サーバの仮想化技術とビジネス展開の可能性
有限会社デジタルインフラ(http://www.digitalinfra.co.jp/)
2002/5/14
仮想化技術のビジネス的な可能性
仮想化技術をサーバに応用すると、どのようなことが可能になるのか? これをビジネス的な観点から検討してみよう。
■CGIを安全に利用したい→jail
Webホスティング業などにおいて、CGIの扱いは頭を痛めるところである。ユーザーの利便性か管理の安全性か。自社利用であっても、CGIがセキュリティホールになることは多々ある。
1つの解決策として、jail(chroot)の中でのみCGIを動かす方法が考えられる。jail(chroot)によるオーバーヘッドは小さく、セキュリティ向上効果は大きい。具体的な設定方法は本稿の趣旨から外れるので、興味のある方は
CGIWrap:http://cgiwrap.unixtools.org/sbox:http://stein.cshl.org/WWW/software/sbox/
CGI Security:http://tech.irt.org/articles/js184/
などを参考にされたい。また、本サイトの電子会議室にも同様の趣旨のスレッドがある。
ただし、前述したようにjailは完ぺきではない。適切に設定されていない環境では、容易に「脱獄」できてしまう。しかし、ホスティングサービス(数千円〜/月)にするかハウジングサーバ(数万円〜/月)にするかの分かれ目が、CGI利用の自由度やセキュリティであることは多々ある。バーチャルホスティングとほぼ同様のコストでこれらの問題をある程度解決できるのは注目に値する。
このような観点から、Web用のjail環境にさまざまな管理機能を付けてハウジングサーバに近い高機能ホスティングを従来と同じようなコストで提供できるソフトウェアを作っている会社がある。筆者の知る限りでは、
ensim:http://ensim.com/sphera:http://www.sphera.com/
の2社がそれだ。特に、後者は三井物産(http://www.sphera.mitsui.co.jp/)が国内販売しており、IIJが「IIJホスティングONE」(http://www.iij.ad.jp/service/index-IIJ-SO.html)の名前でサービスを展開している。それ以外にも数社、同等または類似の技術を用いて同じようなサービスを予定している業者があるようだ。
■既存サーバの集約化→VMware GSX
複数の「古い」OSを使ったサーバが何台もあり、ハードウェアのメンテナンス体制にも不安がある。できれば1つにまとめて再構築したいが、構築した担当者はとっくに退社。こんな状況で、高信頼性と低コストを両立させながら運用していくにはどうしたらよいか。さまざまなOSを使う場合は、OSの種類を選ばない仮想マシン方式が有力な候補になる。
VMware GSXであれば、複数の仮想マシンを作って既存の環境をそっくり移行できる。さらに、複数の仮想マシンを集約管理できるので、管理コストも低減する。
正確な値ではないが、参考までに必要なマシンのスペックを想定してみる。古いマシン4〜5台をVMware GSXを使って1台に集約するなら、Celeron 1GHzにメモリ1Gbytesを搭載したマシンでいいだろう。それぞれの仮想マシンは、いままでと同じ速さ(遅さ?)で動作するであろう。ただし、仮想マシン方式はメモリを大量に消費することに留意すべきだ。少なくとも、いままで使っていたマシンのメモリを合計した容量は必要である。
■実験的なサービスを短期間に立ち上げ→UML
インターネットビジネスは、タイミングが大きな意味を持つ。完ぺきを期してタイミングを逸するより、「取りあえず」の精神で次々と実行する方が結果を出す場合がある。例えば、Apache 2.0はHTTP以外のプロトコル(携帯電話用プロトコルであるWAPなど)への対応強化が行われた。これを用いた新しいビジネス展開にチャレンジするのも面白い。しかし、いまメインに使っているサーバにApache 2.0をインストールするのは気が進まない人も多いだろう。かといって実験的なサービスのために新たにサーバを買うのももったいない。購入稟議を通す時間が惜しい。そんなとき、気楽に実験用サーバを作ることができるのがUMLだ。
