連載:IEEE無線規格を整理する(1)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜
無線ネットワークの規格、IEEE 802の全貌
千葉大学大学院 阪田史郎
2005/8/20
無線ネットワークの全体動向 |
全体の動向としては、携帯電話の普及とそれに続く無線LANの定着を経て、2003年以降、携帯電話網と無線LANでは埋め尽くせない短距離無線、無線PAN、無線MANの標準化、開発競争が急激に活発化しており、2007年ころにはこれらが出そろうものと思われる。このうち短距離無線と無線PANは、センサとも結び付いてユビキタスシステムの中核を担うべく今後ますます進化する。無線MANは、携帯電話網と無線LANの間に挟まれながら、第3〜4世代携帯電話網と競合、共存する方向へと進展する。
今後各ネットワークは、図3に示すように、おのおのの通信特性を生かしつつすみ分けながら、相互に連携して利用されていく。無線ネットワークの技術は、今後ブロードバンド(広帯域)化、ユビキタス化、シームレス連携の3つを主軸として進展していく。
図3 無線ネットワークの全体動向 |
(1) ブロードバンド化 |
大容量かつ高品質情報通信を可能にするためのブロードバンド化については、各無線ネットワークにおいて検討が進められている。
1. 無線PAN
IEEE 802.15.3aにおいて、TIやインテルが推すMB-OFDM(MultiBand-Orthogonal Frequency
Division Multiplex)方式とモトローラやフリースケールが推すDS-UWB(Direct Sequence-Ultra WideBand)方式の2つの標準仕様が提案され、統一化が難航しているが、100Mbps以上の通信が可能な高速無線PANのUWB(Ultra
WideBand)が2006年には登場し、まずPC機器や情報家電機器間の接続など屋内での利用が始まると思われる。
2. 無線LAN
同じく100Mbps以上の次世代高速無線LANのIEEE 802.11nが、2007年の標準化、2008年の製品出荷を目指し研究が進められている。
3. 無線WAN(携帯電話網)
3GPP(3rd Generation Partnership Projects)が推進しているHSDPA(High Speed Downlink
Packet Access)と、3GPP2が推進しているEVDO(Evolution Data Only)が、第3.5世代携帯電話網のパケット通信サービスに位置付けられる。EVDOはすでに2003年に開始され、HSDPAは2006年中に開始される予定である。いずれも下り約3Mbps(HSDPAは原理的には最大約14Mbps)程度の通信が可能である。第4世代携帯電話網(4G)については、100Mbpsのサービスを2010年(代の早期)に開始することを目標に研究が進められている。
4. 無線MAN
端末固定における利用ではIEEE 802.16-2004(旧IEEE 802.16a)が2004年に標準化され、75Mbpsの通信速度を目指し国内では2005年の実験サービス開始が予定されている。
以上により、無線MANが登場する2005‐2006年には、距離に関係なくMbps以上の無線データ通信が可能となり、第4世代携帯電話網が開始される予定の2010年には、すべての距離に対応する無線ネットワークが出そろっているだけでなく、距離に関係なく100Mbpsの無線ネットワーク時代へと突入する。
図4に、ブロードバンドの側面から見た現在利用可能なネットワークを含めた無線ネットワークの展開予測を示す。
図4 各無線ネットワークの展開 |
(2) ユビキタス化 |
ここでは、センサをはじめとする小型軽量、省電力の端末・機器同士が、マルチホップかつトポロジが動的に変化する環境で通信することにより、利用者へのきめ細かなサービスを実現するための機能として、メッシュ(アドホック、マルチホップ)構成、センサの収容、移動への対応を、ユビキタス化に対応付ける。
1. メッシュ構成
メッシュネットワークの主な利点は、通信距離を短くし必要なときにのみ必要な通信を行うことによる省電力化(消費電力は通信距離の2〜4乗に比例)、通信頻度低減による省電力化、迂回路の容易な設定による信頼性向上、アクセスポイントやサーバノードへの処理集中を防ぐことによる信頼性向上および負荷分散による性能向上、電波出力を上げることなく通信範囲を拡大、である。
2004年6月に発足した無線LANにおけるIEEE 802.11sは、急速に検討を活発化させている。IEEE 802.11sでは、まず移動がなく安定した通信が可能なアクセスポイント(メッシュアクセスポイントと呼ぶ)間でのメッシュ構成、その次に端末、すなわち移動ノードも含めたメッシュ構成のための標準化の検討を行っており、2006年半ばには仕様の大筋が決定される予定である。
