サーバの仮想化技術とビジネス展開の可能性

現在はApacheのバーチャルホスト機能を利用したホスティングがメジャーだが、これからはOS自体を仮想化してOSのフル機能を提供するサービスも提供されるようになるだろう。その技術的な背景とビジネス面に着目し、サーバ仮想化技術の現状を明らかにする。

菊池 宏(kikuchi@digitalinfra.co.jp
有限会社デジタルインフラ(http://www.digitalinfra.co.jp/
2002/5/14


MEX 100Mbits/s+1ラック 75万円/月
Business246 1.5Mbits/s+ハーフラック 11万円/月
iDC料金比較表(参考:Bフレッツは100Mbits/s固定IP接続がプロバイダ料金込みで1万3000円程度)

 従来は、インターネットビジネスのボトルネックは回線であるといわれていた。しかし、8Mbits/sのADSLが月々3000円程度で提供され、iDC料金も低下傾向にある現在、むしろ、サーバにボトルネックが移っている状況がある。

 そこで注目されるのが、ブレードサーバなど、1機能1サーバ、1ユーザー1サーバといった使い方ながら、従来に比べ費用対効果に優れたサーバを多数使用する方法である。その一方で、1台の高性能サーバに複数の役割を集約させる仮想化技術がある。この種の技術には主に、

  • バーチャルホスティング
  • jail
  • 仮想OS
  • 仮想マシン

がある。この4つの技術をふかんした後、それがどのようなビジネスに応用できるか考察する。

各種仮想化技術の特徴

バーチャルホスティング

図1 バーチャルホスティング

 「バーチャルホスティング」の原理は簡単で、1つのIPアドレスに対して複数のドメイン名を割り当てる。そして、(例えばWebのアクセスなら)HTTPのヘッダに含まれているドメイン名に関する情報(Host:フィールド)を使用し、表示するHTMLデータを切り替える。

 TCP/IPの規格において、IPアドレスは必ずパケットに入っているが、ドメイン名は入っているとは限らない。よって、バーチャルホスティングはIPアドレスに加えてドメイン名も送ってくるプロトコルでなければ使えないが、現在のHTTP(Web)/SMTP(電子メール)では、ほぼすべてドメイン名に関する情報も送ってくるので、この2つのプロトコルしか使用しないのであれば問題ない。

 図1からも分かるように、OSもサーバソフトも1台に1つしか存在せず、複数存在するのはユーザーデータだけである。よって、マシンに対する負担が軽くコストも安い。Webとメールだけの使い方であれば、優れた方法である。実際、「www.あなたの会社名.co.jpが取れます」といっている業者の多くが、この方法を使っている。

注:以上で述べたのは、「ネームベースバーチャルホスティング」という技術で、ほかにも「IPベースバーチャルホスティング」という技法がある。この場合、1台のサーバにドメインの数だけIPアドレスを割り当て、ドメインとIPアドレスの対応関係を1対1にする。メリットとしては、どんなプロトコルでもバーチャルホスティングが可能なことが挙げられる。ただ、IPアドレスの確保の問題があるうえ、日本においては少なくともHTTPについてはJPNICがこのようなやり方を許さない。

 参考:ApacheによるWebサーバ構築
  第8回 バーチャルホストによる複数サイトの同時運用
  第9回 IP認証によるアクセス制限のテクニック

jail

図2 jail

 「jail」()とは、ユーザー間に破ることのできない「隔離壁」を作り、お互いの存在を隠す技術である(図2)。例えば、他人のファイルを改ざんする行為は、ファイルに対する書き込み権限うんぬん以前に、jailの壁によって阻まれる。これにより、1台のマシンに複数の役割を期待する場合のセキュリティが大幅に向上する。

注:「jail」はFreeBSDのコマンド名であり、Linuxでは「chroot」がこれに相当する。ただし、jailはネットワーク設定にまで「壁」を作れるなど、chrootより高機能である。
chroot:http://www.linux.or.jp/JM/html/LDP_man-pages/man2/chroot.2.html

 jailの代表的な使い方として、ApacheとBINDを1台のサーバで運用する場合がある。BINDとApacheを別サーバで運用する場合は多いが、これはBINDのセキュリティホールから侵入されてApache配下のHTMLデータを改ざんする手口を警戒するからである。しかし、ApacheとBINDの間にjailで壁を作ることで、BINDが破られたとしてもApacheに手を出すことは困難になる。よって、1台のサーバで2つのサービスを運用してもセキュリティ的な問題は小さく、経費削減効果の方が大きいと思われる。

コラム jail使用時の注意点
 jailを使用すると、jailの外にあるファイルはライブラリなども含めて、通常の方法では一切見えなくなってしまう。「監獄」の中で生活するには、ライブラリなど一通りの「生活必需品」の持ち込みを忘れないように。

 一方、「jailは果たしてどこまで絶対的な『壁』なのか」という議論がある。1ユーザーが1台のマシンで複数のサービスを動かす程度であれば、jailは十分過ぎるほどの壁となる。しかし、1台のマシンに複数のユーザーとなると、やや頼りない面がある。jailはUNIXに後から導入されたものであり、未成熟の感を免れない。jailの中だからといって、信用できないユーザーに不用意にアカウントを開放することはするべきではない。

