ニュース解説
2002 International CESレポート第2弾 塩田紳二 |
2002 International CESに展示されたPDA関連製品に焦点を当てた「ニュース解説:2002 CESに見る最新PDA事情」に続き、2002 International CESをレポートする。CES(Consumer Electronics Show)は、米国で開催される世界最大の家電関係の展示会だが、最近ではコンピュータ関連機器の展示も増えている。インターネット・バブルの末期だった昨年のCESでは、全体的にインターネット関連機器やホーム・サーバといった製品が多く展示されたが、今回はこうした展示が少なく、一部メーカーが展示を行っていただけであった。
2002 CESのホール風景 |
来場者も多く、COMDEXよりも盛況な印象を受ける。また、AV機器関連のブースでは派手なパフォーマンスも演じられている(写真はCESのホームページより) |
松下電器産業やシャープ、東芝、Philipsといった大手家電メーカーのブースがあるメイン会場には、Microsoftもブースを持った。キーノート・スピーチをビル・ゲイツ(Bill Gates)氏が行ったように、最近のMicrosoftは家電市場に対して積極的な姿勢を見せている。特に今回は、家電向けユーザー・インターフェイス「Freestyle(フリースタイル)」や、Windows CE .NETをベースにした機器として「Mira(ミラ)」などの発表を行った。Miraは、Windows CE .NETを採用した家電/アプライアンス機器で、ネットワークを介してサーバ上のコンテンツ・データなどの再生を行うものだ。Miraのユーザー・インターフェイスには、Freestyleが採用され、IEEE 802.11とWindows Terminalプロトコルによりサーバ側の制御画面を表示できる。Microsoftのブースには、Miraに対応した製品が参考出品されていた。また、家電化しつつあるPocket PCを採用した各種PDAも展示されていた(→ 展示製品の写真一覧へ)。
無線LANが2002年の流行?
米国では、インターネット・バブルの崩壊からADSLプロバイダが倒産するなど、ブロードバンドは逆風の状態にあるが、それでも各社からブロードバンド・ルータなどが出品された。全体として、無線LAN対応ブロードバンド・ルータが流行のようで、多くのベンダが製品を出品していた。イーサネット・ケーブルの敷設をせずに容易にインターネットに接続できる無線LAN対応ブロードバンド・ルータが米国でも支持されていることの表れかもしれない。そのため日本国内でも著名なLinkSys社も、多数の機器を展示しており(ただし、同社の製品はほとんど同一デザインなので同じものが多数あるように見える)、その多くがルータに無線LANのアクセス・ポイント機能を内蔵したり、背面にPCカード・スロットを装備して無線LANへの拡張を可能にしたりしていた。
また、2001年末に各社から製品出荷が始まった5GHzの周波数帯を利用する高速無線LAN規格のIEEE 802.11aに対応したものも参考出展されていた。現在のブロードバンド・インターネット接続では、数Mbits/sのスループットがあり、最大で11Mbits/sで実効2M〜4Mbits/sしかないIEEE 802.11bでは能力不足になる。そこでより高速な規格として最大54Mbits/sのIEEE 802.11aが注目されているが、周波数帯や方式が異なるため、従来のIEEE 802.11bの機器とは直接通信ができない。これに対し、IEEE 802.11bと互換性を持たせやすいように同じ2.4GHzの周波数帯を使うIEEE 802.11g(ただし、通信方式を変えて最大54Mbits/sを実現)が最近、IEEEで暫定承認されたことから、近々製品が出荷される予定だ。普及しつつあるIEEE 802.11bと互換性があるIEEE 802.11gが主流になるのか、すでに一部ベンダから製品の出荷が始まっているIEEE 802.11aが標準になるのか、2002年は無線LAN市場が注目だ。2002 International CESでも両規格の製品が各社から展示され、盛り上がりを見せていた。
UPnPが注目
もう一つのトレンドとして、ブロードバンド・ルータのUPnP(Universal Plug and Play)対応がある。これはWindows XPが、UPnPを介してブロードバンド・ルータのファイアウォール機能を制御できるようになったことから、セキュリティを保ちつつ、Windows Messengerの音声通信などが利用できるようになるものだ。ただ現状、UPnP対応の機器は、広く販売されるには至っていない。Intelの「AnyPoint Network Gateway Model 1300」がUPnP Forumの検証をパスしたのと、LinkSysが2002 International CESで展示を行った程度である。
