実験
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前置きが長くなってしまったが、ベンチマーク・テストの結果を以下に記そう。
ftpでのデータ転送レートの測定結果 |
上のグラフがget(ダウンロード)、下のグラフがput(アップロード)の場合の転送レートである。各グラフ中の「ルータなし(直結)」というのは、ブロードバンド・ルータを介さずにPC同士をイーサネット・ケーブルで直結した場合の測定結果である。また1Mbits/s=1,000,000bits/sとして記している。 これを見ると、確かにBAR SW-4P Proはほかの2機種の4.5〜6.5倍も高速なのが分かる。しかし直結時の速度には遠く及ばず、100Mbits/sのFTTHサービスに対しては依然ボトルネックになっていることも明らかだ(ただし、FTTHサービスの実効スループットは30M〜40Mbits/sといわれていることから、ほぼ十分な速度は実現している)。 |
まず従来の2機種とBAR SW-4P Proと比べると、WAN→LANとLAN→WANどちらの方向についても、4.5〜6.5倍も転送レートが高いことが目立つ。ベンダ実測値である45Mbits/sと比べると9M〜10Mbits/sほど低いが、これはftpというアプリケーション・レベルでの測定値であり、パケットのヘッダなどによるオーバーヘッドも含まれることを考えると納得できる数値だろう。
この性能なら8Mbits/sのADSLや10Mbits/sのFTTHには余裕で対応できるだろう。しかし100Mbits/sのFTTHに対しては、その半分の速度にも達しておらず、ボトルネックになってしまうことも明らかだ。ルータを介さずにサーバとクライアントPCを直結すると、BAR SW-4P Proを介した場合と比べ、約2.5倍も速いという点でも、ルータによる速度低下は無視できない。
もっとも、現在100Mbits/sのFTTHでは、インターネット中の経路にあるルータ/スイッチあるいはサーバ自体のせいで転送レートは低下するため、インターネット上のサーバとのデータ転送速度は通常20Mbits/s程度で、最大でも30M〜40Mbits/sであるようだ。つまり現状のインターネット環境では、BAR SW-4P Proの性能でも実質的に十分ともいえる。ただ、FTTHサービスを提供する回線事業者のローカルなネットワーク内(インターネットに接続する手前までのネットワーク)では、転送レートは60Mbits/sを超えることもある。このローカル・ネットワーク内だけの閉じたサービスを受ける場合は、BAR SW-4P Proがボトルネックになる可能性はある。
フィルタ設定による性能の低下は無視できるレベル!?
パケット・フィルタリングの設定により転送レートが変化すると記したが、これはフィルタを増やすほど、IPパケットを遮断(破棄)させるか通過させるかを決める際、IPアドレスやポート番号などをチェックする手間が増えて処理速度が落ち、スループットが下がるためだ。では実際にどれくらいフィルタの設定で速度が低下するのだろうか?
BAR SW-4P Proは、LAN→WAN方向のIPパケットに対し、IPアドレスとポート番号それぞれについてフィルタを設定できる。例えば、受信先IPアドレスが「192.168.0.30」のIPパケットを遮断したり、SMTPのポート番号「25」を設定して送信用メール・サーバへの通信を遮断したりすることが可能だ。それぞれ最大15個までフィルタを設定できるので、5/10/15個とフィルタを増やしたときの速度低下を実際に測定してみた。その結果が下のグラフである。
パケット・フィルタリングの設定による速度差 |
BAR SW-4P Proを使って、LAN→WAN方向にftpでデータを転送する際、IPアドレスとポート番号でパケットを遮断する設定を5個ずつ増やして測定した。「IPフィルタ」がIPアドレスによるフィルタリング、「ポート・フィルタ」がポート番号によるフィルタリングだ。フィルタの設定数を増やすほど速度は下がっていくが、15個のフィルタを設定しても速度低下は5%以下と小さいことが分かる。 |
やはりフィルタを設定すると、フィルタがないときと比べて一段速度が下がる。しかし、フィルタの設定を増やしても大幅に速度が下がらず、その下げ幅は5%に収まっていることが分かる。こうなった原因の1つは、やはりプロセッサの処理性能が高く、1つ1つのフィルタを処理するのにかかる時間が短いためと考えられる。
