JANOG29レポート〜過熱し過ぎていませんか?
OpenFlowをめぐる期待と現実

あきみち
2012/2/16

データセンターでの利用をはじめ、さまざまな領域での活用が期待されている「OpenFlow」。けれど、どうも期待が先行し過ぎているようです。JANOG29のセッション「で、実際OpenFlowで何ができるの?」での議論をベースに、現状を探ります。(編集部)

 OpenFlowは新たなバズワードか?

 この半年ほどというもの、「OpenFlow」という単語がバズっています。

 OpenFlowは、ネットワークでいろいろと「新しいこと」を可能にすると期待されている仕様です。

 OpenFlowが動作するには、「OpenFlowコントローラ」と「OpenFlowスイッチ」が必要です。まず、OpenFlowコントローラがOpenFlowスイッチに対して指示を出し、OpenFlowスイッチはその指示通りにフレームを転送します。

 OpenFlowでは、スイッチの物理ポート番号などのレイヤ1に関する情報から、TCP/UDPポートなどのレイヤ4の情報までに基づいて各フレームのスイッチングルールを記述できます。このため、例えば仮想化されたサーバの動的な移動や設定変更に応じたスイッチングの実現など、仮想化技術を用いたクラウド環境の柔軟な構築を可能にする技術として注目されています。

関連記事:
5分で絶対に分かるOpenFlow
http://www.atmarkit.co.jp/fnetwork/rensai/5minopenflow/00.html

 このOpenFlowによって期待できることは多々あります。一方で、OpenFlow技術に対応する製品は、まだほとんど市場に登場していないため、OpenFlowに対する「期待」と、現時点で「実現可能であること」の間にはギャップがあるようです。

 1月19日から20日にかけて開催されたネットワークオペレータミーティング「JANOG29」でも、このOpenFlowをテーマとするセッション「で、実際OpenFlowで何ができるの?」が行われました。この中では、OpenFlowが有効であると思われるユースケースが語られるとともに、過度な期待と現実の「ギャップ」が、今後のOpenFlowの普及に悪影響を与える可能性が懸念されていました。特に、OpenFlow製品を開発しているベンダからは、自社の狙いとともに、過熱気味の雰囲気に対する戸惑いの声が上がりました。

関連リンク:
JANOG29:で、実際OpenFlowで何ができるの?
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog29/program/openflow.html

 JANOG29で紹介されたOpenFlowの主な用途

 OpenFlowは、主にデータセンター内で、サーバ仮想化やストレージ仮想化と組み合わせての利用が期待されています。

 JANOG29の「で、実際OpenFlowで何ができるの?」ではまず、NTTデータの馬場達也氏が、仮想サーバの統合管理を行う際、スイッチ部分を制御するためにOpenFlowを利用するというユースケースを紹介しました。特に、ライブマイグレーションに対して自動追尾が可能であるというメリットを強調しました。

 「5年前からOpenFlowに取り組んでいる」という日本電気の岩田淳氏も、主なターゲットはデータセンター内での仮想化であると述べています。

 データセンター以外への適用も検討されています。NECビッグローブの淀野直弥氏は、OpenFlowを使って、仮想化されたネットワークの管理を自動化するために模索中であるという発表を行いました。

 このようにOpenFlowは、主にハイエンド、特にデータセンターでの利用が想定されています。しかも、後に述べるようにまだ普及まで間があることから、初期のOpenFlowスイッチは、家庭やSOHO環境などで利用されるネットワーク機器はもちろん、企業オフィスで導入されるスイッチと比べても高価なものとなるでしょう。

 おそらく初期のOpenFlowは、現在データセンター内で利用されている各種の技術同様、多くのユーザーにとってはブラックボックスの内側で、知らないうちに動いているものになるでしょう。ちょうどMPLSのような位置付けかもしれません。

 OpenFlowは普及するのか? するとしたらいつ頃か?

 OpenFlowの普及時期が気になる方もいると思います。しかし、OpenFlow製品の登場後すぐに一般に普及するようなことは、おそらくないでしょう。

 JANOG29セッションのQ&Aコーナーでは、「OpenFlowは普及するの?」という質問も寄せられました。これに対し、ハードウェアベンダの発表者はそれぞれ、「個人的な予想」と前置きしつつ、2012年は徐々に製品が出始める時期で試行導入がメインとなり、2013年以降が本格的な普及時期だという意見を述べていました。さらに普及時期を先に見積もり、2012年から2013年にかけて初期製品が登場し、そのフィードバックを活かした製品が出るのは2014年以降になるだろうという意見もありました。

 OpenFlowコントローラのベンダであるニシラ・ネットワークスの進藤資訓氏は、OpenFlowを、さまざまな機器をつなぐ「USBのようなもの」と表現しています。そして、「USBが普及したと思いますか? USBと同じように思えるようになったときこそ、『OpenFlowが普及した』といえる時期だと思います」と感想を述べていました。

 「日本はOpenFlowクレイジーだ」

 2011年から一部でいわれていた意見ですが、OpenFlowに関する報道を見ると、主に日本などのアジア圏での過熱が顕著です。これに対し、アメリカ国内ではさほど盛り上がっているわけではありません。2011年末になってようやくアメリカでも話題になり始めましたが、どうも日本の方が期待の盛り上がり度は上のようです。

 JANOG29では、「日本に来た某B社のCEO曰く」という説明で、以下のような画像とともに「日本はOpenFlowクレイジーだ。本当にそんなにすぐ使うのか?」という社内発言が紹介されました。

画面 某B社CEOの発言(JANOG29のUstream中継より)

 この発言後に行われた秋の「Open Network Summit」後は、アメリカでもOpenFlowに関する話題が増えつつあるそうです。とはいえ、アメリカから見れば日本でのOpenFlowの盛り上がり方は多少過熱気味で、「日本は『OpenFlow Crazy』」とも見えるようです。

 ここでいう「Crazy」とは、おそらく、頭がおかしいという悪い意味ではなく、「熱狂的だ」というプラス面も含めた意味だと思われます。いずれにせよ、日本とアメリカとではOpenFlowに対する「熱狂度」が、まったく異なることがよく分かります。

 JANOG29のセッションでは、「OpenFlowの推進側から見ても、日本ではバズっていると思う」という“正直なコメント”まで登場しました。

 

OpenFlowをめぐる期待と現実
OpenFlowは新たなバズワードか?
JANOG29で紹介されたOpenFlowの主な用途
OpenFlowは普及するのか? するとしたらいつ頃か?
「日本はOpenFlowクレイジーだ」
  仕様は発展途上、本格的な実装はこれから
セキュリティ問題に対する懸念も
「すでに存在する○○と何が違うの?」という疑問
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