連載

究極ホーム・ネットワークへの道
−実例に学ぶホーム・ネットワーク・デザイン−

第6回 ネットワーク・サービスの配置を検討する

渡邉利和
2001/07/19

 これまで、筆者の家庭内ネットワークについて、主として物理層に関して紹介してきた。しかし、ネットワークの目的は「物理的な接続の実現」それ自身にあるわけではない。もちろん、個人のPCユーザーにとっては「手段の目的化」はよくあることだとは思うが。というわけで、今回から数回に渡り、筆者が自宅ネットワーク内で利用しているサービスの状況についてお伝えしていこう。

接続の単純化の影響

 前回紹介したとおり、当初は2台のPCをルータ代わりにして実現していたネットワークのうち、リビング側のルータを専用デバイス(HomePNA-イーサネット・ブリッジ)に置き換えた。この結果、ルータ代わりのPCが1台減って、管理面でも信頼性面でも改善されたわけだが、これに伴ってネットワーク・サービスの配置にも影響が出てきた。筆者が自宅ネットワーク内で運用しているネットワーク・サービスは、ごく基本的なものだけなのだが、ざっと以下のとおりである。

  • メール・サーバ
  • ファイル・サーバ
  • プリンタ共有

 このほか、かつてのルータ・マシン「compaq」、現時点ではブロードバンド・ルータが担当するIPマスカレード・サービスもあるにはあるが、これはインフラに属するものでもあるし、前回までで十分に紹介しているので、一応今回から取り上げていくネットワーク・サービスには含めないことにする。

 下図に、これらのサービスの配置の概略を示す。図の上側が、初期の状態でのサービス配置で、下側が前回紹介した「単純化」によって実現した新たな配置である。「単純化」作業は、インフラ面から見ると「信頼性を向上し、管理すべき要素を減らす」という目的があったが、サービス面からは、「トラフィックの分布を最適化し、応答時間を短縮することで使用感を向上させる」という意味があったのである。

筆者宅のネットワークでのサービスの配置
メール・サービスに関しては次回以降で紹介する予定だ。リモートにあるDNSサーバ/メール・サーバへのアクセスのほかは、2台のWindows 2000 Professionalマシンにサービスが集中している。当初は、トラフィックが比較的低速なHomePNA 2.0回線に集中する点が問題だったが、前回紹介した構成変更に伴ってこの点も改善されている。オレンジ色の線はメイン・サーバへのトラフィック、 緑色の線はサーバからインターネットへのトラフィックを示している。

どのようなサービスが必要か

 ネットワーク・サービスとして何が必要かは、当然ユーザーによって異なってくる。筆者宅の場合、ネットワークのユーザーは筆者自身と妻の2人なのだが、この2人はまさに「管理者」と「一般ユーザー」という関係にあり、かつ必要とするネットワーク・サービスに関しても違いがある。

 まず、妻に関しては、そもそもPCの利用頻度がごくわずかで、月に数時間程度である。主たる用途はワープロを利用した文書作成とその印刷、それにメールとWebのチェックといったところだ。妻は会社勤めなので、自宅でこうした作業をする機会はそう多くはなく、基本的には職場で仕事が終らなかった場合にのみ持ち帰りで実行するだけだ。一般的なサラリーマン的な使い方といえるかもしれない。

 一方、筆者は自宅を職場としているので、使用頻度という観点からは妻とはまるで比較にならない。従って、筆者宅のネットワークは基本的に筆者自身の都合によって設計/運用され、妻は「お客様」としてときどき利用しているにすぎない。図に「ゲスト・クライアント」とあるのが、妻が利用するPCである。妻はリビングでノートPCを利用しているため、この時点ではHomePNAのPCカード・インターフェイスを装備してネットワークに接続していた。妻の利用に対応するためには、HomePNAネットワークから自室(仕事部屋)のプリンタ(LBP)と、OCNのDNSサーバ、メール・サーバ、そして外部のWebサーバにアクセスできさえすればよいということになる。

 筆者は、妻が利用するサービスと同じものに加え、自室内で複数のPCを稼働させることもあって、これらの使い勝手をよくするための追加サービスを必要とする。その主たるものがメールのサポートとファイル・サービスである。実は、この両者は密接に関連しているのだが、その詳細については次回から追々説明していくことにする。

データ・ファイルはファイル・サーバで管理

 複数のPCを適宜使い分けている筆者だが、生来の貧乏性のためか、基本的には「電源を入れるPCの台数は常に必要最小限に留めておきたい」という希望がある。ある種の省エネ願望と考えていただいてもよいのだが、実のところ騒音や廃熱で作業環境が悪化するのが嫌だという理由が大きい。筆者の自室は北向きの約6畳の洋間なのだが、これまでのところ真冬でも暖房を利用したことはなく、かつ真冬以外の9カ月程度は冷房を必要とするほどだ。7月に入ってからは、基本的には常時冷房が入りぱなしである。こうした事情からも、基本的にはあまりマシンの電源は入れたくないというのが正直なところである。

 ただ、さすがに失われると支障のあるデータや環境もあるため、何でもかんでも1台のPCで賄う、というわけにもいかない。必然的に、最低でも作業環境(原稿執筆用のエディタやそのほかのアプリケーション実行する)と実験環境(各種OSやアプリケーションをインストールしてテストする)の2台は必要となる。実際には、自室に設置したルータ・マシンではネットワーク・サービス以外のアプリケーションを実行しないようにしているほか、実験環境は1台では足りないため、やたらと台数が増えていくわけだ。

