書評
TCP/IP再入門!
アットマーク・アイティ編集局
鈴木淳也
2002/1/24
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もはや、このスペースを使ってTCP/IPの重要性を説明するまでもないだろう。IT技術者やその周辺で仕事をする者にとって、TCP/IPの知識は必須の時代となってきた。すべてのネットワーク通信の基本だけに、TCP/IPの理解は、その上で動作するアプリケーションの理解にもつながる。
「何となくは分かるが。しっかりとその仕組みや動作を理解したい」と考える読者の方々のために、今回はTCP/IPを体系立ててきっちり理解するのに役立つ、再入門に最適な本を紹介していこう。
■TCP/IPの基本はコンピュータの仕組みから
基礎からわかる TCP/IPコンピューティング入門 村山公保 著 オーム社 1999年 ISBN4-274-06313-5 2100円(税別) |
本稿の3冊目で紹介している「マスタリングTCP/IP 入門編」の執筆陣の1人でもある、村山公保氏執筆のTCP/IP入門書だ。TCP/IPとは冠するものの、カバー範囲は「コンピュータの通信の仕組み」とやや広めで、その意味でほかのTCP/IP入門書とは若干アプローチが異なっている。
本書の構成は、前半が「コンピュータの通信の仕組み」、後半が「TCP/IPの通信の仕組み」と、大きく2つに分けることができる。前半では、なぜコンピュータ同士の通信にプロトコルが必要で、どのような仕組みで動作しているのか、まずTCP/IPの概念より前の基本的な部分で、通信の仕組みについて解説が行われている。OSIの7階層など、通信の基礎の解説が終わったうえで、後半のTCP/IPの解説がスタートする。ほかの入門書であれば、前半の部分は1章分を使って軽く流す程度の場合が多いが、本書ではこの部分を重視しているのが特徴だ。その代わり、ほかの入門書では1冊を使って解説している内容が半分程度に収められている形になり、TCP/IP自体の解説はやや駆け足気味となっている。
TCP/IPのコアの部分を手早く学びたいという人には向かないだろうが、通信技術についてしっかりと学びたいと考える人には、本書のようなアプローチのほうが向いているかもしれない。
■サクサク読める入門書の決定版
TCP/IPちょ〜入門 栗林誠也 著 広文社 2000年 ISBN4-87778-054-8 2000円(税別) |
以前の「書評:次世代の基礎インフラIPv6を学ぶ5冊」でも紹介した、「IPv6ちょ〜入門」のTCP/IP版だ。技術系書籍としてはめずらしい「右開き+縦書き」の構成をとっており、一般書として万人にも分かりやすい書籍を目指していることがうかがえる。「IPv6ちょ〜入門」の際にも同じコメントを加えたが、その軽いタイトルの割に解説はしっかりとしており、専門のIT技術者にも十分にお勧めできる内容になっている。
本書でカバーする範囲は、TCP/IP通信の仕組みからアプリケーション・レベルまでと広く、TCP/IPの基礎といえる部分はひととおり押さえている。数ページ内で、図版を多用してポイントをしぼった簡潔な解説を基本にしているため、サクサク読み進められるのが特徴だ。その読みやすさやA5という本のサイズを考えると、電車での通勤中など、ちょっとした時間を利用して勉強するのに向いているだろう。また随所にあるコラムでは、読者がよく疑問に思うことや、規格にまつわるちょっとした小話などを扱っており、読者を飽きさせないエッセンスが満載だ。
もし、「TCP/IPの入門書」としてどの本を推薦するかと問われれば、その候補の1つに、まず間違いなく本書を入れることだろう。だれにでも勧められる入門書の決定版だ。
■最新情報にも対応の定番入門書
マスタリングTCP/IP 入門編 第2版 竹下隆史/村山公保/荒井 透/苅田幸雄 共著 オーム社 1998年 ISBN4-274-06257-0 2200円(税別) ※改訂により、本書は絶版となりました。改訂版は下記欄で注文できます |
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私的な話で恐縮だが、Windows 95がまだ発売されておらず、インターネットが爆発的ブームを起こす直前の1995年前半、まだ見習い技術者だったわたしがTCP/IPの勉強の参考にしたのが本書だった。まだNetWareが大きな勢力を持っていたころで、TCP/IPは数あるプロトコル群の一勢力に過ぎなかった時代、TCP/IPに特化した入門書はほとんどなく、ずいぶんと助けられた記憶がある。そんなTCP/IP入門書の原点ともいうべき本書は、技術革新の波に合わせて1998年に第2版へと改訂、最新情報を満載した入門書となって帰ってきた。
「マスタリングTCP/IP」は「入門編」「応用編」「IPマルチキャスト編」などのいくつかのシリーズで構成されており、今回紹介する「入門編」はいちばんベーシックなもので、“広く浅く”が特徴となっている。ルーティングの話やアプリケーション・レベルの話は、簡潔にまとめられている程度なので、それより詳しい情報を入手したい方は、次に紹介する書籍や、前述の「応用編」などへとステップ・アップしていくといいだろう。
本書は、今回紹介した書籍ではいちばん年代が古いものだが、IPv6などの概念までカバーすることを考えなければ、(IPv4レベルでの)TCP/IP入門書としては十分に新しいほうだといえる。個人的見解で、TCP/IP入門書が最新情報をカバーできているかどうかは、1997〜1998年以降に出版されたかが目安になるような気がする。ちょうどCIDR(Classless Inter-Domain Routing:“サイダー”と読む)などの概念が導入されはじめたころで、記述内容にも大きな変更を加える必要が出てくるからだ。
■さらなる深い知識を身に付けたい人に
詳解TCP/IP Vol.1 プロトコル W・リチャード・スティーヴンス 著/橘 康雄 訳/井上尚司 監訳 ピアソン・エデュケーション 2000年 ISBN4-89471-320-9 6000円(税別) |
これまで紹介してきた書籍は“入門書”というくくりに入るものだったが、本書は、TCP/IPをより深いレベルまで掘り下げていきたいと考える方向けの、資料性を持った技術書だといえるだろう。
TCP/IPの仕組みや動作原理はもちろんのこと、「BOOTP」「ICMP」「HTTP」「SMTP」などのTCP/IPの上位プロトコルや「DNSによる名前解決」「TCP通信の仕組み」などの各種要素も詳細に解説している。600ページを超えるボリュームたっぷりの内容だけに、最初から最後まで読んで勉強するというより、必要に応じて参照する参考書的な使い方がメインとなるだろう。
やや翻訳がおぼつかないところが見受けられるなど、気になるポイントは少々あるが、広い範囲をこれだけ深くカバーする書籍は少ない。ネットワーク技術者はぜひともチェックしておきたい、お勧めの書籍だ。
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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