【トレンド解説】
ネットワークとの融合が進むストレージ
鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
2002/7/23
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いま「ストレージ」は、単なる「データの保管場所」という意味合いだけでなく、企業のネットワーク・システムや企業戦略そのものに密接に結びつき、「企業システムの中核」になりつつある。蓄積したデータをいかに安全に管理し、必要なときにすぐに取り出せる環境を構築できるか、現在ストレージ・システムに求められる課題は、この点にあるといえるだろう。この進化するストレージの最新潮流は、「ネットワーク化」の一言に集約できるといえる。
2002年6月に東京ビッグサイトで開催された「第4回データストレージEXPO」では、「IPストレージ」「ディザスタ・リカバリ(災害復旧)」というキーワードを会場のあちこちで見かけることができたが、これらキーワードに共通するのも「ネットワーク化」である(参考記事「ディザスタ・リカバリのソリューションが盛況」)。IPストレージとは、既存のTCP/IPで構築されたネットワーク・システムを活用してストレージのネットワーク化を行うことである。ディザスタ・リカバリは、ネットワークで結ばれた遠隔地のストレージ・システム同士を同期させ、災害時でもすぐにシステムを復旧可能にするソリューションである。
ネットワーク化のメリットはいくつかあるが、最も大きなものは「管理を容易」にすることである。また専用のネットワークを構築するなど、システムそのものを見直すことで、アプリケーションのパフォーマンス向上なども実現できるようになる。今回は、ストレージのネットワーク化に関するキーワードをいくつか紹介し、その最新潮流や相関関係を整理しよう。
■ネットワーク型ストレージには、いくつか規格が存在する
従来までのサーバ直結型のストレージ(Direct Attached Storage:略して「DAS」と呼ばれる)に対して、ネットワーク型のストレージには「NAS(Network Attached Storage)」や「SAN(Storage Area Network)」など、何種類か規格が存在する。それぞれの特徴を簡単に紹介しておこう。
●NAS
ファイル・サーバの機能が凝縮されており、ストレージの箱をネットワーク(主にイーサネット)に接続することで、すぐに利用できる手軽さが特徴。NFSやWindowsなどのファイル・システムをサポートしており、さまざまなクライアントからのアクセスに対応できる。簡易型ファイル・サーバとして手軽に利用できる反面、台数が増えていくと管理が行き届きにくくなるなど、DASと同様にスケーラビリティ上の問題がある点がデメリット。
●SAN
サーバに接続されているストレージを集約して、ストレージ〜サーバ間をファイバ・チャネル(Fibre Channel)という専用の高速な光インターフェイスでネットワーク化するもの。パフォーマンス、スケーラビリティともにNASを上回るが、ファイバ・チャネル関連機器(FCボードやFCスイッチ)の価格が高く、導入におけるハードルが高いのがデメリット。
●iSCSI
SANでは、ストレージ・ネットワークの構築にファイバ・チャネルという専用のインターフェイスを用いていたが、iSCSIではTCP/IPをベースとした通信制御を行うことで、イーサネットなどの汎用の安価なインターフェイスでネットワークを構築することが可能になった。通信のオーバーヘッドの高いTCP/IPを用いるため、SANに比べてパフォーマンス的には不利だが、IPによるルーティングが可能なことで、通信可能な距離がSANよりも長いというメリットがある。
ネットワーク型ストレージは大きく2種類に分けられ、1つが「NAS」などの従来のファイル・サーバをそのままストレージ置き換えるタイプで、もう1つが「SAN」や「iSCSI」などのストレージで専用のネットワークを構成するタイプである。以前、記事(「特別企画:DAFS技術解説」)で取り上げた「DAFS」という技術は、前者のNASのタイプにあたる。
DASが抱えていた問題の1つに、「分散配置されたストレージの管理をどうするか」という点があった。これは、今後の拡張(スケーラビリティ)やバックアップをどうするかという問題にもつながっている。「NASは長期的ソリューションにはならない」といわれることがあるが、導入の容易さで簡単にストレージを拡張できるものの、増えたストレージをいかに収束させるかという点で、NASはDASの問題をそのまま引きずっているというデメリットがある。
