【トレンド解説】


光ネットワーク技術のトレンドを整理する!

鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
2002/4/5

最近、IP-VPNや広域イーサネット接続サービスなどが注目を集めているせいか、「SONET/SDH」「OC-○○」「WDM」といった、キャリア系の事業者が用いる光通信技術の名称が、ニュースや技術解説記事などに頻繁に登場するようになった。そこで本記事では、これらの技術について、ざっと歴史を振り返りつつ、その背景や特徴を整理してみることにした


バックボーンの主要インフラ「SONET/SDH」

 キャリアなどが持つバックボーン・ネットワークを解説する際に、必ずといっていいほど登場するのが、「SONET(Synchronous Optical Network)」と「SDH(Synchronous Digital Hierarchy)」と呼ばれる光伝送技術である。SONETは、1980年代前半にBellcore(現Telcordia Technologies)によって提唱され、ANSI(American National Standards Institute)によって標準化された。つまり、事実上のアメリカン・スタンダードである。

 一方のSDHは、ITU-T(the International Telecommunications Union - Telecommunications Standardization Sector)によって標準化された国際標準である。SONETをベースに仕様が作られているため、細かい部分で異なるところもあるが、SDHとSONETは互換性を持っているといえる。実際、両方の技術をサポートした製品が多いため、「SONET/SDH」と表記されることが多い。

 SONET/SDHは、伝送速度に応じて階層的にインターフェイスが定義されている(表1)。バックボーン・ルータのスペック表などで、「OC-○○のインターフェイスを装備」といった記述を見かけるが、そのインターフェイスは「OC-○○」に対応した通信速度を持っているということになる。

SDH
SONET
伝送速度
STM-0
OC-1
52Mbps
STM-1
OC-3
156Mbps
STM-4
OC-12
622Mbps
STM-16
OC-48
2.4Gbps
STM-64
OC-192
10Gbps
表1 SONET/SDHのインターフェイス種類と速度の対応

 SONET/SDH最大の特徴は、高い信頼性と対障害性を持っていることだ。これは、SONET/SDHが電話網の構築に向けて通信会社により開発された技術だった経緯からきている。SONET/SDH技術を用いてネットワークを構築する際は、「SONET/SDHリング」と呼ばれる、二重構造のリング型のトポロジーを構成する。二重化された経路には、それぞれ異なる向きにフレームが流れており、耐障害時にもう一方の経路がう回路として機能する。もしリング上の経路のあるポイントで障害が発生しフレームの送信が行えなくなった場合、瞬時にう回路を利用する設定に切り替わるようになっている。

QoSメカニズムを標準で備えた「ATM」

 前述のように、SONET/SDHは電話網向けに開発された技術ということもあり、コネクションごとに帯域を占有するという、コネクション型のメカニズムで動作している。そのため、インターネットのように常に変動するトラフィックの中継という用途では、帯域を有効に活用できないという難点があった。そこで1990年代半ばごろに注目が集まったのが、ATM(Asynchronous Transfer Mode)と呼ばれる技術である。

 ATMでは、データを53bytesの「セル」と呼ばれる固定長の単位に分割し、オーバー・ヘッドの少ない高速な伝送を行っている。ここにはQoSの概念が標準で組み込まれており、音声や制御情報、重要なデータなどは優先して送信するなど、統計多重化による優先制御が行われる。SONET/SDHのようなコネクションの概念とは異なり、トラフィックが少ないときでも帯域を有効に活用でき、逆にトラフィックが増えた場合でも優先度の高いパケットは確実に届けて信頼性を高めている、といったように一石二鳥の技術なのである。

 ただ最近では、ATMの進化を超える伝送路の高速化の要求や、10GbE(10ギガ・ビット・イーサネット)などのように安価で高速な機器が登場してきたこともあり、ATMに対する需要は弱まってきている。また、IPパケットをセル単位に分割して再構成するオーバー・ヘッドに対して、高速化されたSONET/SDHでそのままフレームとして送出したほうが効率がいい、と考えられるようになったことも大きい。

1本のファイバで複数通信を実現する「WDM」

 伝送路が数Gpbsを超えるようになり、装置の単純な高速化が難しくなってくると、1本の光ファイバで複数の通信を行うアプローチが取られるようになった。それが、WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)である。

 WDMでは、1本の光ファイバに少しずつ波長が異なる光を多重化して送信することで、あたかも複数の光ファイバが同時に通信しているかのようにできるため、多重化した分だけ伝送路の高速化が行える。例えば、WDMが利用され始めた当初は4波多重が行われていたため、OC-48(2.4Gbps)を4本束ねれば、約10Gbpsの伝送路が確保できることになる。現在では、OC-48を40本束ねるWDM装置が登場しており、1本の光ケーブルで100Gbpsクラスの伝送速度を実現している。WDMの登場により、通信事業者は既存のインフラ(光ファイバ)を生かしつつ、バックボーンの高速化を行うことが容易になった。

 またWDMには、伝送密度によってDWDM(Dense WDM)やWWDM(Wideband WDM)といった区分があるが、これらはすべてWDMと同じ1本の光ファイバで複数通信を実現している仲間である。

そして10Gbpsのイーサネットへ

 低価格と使いやすさを武器に成長してきたのが、イーサネットである。その通信速度も、10Mbps、100Mbps、1Gbps、そして10Gbpsへと段階的に進化してきた。その進化のたびに競合規格が登場するも、その価格と使いやすさにおいて圧倒的に凌駕することで、業界標準として君臨してきた。10Gbpsの時代になり、前述のSONET/SDHやATMで実現していた信頼性や通信品質制御を取り込むことで、WANにおいても標準技術として注目を集めつつある。特に機器の価格の安さは、どの関係者も認めるところだ。

 だが、すべてがイーサネットへと向かうのだろうか? 答は否、である。事業者は、既存設備を生かしつつ、段階的に自社のバックボーンに拡張を重ねてきた。10Gbpsのイーサネットの登場は、まずは、その際の選択肢を増やしたにすぎない。

 EoMPLS(Ethernet over MPLS)などのように、LANで標準のイーサネットのフレームを、異なる伝送方式においても転送する技術が登場している。今後、事業者は、MPLSなどの技術を用いることで、既存の設備を生かしつつバックボーンのさらなる拡張や高速化を実現することになるだろう。

「Master of IP Network総合インデックス」

 



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