楽天モバイルは、同社が開発を進めてきた衛星通信サービスを2026年第4四半期に提供開始すると発表した。同社はこのため、AST SpaceMobileという企業にシリーズBで投資し、5年間にわたって協業を続けてきた。ASTはどんな技術を持っているのか。
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楽天モバイルは2025年4月23日、一般的なスマートフォンで使える衛星ブロードバンド通信サービスを2026年第4四半期中に提供開始すると発表した(プロダクト名は「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」)。同サービスについて同社は過去に何度か説明してきたが、2025年4月に実施した実証実験に成功し、正式提供に向けて自信を深めた形だ。今後実験試験局免許を取得し、通信試験を開始する予定だという。
楽天モバイル会長の三木谷浩史氏は、これを「携帯業界のアポロ計画」と呼ぶ。同社が組んでいるAST SpaceMobile(以下、AST)は、低軌道(LEO)衛星によるブロードバンド通信サービスを世界中で本格展開する準備を進めている。楽天をはじめVodafone Group、AT&T、Verizon、Bell、Googleなどの出資を受けており、現在45社以上の携帯通信事業者と提携している。
楽天が出資したのは2020年3月。携帯通信サービス提供開始の前月だ。「楽天モバイルのサービスを始める前から本プロジェクトには主体的に関わり、世界レベルで進めてきた」と三木谷氏は話した。楽天モバイルは、日本国内でASTを使ったサービスを独占的に提供できる契約を結んでいる。
なお、米国や欧州の携帯事業者も、大まかには楽天モバイルと同様なスケジュールでASTを使ったサービスを始めるつもりのようだ。通信当局の許認可次第ではあるものの、2026年中の本格サービス開始を目指している。
ASTは、SpaceXの「Starlink」のように自己完結的なサービスではない。そのビジネスモデルは、既存携帯事業者が提供するサービスを補完することにある。同社は「携帯通信サービスのインフラを宇宙に拡張する」と表現する。
技術的には、「衛星として宇宙に展開する基地局」だ。ASTの衛星はリピーターとして機能する。直接接続する携帯電話からは、一般的な基地局と同じように見える。このため、ユーザーは自身が契約する携帯会社がASTのパートナーとなっていれば、端末と周波数を変えることなく通信できる。一方、ASTではゲートウェイ地上局の利用も想定している。これを通じて衛星を携帯通信会社の地上インフラと接続することで、既存インフラにつながる携帯ユーザーやインターネットサービスとの通信を実現する。
2025年4月には、この構成で「日本初の低軌道衛星を使った携帯電話同士のビデオ通話」の実験を行ったという。福島ではスマートフォンを衛星と直接接続。一方、同じ福島に設置したゲートウェイ地上局で、衛星との通信を楽天モバイルの地上インフラにつなぐ。これにより、東京の基地局につながったLTE端末が、福島の携帯端末とビデオ通話を行っている。
ASTの衛星は大きなアンテナを搭載しているのが特徴だ。現行機の「BlueWalker 3」は64.4平方メートルの面積を持つ。次世代機の「Block-2 BlueBird」では223平方メートルに広がる。
大きなアンテナを持つことの利点を、ASTは次のように説明している。
一般的な携帯端末からの弱い電波を拾い、長距離の直接通信ができる。ゲイン(利得)が向上して強く鋭いビームを送れるため、広帯域の安定した通信が可能となる。また、乗り物や建物の壁などの障害物を電波が透過しやすい。
三木谷氏は「プロードバンドというのがキモ」と話している。
衛星1基当たりのカバーエリアが広くなるメリットもある。このため、Starlinkに比べてはるかに少ない数の衛星で、世界中をカバーできるとASTは強調している。ちなみに、同社が2026年末までに打ち上げを予定しているのは45〜60機。2030年にかけては155機を投入する可能性もあるという。
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