しかし、下げ幅が小さい理由はそれだけではないように思える。というのも、BAR SW-4P Proはフィルタ設定1つにつき、1つのポートまたはIPアドレスだけ指定するという単純な設定方法になっているからだ(下の画面)。
BAR SW-4P Proでのフィルタ設定 | |
左がポート番号、右がIPアドレスによるフィルタの設定をそれぞれ表示させたところ。ポート番号については、1つのフィルタにつき1つのサービス(ftpやweb、newsなど)とプロトコル(TCPかUDPか)の組み合わせしか設定できない。またIPアドレスのフィルタも、「あるアドレスから別のアドレスまで」という範囲指定ができない(Ver.1.01のファームウェアの場合)。 |
ポート番号によるフィルタの場合、BAR SW-4P Pro内蔵のネットワーク・プロセッサはIPパケットのヘッダからサービス・タイプ(TCPかUDPか)と送信先ポート番号が、フィルタ設定と一致するチェックするだけでよい。IPアドレスによるフィルタでは、送信先IPアドレスがフィルタ設定と一致するかどうかチェックするだけで済む。1つ1つのフィルタが単純ならその処理時間も短いから、フィルタ設定を増やしても速度はそれほど低下しない、という可能性が考えられるわけだ。
例えばRTA54iは、下の画面のようにBAR SW-4P Proよりはるかにきめ細かい(複雑な)フィルタを大量に設定できる。ネットワーク構成が複雑だったり、各種サーバを公開したりする場合は、このように細かいフィルタ設定が必要なこともあるのだ。今後、RTA54i並みに高機能なフィルタ機能を備えつつ、BAR SW-4P Proと同等性能のネットワーク・プロセッサを搭載する高機能ブロードバンド・ルータが登場するだろう。しかし、フィルタリングを複雑に設定できる分、そのスループットはBAR SW-4P Proより下がる可能性が高いことは覚えていたほうがよい。
RTA54iのフィルタ設定画面 | |||||||||||||||
これは静的なパケット・フィルタリングの設定画面。LAN側とWAN側それぞれのイーサネット・インターフェイスで送受信される両方のパケットに対し、IPアドレスやポート番号などを組み合わせて複雑なフィルタを設定できる。さらにTCPのコネクションを意識した動的なフィルタリングも設定可能だ。 | |||||||||||||||
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高機能かつ高性能な製品が出揃うまで待つのも選択肢の1つ
本稿ではftpによるブロードバンド・ルータの性能測定を行ったが、その限りでBAR SW-4P Proは、現在の100Mbits/sのFTTHサービスを利用するのに、実質的に十分な性能を持っているといえる。ただし、回線レベルの最大速度(100Mbits/s)には遠く及ばないことは覚えておきたい。また、httpなどほかのプロトコルでのデータ転送や、複数台のクライアントPCでの同時通信の場合は、今回とは異なる結果になるだろう(従来製品との速度差は、さらに広がるかもしれない)。こうしたテストは別の機会に行いたい。
さて最後に高性能ブロードバンド・ルータの動向を簡単にまとめてみよう。2002年1月の時点で、BAR SW-4P ProのようにARM9シリーズのプロセッサを採用したブロードバンド・ルータは、ほかのベンダからも発表または出荷され始めている(プラネックス・コミュニケーションズのBRL-04FAや、アイ・オー・データ機器のNP-BBRexなど)。スループット値は、エンド・ユーザーがブロードバンド・ルータを購入する際の選択指標として分かりやすく、実際、スループット値が高いほど売れ行きもよいようだ。そのため、今後も高性能プロセッサを搭載することでスループットを高めた製品が増えていくことは間違いない。
ただ現時点で気がかりなのは、高スループットのブロードバンド・ルータはBAR SW-4P Proのようにベーシックな製品が多く、例えばRTA54iのような高機能ルータの高速版がまだ少ないことだ。高機能かつ高性能な製品が必要なら、選択肢が広がるまで待つのも1つの手かもしれない。
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INDEX | ||
[実験]新世代ブロードバンド・ルータの性能を検証する | ||
1. ブロードバンド・ルータに「性能」があるワケ | ||
2. BAR SW-4P Proの中身と性能の関連性 | ||
3. 新旧ルータの性能を比較する方法 | ||
4. 従来製品より桁違いに速いが…… | ||
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