ワイヤレスジャパン2008レポート

グリーンITを背景に普及の緒に就くZigBee

 


岡崎勝己
2008/8/5

認知度の低い近距離無線通信のZigBee。グリーンITへの対応で採用を検討する企業が相次いでいるという。差別化を図る製品を紹介する

 ネットワークサービスも経路テーブルも仮想化

 携帯電話をはじめとした無線通信技術に関する総合展示会「ワイヤレスジャパン2008」が2008年7月22日から24日にかけて開催された。今回の展示会において注目されたのが、ZigBee Allianceにより2004年に策定された近距離無線通信規格「ZigBee」を応用した製品の拡充だ。

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グリーンITへの対応でZigBeeの利用気運が高まる

 ZigBeeは電池を内蔵した端末(ZigBee Router)が、無線でほかの端末とデータをやりとりすることで、広大なエリアをカバーする巨大ネットワークを容易に構築できるという独自のメリットを備えている。温度や衝撃、赤外線、光など、組み合わせるセンサーはさまざまなものが想定され、最大250kbps程度の通信能力を備えていることから活用範囲も広い。しかし、認知度の低さなどが災いし、工場内での各種監視システムなど限られた用途でしか利用が進んでこなかった。

 だが、2007年から状況は大きく変わりつつあるようだ。その理由として多くの関係者が指摘するのがグリーンITへの対応である。つまり、地球温暖化ガスの削減に向け、各種エネルギー消費をモニタリングする仕組みの整備が企業に強く求められるようになったことで、その仕組みのインフラとしてZigBeeの認知度が急速に向上した。業界関係者いわく「ここにきて、ZigBee関連製品の採用を検討する企業も相次いでいる」というわけだ。

 確かに会場では、認知度の向上に伴うニーズの多様化を受け、独自の観点から差別化を図った製品がいくつも見受けられた。そのいくつかを紹介してみよう。

通信距離の問題を解決するために

 ZigBeeは、近距離無線通信のための技術であることから、端末の通信距離は一般的に長くても数十メートル程度しか確保されていない。これはいい換えれば、その範囲内に端末を配置しなければネットワークを構築できないことを意味する。

 だが、広大な敷地内の管理にZigBeeを活用するためには、無数の端末の設置が求められ、管理の負荷が増加する。このような課題に応えるのが、スカイリー・ネットワークスが情報通信研究機構と共同で開発した「ユニバーサルAP用メッシュルータ」だ。

写真1 スカイリー・ネットワークスの「ユニバーサルAP用メッシュルータ」

 ユニバーサルAP用メッシュルータは、無線LANのアクセスポイントとZigBee端末を一体化した製品といえる。最大の特徴は、ZigBee端末として受信したデータを無線LAN上でやりとりするとともに、受信先であらためてZigBeeのデータに変換してZigBee端末としてデータを発信できる点だ。

 つまり、通信距離の長い無線LANを中継路に用いることで、より少ない端末数でZigBeeネットワークを構築することができ 、ZigBee端末の設置負荷を軽減できるようになる。ブースの担当者によれば「APが互いに自動認識し、マルチホップ通信を行えるため、無線エリアの拡大や縮小が非常に容易に行えるのが最大のメリット。リルート機能も搭載し、障害発生時の高い堅牢性も確保した」という。

 ユニバーサルAP用メッシュルータは年内にも商品化され、大学などの研究機関を対象に販売を進める計画だ。

 スカイリー・ネットワークスとは異なる切り口から通信距離の問題を解決しようとする製品が、日立プラントテクノロジーの広域無線センサーネットワーク「ZigNet」だ。このシステムは、マルチホップ端末の「ZigStation」と無線センサー端末「ZigCube」、計測データの集中監視装置「SolidBrain」で構成される。最大のポイントは韓国で広域無線通信の実績を誇るヌリテレコムの協力によって開発したZigStationにある。

写真2 日立プラントテクノロジーの「ZigNET」。「ZigCube」は単三乾電池2本で最大2年間の動作が可能

 ZigStationは2.4GHz帯のZigBeeを採用することで、約1キロメートルの通信距離を実現した。これでネットワークを構築するとともに、その配下にZigCubeを設置することで、広大なエリアをカバーするセンサーネットワークを構築できる。なお、ZigStationとZigCube間の通信は、微弱無線を採用しており、通信距離は最大30メートルとなっている。

 日立プラントテクノロジーの土浦事業所では、事業所内の各種施設の管理に同製品を採用しており、約1キロメートル四方の敷地内に142ものの端末を設置した。同社の担当者によれば「一般的なZigBee製品では、その数はもっと膨大にならざるを得ない。この点が高く評価され工場内の管理のほか、防災を目的とした引き合いも少なくない」とのことだ。

通話や位置情報の取得など利用の目的も多様化

 参考出品ながら、ZigBeeの新たな用途開拓に取り組む意欲的な製品も多数存在した。ルネサステクノロジのブースに展示されていたZigBeeで音声をやりとりする製品もその1つだ。

写真3 ZigBeeで音声のやりとりを図ったルネサステクノロジの試作品

  同製品の開発を手掛けたステップワンは、2007年のワイヤレスジャパンにも同様の製品を出展していたが、それは音声を一方的に伝送するだけのものだった。今回は双方向で音声をやりとりするためのプロトコルを独自に開発し、1対1の通話だけでなく1対多の音声配信にも対応したという。

