ネットワーク・ストレージを加速させる最新技術を紹介
特集:最新IPストレージ技術「iSCSI」
青木直孝
日本アイ・ビー・エム
SNIA-Japan Forum正会員
2002/10/5
Part.2 iSCSI技術仕様 |
■iSCSIの仕組み
●iSCSIのコンセプト
Small Computer System Interface(SCSI)は、HDDやテープ・ドライブ、スキャナなどの周辺装置との入出力に使用されるインターフェイスであり、パラレル・バスを介したブロック・データの送受信を基本とする。また、SCSIはクライアント/サーバ・モデルであり、SCSIコマンドを発行し、処理を要求する「イニシエータ」と、その処理を行い、レスポンスを返す「ターゲット」により構成される。
iSCSIのコンセプトは、SCSIコマンドやレスポンスをTCPパケットにカプセル化することにより、従来のパラレル・バスを元にしたSCSIトランスポートを、IPネットワークによるトランスポートに置き換えることである。これは、IPベースのStorage Area Network(IP-SAN)の構築を可能とする。
図1 iSCSIの概念。SCSIコマンドやレスポンスをTCPパケットにカプセル化することにより、従来のSCSIによるトランスポートをIPネットワークに置き換える |
●iSCSI階層モデル
iSCSIの階層モデルを図2に示す。iSCSIレイヤは、SCSIレイヤとTCP/IPレイヤとの間に位置する。SCSIレイヤからのSCSIコマンドやレスポンス、データを受け、それをカプセル化処理してiSCSI
PDUを作成し、TCP/IPが提供するTCPコネクションを介して送信を行う。また、TCPコネクションを介して受信したiSCSI PDUを処理して、SCSIコマンドやレスポンス、データを抜き出し、それをSCSIレイヤに通知する。
図2 iSCSIの階層モデル。iSCSIレイヤはSCSIレイヤとTCP/IPレイヤの中間に位置し、SCSIコマンドやレスポンスをiSCSI PDUという形でカプセル化し、TCPコネクションを介して送信を行う |
■iSCSIプロトコル概要
●セッションの確立とログイン
iSCSIにおいて、イニシエータとターゲット間の論理的な通信路は、iSCSIセッションと呼ばれる。iSCSIセッションは、1つもしくは複数のTCPコネクションから構成され、SCSIにおけるI_T
Nexusに相当する。
図3 iSCSIセッションは、1つまたは複数のTCPコネクションから構成される |
iSCSIセッションの確立は、イニシエータがターゲットとの間でTCPコネクションを張り、認証とネゴシエーションすることにより行う。認証は、不正アクセスを防ぐためにターゲットによりイニシエータの認証を行うのみならず、なりすましなどを防ぐためにイニシエータによるターゲットの認証を行うことも可能である。認証には、セキュリティの観点から、以下の認証方式を使用する。どの認証方式により行うかは、イニシエータとターゲット間のネゴシエーションによって決めることができる。
- Kerberos V5(RFC1510)
- Simple Public-Key GSS-API Mechanism(RFC2025)
- Secure Remote Password(RFC2945)
- Challenge Handshake Authentication Protocol(RFC1994)
●SCSIコマンド・レスポンスとデータ転送
iSCSIにおいて、SCSIコマンドの送信はSCSI Command PDUにより、データ転送はSCSI Data In/Out PDUにより、SCSIレスポンスの送信はSCSI
Response PDUにより、それぞれ行う。イニシエータは、iSCSIセッション内のどのコネクションからでもSCSIコマンドの発行を行うことができるが、コマンドに対するデータ転送やSCSIレスポンスは、コマンドが発行されたコネクションを使用する必要がある。
データ転送は、受信側の準備が整うのを待って送信することが基本となる。データ受信側は、受信可能となったときに Ready to Transfer (R2T) PDUを送信し、データ送信を促す。データ送信側は、それに対するレスポンスとしてデータの送信を行う。データの転送が1つのパケットに収まらない場合複数に分けて転送を行う。この際、最終のPDUを示すためにFinalフラグが使用される。図4に、SCSI Writeコマンドの例を示す。
図4 iSCSI Writeの流れ。データ転送は、受信側の準備が整うのを待ってから行われることになる |
■iSCSIネームとその解決
iSCSIノードは、ノード識別や管理のためのiSCSIネームを持つ。iSCSIネームは、iSCSIノードのロケーションに依存しないこと、全世界で唯一であること、iSCSIノードのライフにおいて固定であることなどが必要であり、iSCSIでは、IPドメイン名を使用したiSCSI Qualified NameとIEEEの64ビットExtended Unique Identifierを使用した「IEEE EUI-64 Format」を使用する。
iSCSI Qualified Nameは、タイプ識別子「iqn.」、ドメイン取得日、ドメイン名、ドメイン取得者が付けた文字列からなる。
(例) iqn.2002-09.com.ibm:iscsi-gateway:model-xxxx:sn-xxxxxxx |
IEEE EUI-64 Formatは、タイプ識別子「eui.」とアスキーコード化された16進数のEUI-64識別子からなる。
(例) eui.0123456789ABCDEF |
イニシエータがターゲットへのiSCSIセッションを確立するためには、ターゲットのIPアドレス、TCPポート番号、およびiSCSIネームが必要となる。iSCSIでは、これらの情報をイニシエータに設定するための方法として、3つのオプションを用意している。
1. 静的構成
イニシエータに3つの情報を静的に設定する方法で、iSCSIネームのディスカバーを行わない。小規模なiSCSIシステム向けのオプション2. SendTargets
イニシエータにターゲットのIPアドレスとTCPポート番号の設定を行う。iSCSIネームの解決には、ディスカバリー・セッションと呼ばれる特別なiSCSIセッションを使用して、SendTargetsコマンドを発行しターゲットに問合せることにより行う。ゲートウエイやルータ向けのオプション3. ゼロ設定
Service Location Protocol(SLP:RFC2608)利用する方法と、Internet Storage Name Service (iSNS: Internet-Draft)を使用する方法がある。SLPには、「Service Request」をマルチキャストすることによりターゲットのディスカバリーを行う方法と、ディレクトリ・エージェントへユニキャストで問い合わせる方法がある。イニシエータは、自身のiSCSIネームをService Requestに含めることで、自分に対して使用が許可されているターゲットの発見を行うことが可能である。
Index | |
特集:最新IPストレージ技術「iSCSI」 | |
Part.1 「iSCSI」とは、どのような技術か? ・iSCSIとは? ・iSCSIの標準化動向 |
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Part.2 iSCSI技術仕様 ・iSCSIの仕組み ・iSCSIプロトコル概要 ・iSCSIネームとその解決 |
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Part.3 iSCSIの将来と今後の課題 ・iSCSIの実装要件 ・iSCSIの技術的課題 ・他技術とiSCSIとの比較 |
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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