ニュース解説

変貌する2001年のノートPC
―薄型・軽量、そして低価格。デストップPCの熾烈なコストパフォーマンス競争は、舞台をノートPCに変える―

小林章彦
2001/02/09

 2001年1月31日、インテルがかねてより予告していた「超低消費電力版Pentium III-500MHz/Celeron-500MHz」が発表された(インテルの超低消費電力マイクロプロセッサ発表のニュースリリース)。この発表に先立つ2001年1月15日には、AMDがノートPC向けのプロセッサ「モバイルAMD Duron-700MHz/600MHz」を出荷、日本電気の個人向けノートPC「LaVie U」に同プロセッサ(700MHz)が採用されたと発表している。

 ここ数年のノートPC市場を振り返ると、プロセッサについては、エントリ・ノートPCの一部でAMDのAMD K6-2シリーズが採用される例はあったものの、ほぼインテルの独占状態にあった。しかし、この状況は今年一変する。AMDは、2001年第2四半期中に、Duronに続けてAthlonのノートPC版を出荷する予定である(モバイルDuronにも、さらに消費電力を低減したバージョンが投入される)。またTransmetaは、2001年後半にCrusoeの性能を向上させたバージョンを投入するという。このように各社からノートPC向け新型プロセッサが投入されるとともに、液晶ディスプレイの低価格化などによって、2001年のノートPCは大きく様変わりしそうだ。ここでは2001年のノートPCについて、予測を織り交ぜながら、動向を検討してみよう。

ノートPC用プロセッサの動向

 前述のようにインテル、AMD、TransmetaからノートPC用の低消費電力と高性能の両立を目指したプロセッサが登場する。ここ数年のプロセッサは、その高速化に伴い、消費電力と発熱量が増大し、特に薄型のノートPCに実装することが技術的に難しい状態が続いていた。インテルが2000年6月20日に発表した「SpeedStepテクノロジ対応低電圧版モバイルPentium III-600MHz」と「低電圧版モバイルCeleron-500MHz」、TransmetaのCrusoeシリーズは、消費電力と発熱の障害を取り除くものとして期待されている(インテルの低消費電力プロセッサに関するリリース)。

 しかし、世界規模で見ると、思ったよりも薄型ノートPCの市場は盛り上がっていない。これは、ノートPC自体の市場規模が小さいことも1つの要因といえる。日本のノートPC市場は、全PC出荷量の50%(約600万台)を超える大きな市場だが、世界的にみると15%程度(このうちの25%は日本)しかない市場だ。とはいえ、米国市場では徐々にではあるが、2台目、3台目用途としてノートPCの需要が伸び始めている。2000年に入ってから、インテルがノートPC用プロセッサに力を入れ始めたのは、Transmetaの影響がないとはいえないが、このように市場が拡大しつつあるという背景もある。

■ノートPC向けプロセッサのロードマップ

 インテルは、2001年夏頃に最新の0.13μmプロセスで製造したモバイルPentium IIIを出荷する。0.13μmプロセスの採用で、低消費電力かつ高性能なプロセッサになるはずだ。一方のAMDは、2001年第2四半期中に0.18μmプロセス製造ながら、省電力技術「PowerNow!テクノロジ」を採用し、消費電力低減のためのチューニングを施した開発コード名「Palomino(パロミノ)」で呼ばれるモバイルAthlonと、「Morgan(モーガン)」と呼ばれるモバイルDuronをリリースする。Morganは、現在のモバイルDuronと同じ製造プロセスながら、より低い消費電力を実現しているという。さらに2002年第2四半期には、開発コード名「Thoroughbred(サラブレッド)」と呼ばれる0.13μmプロセスを採用したモバイルAthlonと、「Appaloosa(アパルーサ)」と呼ばれるモバイルDuronが待っている(AMDのプロセッサ・ロードマップについては、「ロードマップ:AMDのプロセッサ ロードマップ(2000年11月版)」を参照)。