 気になるニーズは、「残念ながらインターホンのメーカーから問い合わせがあった程度」(担当者)という。しかし、こういった使い方が認知され、技術が磨かれていけば、ニーズが盛り上がる可能性も決して否定はできない。

 スカイリー・ネットワークスは、ZigBeeとアクティブ送受信タグを応用した位置情報システムを参考出品した。これは、 事前に情報と紐付けデータベースに格納しておくとともに、その情報を「エリアトランスミッタ」 で発信し、アクティブタグがその情報をリーダ/ライタに転送することでタグの所有者がどこにいるのかを突き止めるものだ。

写真4 ZigBeeとアクティブ送受信タグを組み合わせた位置情報システム

 エリアトランスミッタは通信距離を細かく制御でき、より多く配置するほど、位置情報の精度をより高めることができるという。同様のシステムは基地局間をLANで結ぶことで実現できたが、ZigBeeを用いることで設置の手間を抑えられるというメリットがある。

 一方、ディジインターナショナルは組み込みRFモジュールの「XBee 802.15.4 OEM RFモジュール」のZigBee版とIEEE 802.15.4版の2製品を出展するとともに、「XBee ZNet 2.5 ZigBee開発キット」も展示した。

写真5 ディジインターナショナルの「XBee ZNet 2.5 ZigBee 開発キット」

 開発キットはZigBeeモジュール5枚と、RS‐232/USB開発インターフェイスボード、ケーブル、テストや微調整用のソフトウェアなどを収めたCDで構成される。ZigBeeの普及に伴い、こうした評価キットの需要は増えるものと予測されるが、ブースの担当者によれば、やはり2007年前半ごろから引き合いが増え始め、ZigBee規格の最新バージョン「ZigBee-2007」が策定されると売り上げは底堅さを増してきたという。

 同社は今後、ZigBeeでは技術的に実現が困難なシステム向けに、独自開発した通信技術を採用したRFモジュールのリリースも予定している。「実際に顧客から、ZigBeeでは対応できないケースがあるとの声をしばしば耳にする。そうした分野に新製品で対応を図るとともに、ZigBeeと組み合わせてネットワークを構築できるようにすることで、市場のパイを広げていければ」とのことだ。

 これら以外にも、NECエンジニアリングや沖電気をはじめとした各社が、従来からの温度管理システムや設備管理システムのインフラ部分を、いわばZigBeeに置き換えた製品などを展示。ZigBeeがネットワークを構築する際の、現実的な“解”の1つとなりつつことがうかがえた。

 なお、ワイヤレスで通信を行う方法として、ソニーの公開した「TransferJet」に対する関心も高まりつつある。一般的に無線はユーザーにとって利便性が高いものの、セキュリティの設定が難解になりがちだ。だが、TransferJetは機器同士が接触した状態でなければ利用できないほど通信距離が短いため、ほかの機器との誤った接続が発生するおそれがなく、560Mbpsもの通信能力を備えているにもかかわらず、認証や暗号化の機能を備えていない。

 今年7月にはその仕様を確立するために、ソニーやキヤノン、日立製作所など15社が「TransferJet Consortium」を設立。今後はデジタルカメラを直接TVにかざすだけで静止画を画面に映し出したり、携帯電話をオーディオ機器に直接かざして音楽ファイルを転送するなど、さまざまな機器間のインターフェイスとして利用が進められる計画だが、その動向も注目されるところだ。

次世代移動体通信をめぐる各社の次の“一手”とは?

 ワイヤレスジャパン2008では、キャリアやメーカー各社による最新の移動体通信サービス/技術に関する出展も多数見受けられた。中でも注目すべきなのは、2009年から国内でWiMAXサービスの試験提供を開始するUQコミュニケーションズが展示した日本国内向けのプロトタイプ端末と、すでに米国や韓国で運用されているWiMAX端末である。

 WiMAXは今後、無線IP通信の標準規格として世界中で利用される可能性が高い。UQコミュニケーションズが提供する10MHz帯を使ったサービスでは、最大40Mbpsの通信速度を実現する。将来的に20MHz帯のサービスが実現すれば、光ファイバー並みの80Mbpsもの通信速度も可能になるという。

写真6/7 UQコミュニケーションズが展示していたWiMAX用端末。韓国版の端末に見られるような通信能力を生かす“仕掛け”が求められる

 この通信能力をいかに使い切るか。展示されていた韓国版の端末は小型PCと呼んでも差し支えのないものとなっていた。今後、どのような端末が登場するのかが注目される。

 京セラはすでに世界10カ国以上で商用サービスが提供されているiBURSTシステム用端末や無線通信カードなどを出品し、多くの来場者の関心を集めていた。

写真8 京セラのiBURSTシステム用端末や無線通信カード

 データ通信にフォーカスしたiBURSTは、通信能力こそ最大1Mbpsにとどまるものの、担当者によれば「5MHz帯の帯域しか必要とせず、周波数の利用効率が非常に高い。加えて基地局当たり最大21ユーザーまで収容でき、事業者のインフラ整備コストを抑えられることもメリット」という。

 すでにアフリカ諸国で商用サービスが開始されており、2008年度中には17カ国にまで拡大する見通しだ。国内でも2008年末までに事業者免許が交付される予定だが、次世代PHSなどの展示にも関心が集まる中で、各社の今後の戦略が注目される。

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