Windows開発者に贈る
Kylixの全貌
大野 元久
ボーランド株式会社
2001/2/20
Kylixで提供されるDataCLXは、データベースアプリケーションに必要なデータアクセス技術をコンポーネントとして提供する。もともと、ボーランドはWindows用開発ツールでBDE(Borland Database Engine)という技術によってスケーラビリティの高いデータアクセスを提供していた。DataCLXは、このデータアクセス技術を直接コンポーネントとして実装したものである。ただし、DataCLXではParadoxやdBASEテーブルの操作はサポートされない。
前述したが、Kylixでコンポーネントが設計時にも動作するというのは、特にデータベースアプリケーションの開発で威力を発揮する。Kylixでは、設計中のフォームに実際のデータを表示させることができるため、どのような項目をどのような書式で表示するかを確認するために、いちいちアプリケーションを実行してみる必要がない。
画面3は、データベースアプリケーションを設計しているようすである。ここでは、顧客情報(Customer)と注文情報(Orders)の2つのテーブルをリンクさせて、設計画面に表示させている。このようなマスター/詳細と呼ばれる関係も、コンポーネントのプロパティを設定するだけで実現できる。
画面3 DataCLXの使用例。開発中でもデータベースのデータが表示されているのが分かる(画像をクリックすると拡大表示します) |
右上にある「項目エディタ」と呼ばれるウィンドウは、データベースの1つ1つの項目に対応するコンポーネントを作成するためのものだ。ここにある左右のナビゲーションボタンを使うことで、対象となるテーブルのカーソルを操作できる。このまま実行ボタンを押せば、設計したときと同じようにデータが表示される。
RDBMSにアクセスする場合は、DBExpressと呼ばれるコンポーネント群にあるSQLConnectionやSQLClientDataSetなどのコンポーネントを使う。これらは、RDBMSごとに用意されているデータベースドライバを参照して、直接RDBMSを制御できる。データアクセスコンポーネントはデータアクセスの手段を抽象化してくれるので、どんなデータを扱う場合でも、同じようにデータ対応コントロール(DBGridやDBNavigator)を利用できる。なお、DBGridはOracle 8のオブジェクト型にも対応しているため、配列型の項目なども利用できる。
また、Kylixには、目に見えないコンポーネントだけを扱うための「データモジュール」という機能がある。データモジュールは、目に見えないフォームのようなものだ。ここにデータアクセスコンポーネントを配置しておけば、フォームという「見かけ」とは独立してデータの扱い方を設計できるようになる。
Kylixはビジュアル開発ツールであるが、その機能を生かせるのはビジュアルなアプリケーションだけではない。Webアプリケーション用のモジュールのように、直接目に見えないものでも、データアクセスやHTTPによる要求にこたえるためにコンポーネントベースのプログラミングができるのだ。
Webアプリケーションを開発するために、NetCLXというコンポーネントが提供される。これは、CGIやApacheのDSOを作成するための専用のWebモジュールに配置して利用する。Webモジュールは、データモジュールのようなもので、やはりデータアクセスのようなビジュアルでないコンポーネントを配置する場所となる。
画面4は、データをテーブル形式で表示したり、時刻をダイナミックに表示するWebアプリケーションの例である。
画面4 Webモジュールの作成。Webアプリケーションの構築にも対応できる(画像をクリックすると拡大表示します) |
Webアプリケーションに送られる要求に対する応答には、「アクション」で対応する。個々のアクションには、プログラムでHTMLテキストを返したり、DataCLXが提供するページ生成用のコンポーネントを使ってHTMLテキストを渡すことができる。この結果、Webアプリケーションの開発も、最低限のプログラミングで済ませることができる。
よくいわれることだが、どんなにハードウェアがよくても、ソフトウェアがそろっていなければ使い物にならない。同じようにLinuxというOSは、信頼性に定評があり安価であるにもかかわらず、それを利用するソフトウェアがそろっていないために活用される機会を逃している面があった。
Kylixは、Linuxの開発を一変させるパワーを持っている。このパワーは、開発者にとってだけでなく、Linuxそのものに対しても大きな変革をもたらすものとなるだろう。
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Index | |
Windows開発者に贈る Kylixの全貌 | |
Kylixの正体 | |
開発工程を一変させるビジュアル開発環境 コンポーネントベースの統合開発環境 ソース編集を可能にする2Way-Tool 強力なソースレベルデバッガ |
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コンポーネントフレームワークCLX BaseCLX VisualCLX DataCLX NetCLX |
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高速なネイティブコンパイラ | |
Kylixのデータベース開発機能 | |
Apacheにも対応したインターネット開発 | |
KylixがLinuxを変える |
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