UMLで仮想的なサーバを作ることにより、既存のサーバ環境に影響を与えることなく実験的なサービスを行うことが可能である。
■教育用実験環境の提供→UML
毎年、「新人教育をどうするか」ということに頭を悩ませる読者もいるであろう。実際にマシンを操作させるのが手っ取り早いが、1人に1台のLinuxサーバを与えるのは予算や場所の関係で困難な場合も多い。UMLを使って新人の数だけ仮想OS環境を作り、仮想OSのルートアカウントを与えれば1人1台のLinuxサーバを与えたのとほぼ同じ環境を提供できる。
この場合、ホストマシンのスペックはどの程度を見込めばよいのか? これは、ピークの集中をどう考えるかがポイントである。いわゆる教室スタイルで、全員が同時に使うとなるとホストマシンにかなりの負荷がかかる。高性能マシンを用意できない場合は、負荷が集中しないように時間をずらすなどの工夫が必要だろう。
■リニアなスケールアップ→仮想OS
仮想OSを高性能マシン上で使用することにより、必要性に常に応じた形でサーバ性能をスケールアップさせることができる。現時点では、技術的問題点はともかく、現実のサービス提供という部分でまだ可能性にすぎない部分もあるが、これこそが仮想OSの最大の用途として期待されるものであり、注目すべき方向性である。すなわち、大きなサーバ資源を持つ業者がそのサーバ資源の一部をユーザーに貸す「仮想レンタルサーバ」ともいえるビジネスが、仮想OSを利用することで可能になる。仮想レンタルサーバという単語は耳慣れないだろうが、大型汎用機の世界では論理分割機能を用いて長年行われてきたことである。それがPCサーバの世界にも訪れるのは何ら不思議なことではない。
この方式なら、100の性能が必要なユーザーには100のコストで100の性能、1の性能しか必要のないユーザーには1のコストで1の性能を提供することが可能だ。ピークを分散できれば実際より大きなサーバ資源を貸し出すことが可能であり、逆にいえば低コスト化が図れる。もう1つ、見逃せない利点としてセットアップの迅速性がある。(仮想ではない)本物のサーバの場合、サーバ機材の発注やiDCとの交渉などで1カ月ほどのリードタイムを見ておく必要があるが、仮想サーバならすぐにセットアップできる。
もちろん、実績が少ないなどの問題もあるが、筆者らの試算によればビジネス的にも十分採算が取れるはずだ。例えば、RAID、電源二重化、データバックアップ装置などの付いた高信頼性のサーバの中にPentium II-300MHz+HDD 100Gbytesのマシンと同程度の仮想的なサーバを作ってそれを貸し出すとする。その場合のコストは、月額1万円程度に納まると思われる。
このようなサービスは小規模な複数台のサーバに分散することも可能である。外部から見た場合に1つの巨大なサーバに見えるとしても、内部が同じような構成である必要はない。むしろ、外部から見た構成と内部から見た構成が一致しなくてもよいところに仮想化技術の面白みがあるともいえる。つまり、ユーザーから見るとスケールアップなのだが、内部から見るとむしろスケールアウトな方向性も可能なのだ。これは、「IA-64やAMD Hammerを使用した大規模サーバか、それともCrusoeなどを使用したブレードサーバか」といった、サーバの未来に関する議論にも一石を投じる可能性がある。
仮想化技術の知識は必須に
ギガビットイーサネット技術のWANへの普及など、回線コスト低下の要因は多数存在しており、冒頭でも述べたように今後はサーバがボトルネックになる可能性が強い。さらに、これからはインターネット関係といってもバブル的な散財ではなく、常に費用対効果意識を持った構築が必須になる。このような観点から、さまざまなサーバ技術についての知見を深めることは、サーバ管理者にとって必須となるだろう。
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