 この環境で一番問題になるのは、「ファイルの分散」である。PC用のハードディスクは大容量化と低価格化がいまもって進行中であり、どのPCも数十Gbytesの容量を持っている。個人的には、こんなに容量はいらないので、4G〜8Gbytes程度のディスクを数千円程度で買えれば嬉しいのだが、いまや1プラッタで20Gbytesという状況であり、容量が小さいディスク自体が販売されていなかったり、かえって割高についたりしてしまう。というわけで、使いもしない大容量ディスクがあふれかえってしまうことになる。

 こうした状態で、複数のマシンをとっかえひっかえしながら作業すると、各PCのハードディスクにファイルを保存しがちで、ファイルがあちこちのマシンのハードディスクに分散してしまい、探すのが面倒になってくる。さらに、場合によっては「たった1つのファイルを読み出すためだけに、マシンを1台ブートしなくてはならなくなる」ことも珍しくない。マシンのブートにもシャットダウンにもそれなりの時間がかかるため、こうしたことが頻発すると、作業効率が悪いのはもちろんのこと、何より精神衛生上よくないのである。このため、基本的には個々のマシンに搭載されたローカルなディスクにはファイルを置かず、必要な情報はすべてネットワーク上のファイル・サーバに置くようにした。こうしておけば、バックアップもファイル・サーバだけで済む。実験マシンのハードディスクが故障しても、最低限データ・ファイルだけは確保できるというわけだ。

ファイル・サーバの配置

 筆者の環境は、基本的にはWindowsが主体となっている。LinuxやSolarisといったOSも運用しているのだが、台数として一番多いのはやはりWindowsである。ついでにいうと、クライアントはWindows 98 Second Edition(SE)が一番多く、ルータ・マシンだけがWindows 2000 Professionalである。この環境では、Windows 2000 Professionalをファイル・サーバにして、Windows 98SEクライアントから共有するのが一番簡単であり、実際そうした構成になっている。

 基本的に必要なファイルをすべてファイル・サーバに置く、という方針から、ファイル・サーバは常時運転のマシンで実行しないと意味がない。この点からも、ファイル・サーバとなるのは当初2台あったルータ・マシンのいずれかということになる。ネットワーク的な観点からいえば、ファイル・サーバは、当初の構成では「mmx」を選ぶのがよいはずだ。というのも、ファイル・サーバ上のファイルにアクセスするクライアントは基本的に自室内にあり、かつ「mmx」とこれらのクライアント・マシンは100Mbpsのスイッチング・ハブを介して接続されているため、トラフィックの増大にも耐えられる。しかし、「mmx」は全マシンの中でも最も老朽化した低パフォーマンスのマシンであり、「ほかの用途には使えないが、ルータくらいならこれでも十分だろう」という理由で運用されていたマシンだ。内蔵されているハードディスクも古い数Gbytesしかない小容量のもので、とてもファイル・サーバとして安心して使えるものではない。もう1台のルータ・マシン「compaq」は、コンパクト・ケースのマシンとしてリビングに設置するために導入された機種だが、プロセッサはPentium IIIであり、MMX Pentiumの「mmx」とはかなり世代が違っている。ディスク容量も16Gbytesほどで、お古の「mmx」とは比較にならない。

リビングでルータ・マシンとなっていた「compaq」
前回も登場したが、以前はこのようにリビングで、ルータ兼ファイル・サーバとして使われていた「compaq」。ここのルータ機能をHomePNA-イーサネット・ブリッジに置き換え、「compaq」を自室に移動した。

 こうした理由により、当初の構成ではファイル・サーバ機能は「compaq」が行っていた。この構成の問題点は、自室で作業をしている間、常時アクセスされるファイル・サーバが、HomePNA 2.0ネットワーク(10Mbps)を介して接続されていることだ。HomePNA 2.0は決して遅いネットワークではないのだが、さすがに自室内の100BASE-TXのスイッチング・ネットワークには及ばない。実際に利用するうえで「反応が遅い」という実感があったわけでもないのだが、「低速な回線に大トラフィックを載せている」ということがどうにも気に掛かっていたので、リビングの機器構成を変更する過程で「mmx」を引退させ、「compaq」を自室に移動した。これで、ようやく懸案が1つ解消されたことになる。

そのほかのサービス

 ファイル・サーバ以外のサービスとして、プリンタの共有サービスがある。これは、筆者と妻の両方が利用するのだが、やはり使用頻度は筆者のほうが高いので、プリンタ自体は自室に設置してある。そのため、従来は「mmx」に接続して利用していたが、これも「mmx」の引退と「compaq」の移設によって、「compaq」に接続するよう変更した。結果として、基幹サービスのすべてが「compaq」で実行される形となった。

 そして、ファイル・サーバと並ぶ重要なサービスが、メールである。基本的には、ISPが提供するメール・サーバを利用しているのだが、このサーバがPOP3クライアントからのアクセスしか認めていないため、ファイル・サーバと同様に、「メール・ファイルの分散」という問題が生じてしまう。これを多少なりとも改善するためにLAN内にもメール・サーバ環境を用意して統一的なアクセス環境を作っている。次回は、このメール・サーバ環境について紹介する。記事の終わり

 
     
「連載:究極ホーム・ネットワークへの道」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間