一方、インターネットにおけるプロトコルの標準化を進めるIETF(Internet Engineering Task Force)では、MANET(Mobile Ad hoc NETwork)WGにおいて、AODV(Ad hoc On-demand Distance Vector)、DSR(Dynamic Source Routing)、OLSR(Optimized Link State Routing)、TBRPF(Topology dissemination Based on Reverse-Path Forwarding)の4つのプロトコルを、 アドホックネットアークのルーティングプロトコルとして2004年に標準化している。
IEEE 802.11sの活動は、アドホックネットワーク(IEEE 802.11sではメッシュネットワークに対応)におけるIETFとIEEEとの間の初めての連携を実現させる可能性がある。ネットワーク(IP)層以上を対象とするIETFと、MAC層以下を対象とするIEEEの効果的連携が進展すると、下位から上位までの一貫した通信制御インターフェイスが共通化されることになり、ユビキタスシステムの基盤アーキテクチャ構築のうえで極めて大きなインパクトとなる。 |
無線PAN、無線MANでは、当面IEEE 802.11sにおける検討・評価を待ち、その結果に応じて仕様の策定を行うという状況である。
2. センサの収容
センサネットワークでは、省電力無線PANの代表となるZigBeeが2005年にも実用化される状況である。ZigBeeは、低消費電力に加え、条件の良い環境では最大69mの通信が可能、接続できるノード(センサ)の数が65535(2の16乗−1)、最大250kbpsの通信速度を有する、という利点により、2003年以降急速に注目を集め、その後わずか2年の間に実用化を迎えている。UWBやBluetoothにおいても、センサネットワークして機能させるための拡張がなされつつあるが、特にUWBについては、ZigBeeより高速なMbpsオーダのセンサネットワーク標準を2006年に策定することを目指し、IEEE 802.15.4aにおいて検討が進められている。
3. 移動への対応
端末が移動しながらの高速な無線通信に関しては、これまでMAC層による無線MANにおける活動が主体であった。IEEE 802.16e(車を対象)については2006年の標準化を目指した検討が進展しているが、802.20(新幹線のような高速鉄道を対象)の標準化にはまだ数年を要するもようである。また、2004年6月には無線LANにおいてIEEE 802.11pが発足し、DSRC(Dedicated Short Range Communication:有料道路における自動料金徴収のETC(Electronic Toll Collection)などで用いられている)による通信に基づくITS(Intelligent Transport System: 高度道路交通システム)への適用を目指した検討が開始されている。
MAC層以下を対象とするIEEEに対して、ネットワーク(IP)層以上を対象とするIETFでは、端末の移動に対応するためのMobileIPがIPv4についてもIPv6についてもすでに標準化されており、2005年の段階では車や鉄道などの局所的ネットワーク全体の移動への対応を目指したNEMO(Network Mobility)が検討されている。今後、IEEE 802.16e、IEEE 802.20、IEEE 802.11pと、MobileIP、NEMOとの効果的な連携が望まれる。
(3) シームレス連携 |
無線ネットワーク間での相互連携に関しては、現在、無線LANと第3世代携帯電話網との連携(3GPP/3GPP2など)、異なる無線LAN間のローミング/高速ハンドオーバ(IEEE
802.11f/r)、異種無線ネットワーク間連携(IEEE 802.21、Media Independent Handoverと呼んでいる)、の3つの動きがある。IEEE
802.11r、IEEE 802.21はともに2004年に発足し、まだ検討に着手したばかりであるが、最初の無線LANと第3世代携帯電話網との連携に関しては、Wi-Fi
AllianceにおいてWCC(Wi-fi-Cellular Convergence)などとも呼ばれ、通信キャリア、通信機器ベンダ、端末ベンダを巻き込む形で検討が進展している。このWCCについては、今後、無線ネットワーク間に加え、さらに固定網と移動網を融合させるFMC(Fixed
Mobile Convergence)へのトリガとなり得る技術であり、注目する必要がある。
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目次:IEEEを整理する(1) | |
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IEEE 802と米国の動き |
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