを用意し、仮想化テンプレート作成作業の効率化を行いました。仮想化テンプレートのミスは複数のシステムに影響を及ぼすため、慎重な作業が必要となります。

 また、仮想化テンプレートを変更することによって、ほかの個所にデグレードを引き起こす可能性があります。同じことは運用開始後のパッチ適用作業にもいえます。変更に対する影響を毎回手動で確認していたのではとても効率が悪く、見逃しも出てきてしまうため、仮想化テンプレート用の自動テストスクリプトを用意することによってデグレード課題を回避しました。

 なお、仮想化テンプレートの変更個所が増えれば、同時にテスト個所も増えるため、自動テストスクリプトは拡張性を高くしておく必要があります。

 ここでは2点紹介しましたが、いずれも繰り返し行う作業を簡単に、正確に実行するようなツールを作成したという点が効率化のポイントでした。

さて、仮想化とOSSの「費用」は?


仮想化環境におけるライセンス

 ライセンスやサポートを買うときに購入単位となるのは、システム数、ノード数、CPU数、利用人数など、プロダクトによってさまざまです。また、単位がノード数、CPU数などの場合、プロダクトによって、物理単位なのか仮想単位なのかも変わってきます。

 プロダクトを選定するときには、機能がいくら優れていても予算に収まらなければ、候補から外さざるを得なくなります。特に仮想化に関しては、手軽に環境が複製できる分、数の増加速度も速い傾向にあります。運用後しばらくたってから、ライセンスが不足する、予想以上の費用がかかってしまうといった問題が起きないよう、事前に十分な調査しておく必要があります。

 こうした考慮は仮想化製品とそのオプション機能、また仮想OS上で動作するソフトウェアにも該当します。

OSSサポートについて

 OSSは基本的に無料で利用できますが、プロダクトによってはコミュニティがあったり、有償でサポートを購入できるサービスもあります。OSSのデメリットの1つとして、サポートがないということが挙げられますが、これらの有償サービスを購入することで、障害時のリスクを軽減することができます。ほとんどの場合において商用プロダクトよりは格段に安くすみます。筆者らも、そうしたオープンソースサポートサービスを提供しています。

まとめ

 以上で「仮想化とOSSが運用コスト削減に効く理由」の連載も終わりとなりますが、最後に1つだけメッセージを残させていただきたいと思います。

 仮想化もオープンソースも、単なる手段であって目的ではありません。それだけで何かを実現できるわけではなく、その先には仮想化とオープンソースを使って何かを実現したい利用者がいます。仮想化やオープンソースを利用することによって、利用者にどのようなベネフィットをもたらすのかを考えて選択するようにしてください。仮想化によって逆に運用が煩雑になった、オープンソースを選んで逆にメンテナンスコストが増えた、というようなことにならないよう、十分な検討をしていただきたいと思います。

 仮想化もオープンソースも、とても高い潜在能力を持っています。メリット、デメリットを理解して上手に利用すれば、必ずや今後のビジネスの幅を広げることができると確信しています。

筆者紹介
田中 穣
株式会社野村総合研究所
情報技術本部
オープンソースソリューションセンター

工藤 一樹
青柳 隆
首都圏コンピュータ技術者株式会社

NRIのオープンソースサポートサービス「OpenStandia(オープンスタンディア)」のメンバーとして、規模を問わず、Webサイトのインフラ構築に当たる。また、大規模システムや基幹業務システムにも安心してオープンソースを導入・利用できるよう、オープンソースのフレームワークやミドルウェアの検証・評価・サポートに携わり、縁の下の力持ちとして日夜励んでいる。


3/3

Index
RHEL+VMwareでTCO削減
 最終回 ポイントは? コストは? 事例に見る「ホントのところ」
  Page 1
散在していたサーバを統合した活用事例
3つの条件をバランスよく満たす
うまく使いたい「仮想OSテンプレート」
  Page 2
アプリケーションレイヤのニーズをOSSで満たす
Page 3
監視、監査、バックアップ運用のツール選び
苦労したポイント
さて、仮想化とOSSの「費用」は?
まとめ

Linux Square全記事インデックス


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