実験 

新世代ブロードバンド・ルータの性能を検証する

2.BAR SW-4P Proの中身と性能の関連性

デジタルアドバンテージ 島田広道
2002/01/31

 本稿では、高性能ブロードバンド・ルータとしてコレガ製BAR SW-4P Proをテストする。その前にBAR SW-4P Proの特徴や仕様をチェックしてみる。

コレガのBAR SW-4P Pro
4ポート・スイッチング・ハブを内蔵するブロードバンド・ルータ。同社のBAR SW-4Pの上位機種で、無線LAN機能などが統合されていないベーシックな構成の製品だ。特徴はもちろんその性能で、化粧箱には「テストパターン数値として最大スループット65Mbps」と記されている。

高性能のヒミツはプロセッサにあり

 ベンダによれば、BAR SW-4P Proの最大スループットは65Mbits/s(純粋なハードウェアの転送能力)、実スループットは45Mbits/s(イーサネット・フレームのレベルで計算した値)となっている。従来のブロードバンド・ルータが公称でも数Mbits/s程度のスループットにとどまっていたのに比べると、大幅に性能が高まっている。

BAR SW-4P Proに搭載されているプロセッサ
Conexant SystemsのCX82100というプロセッサが搭載されている。ARMという刻印からも分かるように、組み込み向けプロセッサ・コアで有名なARM9シリーズの1種「ARM940T」がこの中に組み込まれている。最大クロック周波数は144MHzで、158MIPSという性能を発揮する。

 こうした性能アップに大きく貢献しているのは、内蔵のプロセッサだ(写真)。BAR SW-4P Proに搭載されているのは、通信向け半導体チップの開発・製造で知られるConexant Systems社の「CX82100」というプロセッサである。これは「ARM940T」と呼ばれる組み込み向けプロセッサ・コアに、2つのイーサネット・インターフェイスなどを統合したチップだ。少ない部品点数で高性能なブロードバンド・ルータを構築できる、という特徴を売りにしている(ARMプロセッサの詳細については「頭脳放談:第15回 ARMプロセッサを知らずに暮らせない」を参照していただきたい)。

 ARM940Tが属するARM9シリーズは、従来のブロードバンド・ルータに組み込まれていたプロセッサに比べて、大幅な性能向上を果たしているという。2001年末から各社が発表している高速タイプのブロードバンド・ルータでは、このConexant SystemsのCX82100を採用しているものが多いようだ。ファームウェアの違いによって性能が若干異なる場合もあるが、今回のコレガのBAR SW-4P Proの実測値は、ほかのCX82100搭載ブロードバンド・ルータの性能をチェックするうえで参考になるだろう。

ブロードバンド・ルータのスループット向上の歴史

 2001年秋に8Mbits/sのADSL接続サービスが始まった際、ブロードバンド・ルータの各ベンダは、ファームウェアをアップデートすることで既存製品のスループットを公称で2〜4Mbits/sだったのを6〜9Mbits/sに高めた。つまり、従来のプロセッサのままでも、ルータ内蔵ソフトウェアのチューンナップで8Mbits/s程度の性能は実現可能だったのである。しかし、逆にいえば、従来のプロセッサでスループットを高める余地は、もはやほとんどないと推測される。

 2002年に入って、NTT東日本/西日本のBフレッツや有線ブロードネットワークスのBROAD-GATE01など、光ファイバを利用した最大100Mbits/sのインターネット接続サービスが(少しずつだが)普及し始めている。しかし、従来のプロセッサを使ったブロードバンド・ルータだと、こうした100Mbits/sのサービスにはまったく役者不足だ。そこで各ベンダは、ARM9コア搭載プロセッサなど、より高速なプロセッサを採用することでスループットを高めた製品をラインアップし始めている。こうした動向の中、先陣を切ったのがコレガのBAR SW-4P Proだったわけだ。

BAR SW-4P Proのフロント・パネル
インジケータLEDはフロント・パネル、イーサネット・ポートはリア・パネルにそれぞれ配置されている。そのためフロント・パネルはすっきりとした印象を受ける。
  LAN側イーサネット・ポートのインジケータLED。4ポートのスイッチング・ハブを内蔵しているため、インジケータの4列並んでいる。
  WAN側イーサネット・ポートのインジケータLED。一番上の「100M」というインジケータLEDは、100BASE-TXと10BASE-Tを区別するためのもの。つまりWAN側も100BASE-TXに対応している。
 
BAR SW-4P Proのリア・パネル
配置されている各コネクタやスイッチの種類は、従来の4ポート・ハブ内蔵型ブロードバンド・ルータとそう変わらない。
  WAN側イーサネット・ポート。10Mbits/sを超えるインターネット接続に対応できるよう、100BASE-TXもサポートしている。
  リセット・スイッチ。再起動や設定の初期化に利用する。
  LAN側ポート4の機能切り替えスイッチ。LAN側ポート4は、このスイッチにより、イーサネット・ハブとのカスケード接続かPCとの接続か、どちらかを選択できる。
  LAN側イーサネット・ポート。すべて100BASE-TX/全二重通信に対応している。
  電源コネクタ。電源ユニットは外付けで、ACアダプタを使用する。
 
BAR SW-4P Proの内部回路基板
ケースを開けて外に取り出したところ。プロセッサにLAN/WANそれぞれのイーサネット・コントローラが統合されている分、部品点数は少なくなっており、比較的コンパクトにまとまっている。
  LAN側イーサネット・ポートの絶縁トランス。
  LAN側のスイッチング・ハブのコントローラ・チップ。
  プロセッサ(ConexantのCX82100)。
  フラッシュ・メモリ。ファームウェアが書き込まれている。
  WAN側イーサネット・ポートの絶縁トランス。
  WAN側イーサネット・ポートのPHY(物理層)チップ。
  SDRAM。パケットのバッファリングやプログラム実行時のワークエリアなどに使われる。
 
  関連記事(PC Insider内) 
頭脳放談:第15回 ARMプロセッサを知らずに暮らせない
頭脳放談:第12回 キミはARMを知っているかい?
ネットワーク・デバイス教科書:第1回 広帯域インターネット接続を便利に使う「ブロードバンド・ルータ」
ネットワーク・デバイス教科書:第12回 ブロードバンド・ルータの基本設定
ブロードバンド・ルータ徹底攻略ガイド
ビギナー管理者のためのブロードバンド・ルータ・セキュリティ講座
ウイルスを遮断できるブロードバンド・ルータ「GateLock X200」
 
  関連リンク 
BAR SW-4P Proの製品情報ページ
コレガ製BAR SW-4P Proの動作実績情報
CX82100を含むARM搭載ワンチップ・プロセッサの製品情報ページENGLISH
100Mbits/s FTTHサービス「Bフレッツ」のトップページ
100Mbits/s FTTHサービス「Bフレッツ」のトップページ
100Mbits/s FTTHサービス「BROAD-GATE01」のトップページ
ゼロ円でできるブロードバンド・ルータ 2
 1FD Linuxで作る高機能ルータ [インストール編]
ゼロ円でできるブロードバンド・ルータ 2
 1FD Linuxで作る高機能ルータ [設定・運用編]
 

 INDEX
  [実験]新世代ブロードバンド・ルータの性能を検証する
    1. ブロードバンド・ルータに「性能」があるワケ
  2. BAR SW-4P Proの中身と性能の関連性
    3. 新旧ルータの性能を比較する方法
    4. 従来製品より桁違いに速いが……
 
「PC Insiderの実験」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間