一方のSAN/iSCSIは、ストレージを集約することでサーバの台数や管理の手間を軽減するソリューションである。その点で、DASやNASに秀でている。デメリットとしては、NASとは異なり、単にファイル・サーバをリプレイスするだけではなく、ネットワーク・システムそのものの再構築が必要となることだ。SANではさらに専用のインターフェイスとして高価なファイバ・チャネルを用いるため、導入は容易ではない。
それぞれにメリット/デメリットあるが、全体の流れとして、DASからNAS、NASからSANやiSCSIへと進んでいるようだ。特に大企業では、日々増え続ける膨大なデータの管理に対処するため、SANの導入に積極的である。iSCSIはまだ規格の策定中で対応製品も少ないため、いまは導入例がないが、数年内にはSANと同様にブレイクする可能性があるだろう。
■SAN/iSCSIのメリット/デメリット
SANでは、サーバ〜ストレージ間をファイバ・チャネルを結んで専用のネットワークを構築しているが、この間を流れているのはファイバ・チャネルのフレームであり、このフレームのペイロード(データ部分)でSCSIのコマンドがやりとりされている。つまり、DASで使われていたSCSIインターフェイスがファイバ・チャネルに置き換わって、なおかつ複数のサーバとストレージ同士をネットワーク接続しているイメージを想像していただければいいだろう。
SANの特徴は、インターフェイスとしてファイバ・チャネルを使っている点だが、高いパフォーマンスや信頼性が得られる反面、
- ファイバ・チャネル自体の価格が高い
- ファイバ・チャネルの制限で100kmより長い距離での接続ができない
というデメリットがある。価格については、今後の普及で低価格化が期待できる部分もあるが、後者は技術的に別の手段で解決するしかない。その解決策が、FCIP(Fibre Channel over IP)などのファイバ・チャネル・フレームのカプセリング技術である。ファイバ・チャネル通信の途中で、長距離伝達が可能なTCP/IPネットワークを経由することで、伝達距離の延長が可能になる。そしてもう1つの解決策がiSCSIである。iSCSIは、ファイバ・チャネルの代わりにイーサネットなどの汎用インターフェイスを使用するため、まず価格面で有利である。そして、ルーティング可能なTCP/IPをベースとしていることから、通信における距離の制限が事実上ない点が特徴である。TCP/IPパケット上でやりとりされるのは、SANと同様にSCSIコマンド群である。
では、ここで本来ストレージ機器の集約が目的のはずのSANやiSCSIで、なぜフレームの到達距離を気にする必要があるのだろうか。その理由の1つは、冒頭に登場した「ディザスタ・リカバリ」というキーワードに関係がある。もし災害が発生したときに、ストレージやシステムが一カ所に集まっていたらどうなるだろうか? 災害でそれらが破壊されてしまえば、当然、すべてのデータは失われることになる。システムもなくなっているから、当面ビジネスを再開することはできないだろう。そこで、離れた地点でストレージのレプリカを用意していたらどうだろうか? その際、テープによるバックアップでもOKだが、リアルタイムでストレージの同期が行えれば、失われる損失は最小限に食い止められる。しかも、代替のシステムがあり、そのレプリカで業務を再開できれば完璧である。これがディザスタ・リカバリの考え方だ。
ディザスタ・リカバリが想定する災害によっては、システム本体とレプリカを用意する拠点間の距離が数kmでは足りず、数十km〜数百kmにもおよぶ場合がある(地震などの災害を想像すればいいだろう)。そうなると、ファイバ・チャネルの100kmという制限は、ケースによっては微妙な数字になる可能性もある。離れた2点間でいかに高速に通信を行うか、先日の事例(参考記事「SANの相互接続検証プロジェクト、第2フェイズへ」)で見られるように、いまストレージ関連各社はそのための検証実験を行い、データの公表を進めている段階だ。
すでに対応製品が存在しており、導入事例も多々あるSANに対して、まだ2001年に発表されたばかりのiSCSIは、対応製品や事例もほとんどない。だが、SANと目指す方向性が同じ以上、やがて大きな勢力になることも予想される。
今後も、SANやiSCSIに関する技術トレンドは継続してレポートしていく予定である。ぜひその動向に注目してほしい。
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