仮想OS

図3 UML

 1台のマシンを、複数の(お互い信用のできない)ユーザーで共有する方法として、「仮想OS」がある。これは、通常のOSの上で動作する特殊なOSである。仮想OSには、「UML」(User Mode Linux)がある(オブジェクト指向のUMLとは無関係)。UMLはLinux上で動作する特殊なLinuxであり、GPLで提供されている(図3)。商用のものとしては「Virtuozzo」がある。

 OSはハードウェアの上で直接実行されるが、仮想OSはOSの上でアプリケーションのように動く。仮想OSの中では、ソフトウェアのインストールも含め、通常のOSと同じような作業が可能だ。また、同一OS上で複数の仮想OSが動作している場合、仮想OS同士はネットワーク越しでしかアクセスできない。よって、複数ユーザーで共用した場合でも、1ユーザー1マシン環境とほぼ同等の機能とセキュリティを1台のマシンで実現できる。

コラム 仮想OSのルーツ
 仮想OSは、源流をたどるとIBMがSystem/370で実用化した技術であり、研究としては1960年代から存在した。この技術が、Linux/PCサーバといった、本サイトの読者にもなじみが深い領域に進出してきている。

 PCサーバも応用範囲の拡大に伴い、いままで大型汎用機が歩いてきた道をたどるということであり、歴史的観点から見ても面白い。

 仮想OSの大きな利点として、1台のマシンを共有しているユーザー間で資源を自由に配分できることが挙げられる。例えば、開発段階であるとか、あまり性能が要求されない場合は資源配分を絞っておき、ビジネスの発展に伴って性能が要求されてきたときに配分を増やすといったことが容易である。ユーザー間でうまくピークを分散させれば、処理能力を超えたユーザーを収納することも可能だ。例えば、10の能力を持つサーバに3の性能を要求するユーザー10名を詰め込んでも、ピークさえ分散できれば問題ない。

 UML:
  http://user-mode-linux.sourceforge.net/(本家)
  http://www.digitalinfra.co.jp/uml/(デジタルインフラ)
 Virtuozzo:http://www.sw-soft.com/products/virtuozzo/


編注:UMLについては、単独の特集を企画している。5月中に公開するので、そちらもぜひご覧いただきたい。

仮想マシン

図4 VMware GSX

図5 VMware ESX

 仮想OSは優れた技術であるが、「OSの上で動くOS」という特殊なOSに限定される。この制約のない技術として、「仮想マシン」がある。これは、仮想的なハードウェアを作り、その上で普通のOSを動かす技術である。

 仮想マシン技術を利用したものとしては、「VMware」が有名である。WindowsなどのOS(これをホストOSと呼ぶ)上に仮想的なPC/AT環境を作り、その中にLinuxなどのOS(これをゲストOSと呼ぶ)のインストールを可能にするソフトウェアだ。VMwareの特徴としては、高い完成度が挙げられる。動作が安定しておりチューニングも進んでいるため、この種のソフトウェアとしては非常に高速である。VMware GSX(図4)はそれに加え、複数の仮想マシンを集中管理するコンソールが装備されている。VMware ESX(図5)は、VMware独自カーネルに限定することで、さらなる性能の向上を図ったものである。高性能PCサーバを使用すれば、10台程度の仮想PCサーバを作ることが可能なようだ。


図6 bochs

 フリーの仮想マシンとしては「Plex86」と「bochs」(図6)がある。ともに、開発の中心は同一人物である。Plex86はもともと「FreeMware」と称していたもので、VMwareのフリー版という存在である。bochsはCPUを仮想化することにより、x86以外のCPUを搭載したマシン(PowerPC搭載のPowerMacなど)でもPC/AT互換機用のOSを動かすことが可能なソフトウェアである。


コラム bochsとPlex86
 bochsはVMwareよりも早く存在していたソフトウェアで、開発順としてはbochs→Plex86となる。bochsは、CPUの仮想化によるオーバーヘッドが非常に大きく、現在のところは速度的な問題が大き過ぎる。これに関しては、今後の改良に期待したい。

 仮想マシン技術のサーバへの応用は、仮想OSの場合と同じく資源配分を自由に変更してサーバ性能への需要の変動に柔軟に対応できる利点がある。仮想OSと異なる点はOSを選ばないことであり、1台のマシンにLinuxとFreeBSDとWindows NTをインストールし、それらを同時に動作させるといったことも可能だ。しかし、ハードウェアをそのまま仮想化することによるオーバーヘッドが大きい。Windowsのように、仮想OSの存在しないOSをサーバOSに選んでいる場合は良い選択だが、Linuxのように良質な仮想OSが存在する場合、仮想マシンは必ずしも良い選択ではない。

 VMware GSX:http://www.vmware.com/products/server/gsx_features.html
 VMware ESX:http://www.vmware.com/products/server/esx_features.html
 bochs:http://bochs.sourceforge.net/
 Plex86:http://www.plex86.org/


 
1/2

Index
サーバの仮想化技術とビジネス展開の可能性
Page 1
各種仮想化技術の特徴
 バーチャルホスティング
 jail
 仮想OS
 仮想マシン
  Page 2
仮想化技術のビジネス的な可能性
 CGIを安全に利用した→jail
 既存サーバの集約化→VMware GSX
 実験的なサービスを短期間に立ち上げ→UML
 教育用実験環境の提供→UML
 リニアなスケールアップ→仮想OS
仮想化技術の知識は必須に

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