ただ、今後、さまざまに複雑なプロトコルが登場することを考えると、現在広く使われているNAT機能との食い違いが生じる可能性が高い。現状でも一部のゲーム用プロトコルなどがパケット中にポート番号を含むなどしているため、NATを介した接続ができないことがある。これを解決する方法の1つが、UPnPを使ってブロードバンド・ルータを制御し、必要なプロトコルに対しては外部からの接続を許可する方法である。これは、クライアントPCのOS対応が必要だが、Windows XPはすでにUPnPに対応している。あとは、対応ブロードバンド・ルータが登場すれば、セキュリティを保ったまま、Windows Messengerの音声チャット機能(一意に定まらないポートを利用する)などが利用できるわけだが、その登場はこれからのようである。
そのほか注目の製品として、電灯線を使ったネットワーク(PowerLine)なども米国では製品が登場しつつある。日本と違い、電灯線の取り扱いに関する法的な規制が緩く、高速なデータ通信が実現可能なためだ。イーサネットとの変換アダプタやUSB接続アダプタなど、電灯線経由でPCと接続するための機器が出展されていた(電灯線や電力線を使用したネットワークの詳細については、「ニュース解説:電力線でインターネット接続が可能になる日」を参照していただきたい)。
Bluetoothは、以前より話題になっていたが、ここにきて、ようやくPDAなどに搭載されるようになり、普及の兆しが見えてきた。2002 International CESでは、Bluetooth関連の展示もあったが、まだデバイスやインターフェイス・カードなどが中心だ。Compaqは、新しいPocketPC「iPAQ」の上位機種に標準で内蔵させているほか、PalmはSDカード型のBluetoothアダプタ(製造は東芝だという)を出荷する予定である。
ホーム・サーバ市場は立ち上がるか?
今回、ホーム・サーバと呼ばれる範囲の機器を展示したのは、パイオニアとSamsung Electronicsのみであった。パイオニアは、一昨年ぐらいからホーム・サーバの展示を行っているが、今回はビデオ・レコーダ程度の大きさのサーバ本体と、各部屋から操作を行うクライアント・ノードなどを展示した。またSamsung Electronicsは、Windows XPの動作するサーバやクライアントPC上で、MicrosoftのFreestyleをデモしていた。ただし現状は、いま出荷されているWindows XP上で動作するアプリケーションとしてFreestyleが動作しているだけで、製品化までにはまだまだ時間がかかりそうな感じがした。なお、説明員の話によるとFreestyleは、Windows XPのコンポーネントという位置付けになり、赤外線リモコンを使うための仕様を策定する予定だという。
また、Microsoftは米国で衛星放送用セットトップボックスにハードディスク録画機能を統合した「UltimateTV」を出荷している(ただし、セットトップボックスはハードウェア・ベンダが製造し、DirecTVサービス用として販売されている)。これは、Windows CEをベースにしたセットトップボックスで、衛星放送テレビ受信機能にEPG(電子番組表)機能とデジタル・ビデオ録画機能を統合したものだ。もちろん、デジタル・ビデオ録画機能を使って放送中に表示を一時停止したり、リプレイしたりする機能も装備されている。かつてPC用としてMicrosoftが考えていたデジタル・テレビ技術は、結局こういう形で家庭に入り込むようである。
Freestyleには、EPGやデジタル・ビデオ録画制御といった機能があり、ある意味、このUltimateTVの機能をPCに取り込んだものになっている。また、このようなサーバに画像や音声などを格納した後、それを離れた部屋から操作するための端末としてMiraを活用する予定だ。つまり、Windows CE .NETを使うことで、イーサネットや無線LANといったネットワークを介してPC用、PocketPC用のさまざまなデバイスが利用できるようになる。リビングにPCを置かせるというMicrosoftの計画は実現しなかったが、今度は家庭内のPCをホーム・サーバとして利用し、リビングなどにはWindows CE .NETを採用した家電製品やMiraなどを置かせるという方向に転換したようである。
