特別企画:レイヤ2トンネリング(前編)
貫通力だけでない
リモートブリッジoverIPを理解する

佐藤純也 
インターネットイニシアティブ
2004/7/14


 「例外的な」ポリシーの問題

 セキュリティポリシーを検討する際に、なるべくシンプルな構造になるよう正規化を行いますが、それでもどうしても例外的な設定が必要になります。例えば、

  • 営業部は開発部門のサーバは見られないが一部の技術営業の人間は例外とする
  • 開発部門は営業部門のサーバは見られないが管理職は例外とする
  • 社長は例外なので全社のサーバにアクセスできる

というのはごく一般的なことでしょう。

 また、ちょっと問題の性質が異なりますが、業務上の理由により一時的にポリシー自体を変更する必要があることもあります。例えば、

  • 顧客のデモのため社内の会議室にグローバルのIPアドレスが必要になった
  • あるプロジェクトのために一時的に社外の人間と共用するサーバを社内に置くことになった

 などさまざまな事例があるでしょう。

 このように現実のネットワークの運用では例外的なポリシーが発生します。それどころか多くのネットワークでは「ベースとなるポリシー」に対応した少数のフィルタルールと、「例外的なポリシー」に対応する多数のフィルタルールを運用しているのではないでしょうか?

 リモートブリッジoverIP

 リモートブリッジoverIPを使うことで、これらの問題を解決することができます。

 リモートブリッジoverIPはIPネットワーク上に仮想的なレイヤ2のネットワークを構築することです。簡単にいうとEthernetケーブルを仮想化し、それをIPネットワーク上で実現するといった方がイメージしやすいかもしれません。

 リモートブリッジoverIPの実現方法としてはレイヤ2レベルのトンネルと実際のIPネットワークを構築するブリッジ機器を、仮想的なネットワークのそれぞれの終端(入り口?)に設置するだけです。

図3 リモートブリッジoverIPの実現方法

 リモートブリッジoverIPは上の図のように、非常にシンプルなシステムを構成できることもできます。そのうえ、単純に「レイヤ2ネットワークを遠隔地に転送する」というネットワーク的にも非常にシンプルです。

 では、このリモートブリッジoverIPがどのようなメリットを持つのかを解説してゆきます。

 VLANに対するメリット

 VLANは前述のとおり、現実のネットワークをセキュリティポリシー運用上、理想的なネットワーク構造から乖離する要因の1つである物理的な制約を排除する方法として非常に有効ですが、あくまでもLAN上の技術であるためリモートアクセスには適応できません。

 これに対し、リモートブリッジoverIPはトンネルの実装にもよりますが、TCPやUDPといったおなじみのプロトコルでトンネルが構成されるため、一般的なネットワークに自由な構成が可能です。

 例えば、現在その「貫通力」の高さで話題になっているレイヤ2トンネルの実装SoftEtherを使えば、トンネルはHTTPで構成されるため、HTTPが利用可能なネットワークからならばリモートブリッジoverIPを実現可能です。

 HTTPは説明不要なほどインターネットの代表的なプロトコルであるため、ほぼすべてのインターネット環境から利用可能でしょう。このため、極端な例を挙げれば海外のホテル(しかもグローバルIPアドレスではなくNATによるローカルIPアドレスの環境)から社内へのアクセスも可能になります。

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Index
特別企画:レイヤ2トンネリング(前編)
   物理的なネットワーク構造と物理的な制約
 「例外的な」ポリシーの問題とリモートブリッジoverIP
   仮想セグメントのメリット

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