「ニュース解説:2002 CESに見る最新PDA事情」と今回の2回にわたって、2002 International CESを見てきた。家電というとテレビやビデオ、オーディオというイメージが強いが、最近では何らかの形でコンピュータと関連するものとなっている。そして、それらはネットワークに接続されることが前提となりつつある。これらネットワーク家電といわれる分野に採用される技術は、家庭でも簡単にネットワーク接続が可能になるように各種の工夫が行われている。その結果、むしろオフィスで使われるネットワーク機器よりも進んだ技術を採用しているのだ。2002 International CESでいくつかの参考出品があったUPnP対応機器なども、将来的にはオフィスに入ってくることになるのかもしれない。
2002 CESに展示された主なネットワーク関連製品 (各写真はクリックで拡大) | |||
USBに直接接続できるBluetoothアダプタ。AmazingTechの「B09H1」。Bluetooth自体は、Windows XPが今年中にアップデートで対応する予定といった具合で、OS環境が整っていないこともあり、いまいちの感があるが、ようやくPDAやノートPCに搭載され始め、普及の兆しが見える。 | LinkSys社のIEEE 802.11g対応のブロードバンド・ルータ「WAP54」。ブロードバンド対応ということで、IEEE 802.11bよりも高速な無線LANが登場しつつある。なお、ブロードバンド・ルータに無線LANカードを装着することで、無線アクセス・ポイントとなる機種もある。 | 電灯線経由で接続を行うためのLinkSys社製イーサネット・ブリッジ・アダプタ「PLEBR10」。既存のイーサネットをそのまま電灯線に接続できる。このほか、電灯線用ネットワーク・アダプタ(USB接続)やルータなども製品化されている。 | 松下電器産業のワイヤレス監視カメラ。IEEE 802.11bで接続を行う。監視カメラのように配線が面倒なものはワイヤレス化の傾向にあるが、IEEE 802.11bのチップセットがPCでの普及により安価になってきたため、こうした製品が登場しやすくなったようだ。 |
Microsoftが開発中の家電向けインターフェイス「Freestyle」の画面。これはEPG(電子番組表)を使って、テレビの選局を行っているところ。このような家電の操作(テレビ選局やオーディオ再生など)のための基本部分が最初から組み込まれている。操作は、カーソル・キーの付いた赤外線リモコンなどで行えるようになっている。実際には、Windows XP上で動作している。 | LinkSys社が出荷予定のUPnP対応ブロードバンド・ルータ。Windows XPが装備するUPnP機能に対応して、Windows Messengerの音声チャットなどで必要なポートの制御が可能だという。 | Bluetoothで接続する煙探知機やガス・センサ。やはり無線を使うことで配線を簡略化でき、PCなどと組み合わせてシステムを構築する。ホーム・サーバ時代には、こういう「周辺装置」も必須になってくるだろう。 | Samsung Electronicsのホーム・サーバ(写真右のアクリル・ケースに入ったマシン)によるMicrosoft Freestyleのデモ。ホーム・サーバの用途の1つは、デジタル化されたテレビ録画や音楽を格納し、それを家庭内の機器に配信すること。Freestyleはそのためのインターフェイスであり、Miraを使うことで、離れた部屋からサーバを制御できる。 |
DirecTVサービス対応のハードディスク録画を行える「UltimateTV」。これはソニーが製造しているもの。従来の衛星放送テレビのセットトップボックスにハードディスクによるデジタル・ビデオ録画機能を組み込んだもので、制御にWindows CEが使われている。 | 日本電気が試作したAVデータ・サーバ。Windows CEを採用しているという。ただし、これはガラス・ケースの中にあり、動作しているところは見ることができなかった。 | パイオニアが開発中のホーム・サーバ「AV NET SERVER NA-1000S」。ここにMP3やMPEG-1/2データなどを格納し、各部屋に置いたクライアント(AV NET CLIENT)で再生を行う。その間は無線LANやイーサネットで接続する。また、インターネット・ゲートウェイとしての機能も持つ。 | |
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第10回 無線LANの導入でリビングをワイヤレス化 | |
電力線でインターネット接続が可能になる日 |
関連リンク | |
2002 International CESに関するニュースリリース | |
FreestyleとMiraに関するニュースリリース |
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