大きな図版へ
AMDの2002年上半期までのロードマップ(「Annual Analyst Meeting」のプレゼンテーション資料から)
図中のAthlonおよびDuronのキャッシュ容量は、128Kbytesの1次キャッシュに2次キャッシュを合計したもの。

 つまり、2000年にデスクトップPC市場で繰り広げられたインテルとAMDの性能競争が、2001年にはノートPC市場に舞台を変え、低消費電力と性能の両面で再び争われることになる。その結果、ノートPC用プロセッサの高性能化と低消費電力化、低価格化が大きく進むと予想される。

ノートPCの価格は液晶パネルが握る

 これに比べてノートPCの価格は、以前に比べて下がりつつあるとはいえ、ボリューム・ゾーンは未だにメーカーの希望小売価格で30万円以上、実売価格で25万円以上と高い。ノートPCが高価になるのは、プロセッサや液晶ディスプレイ、バッテリ、ハードディスクなど、ノートPC専用もしくは特有のデバイスが必要で、これらのコストが高いからだ。

 たとえばプロセッサは、ノートPC向けに消費電力(発熱)の低減を追求する必要があるため、デスクトップ向けに比較すると価格が高くなる。インテルが公表している価格表(2001年1月28日付け)で比較すると、Pentium III-800MHzの場合、デスクトップPC向けが183ドルなのに対し、ノートPC向けでは348ドルと2倍近い価格になっている。同様にハードディスクにしても、秋葉原のPCパーツ販売店での実売価格で比較すると、容量が20Gbytesなら、デスクトップPC用の3.5インチ・ディスクは1万3000円前後なのに対し、ノートPC用の2.5インチ・ディスクは2万円を超えてしまう。また、ノートPC固有のパーツであるバッテリにしても、メーカーのオプション価格を参照すると、多くが2万円を超えている。さらに液晶パネルの価格も、現在主流の13.3インチ・クラスのXGA表示のTFT液晶では、1999年の調査では平均で515ドル(DisplaySearch社調べ)と、プロセッサよりも高価であった(DisplaySearchの液晶パネルに関する調査)。

 こうした高額パーツの価格の積み重ねが、最終的なノートPCの製品価格に反映されているわけだ。また、前述のように世界規模で見た市場が小さく、デスクトップPCに比べてベンダ間の価格競争が起きにくいのも、要因の1つに挙げられる。

■2001年はノートPC向けパーツの低価格化が焦点に

 ただ、こうした状況も少しずつ変わりつつある。前述のようにノートPC用のプロセッサについては、AMDの本格的な参入やTransmetaの動向によって、価格が大きく下がってくることが予想できる。またハードディスクは、3.5インチ・ディスクで繰り広げられている性能・価格競争が2.5インチに波及しそうな勢いがあり、低価格化が期待できる。

 そして、ノートPCの価格に最も大きな影響を与える液晶パネルの価格も低下しつつある。すでに13.3インチ・クラスでは、1999年の515ドルから、2000年末には平均364ドルにまで値下がりした。2001年に販売されるノートPCでは、このように安価になってきた液晶パネルが採用されことになる。さらに、これまで日本ベンダのシェアが高かった液晶パネル市場にも、変化が現れている。すでに韓国と台湾の液晶パネル・ベンダの製造ラインが本格的に稼働し始めており、これらのベンダの参入によって急激な液晶パネルの低価格化が進むという予想もある。特に多くのノートPCで採用されている13.3インチや14.1インチ・サイズの液晶パネルについては、すでに供給過剰気味ともいわれており、価格の引き下げ要因となっている。

 このようなパーツの低価格化が、2001年のノートPC全体の価格に大きく影響することは間違いない。大胆にノートPCの価格を予想すると表のようになる。

クラス 2000年 2001年
エントリ 15万円 12万円
バリュー 20万円 16万円
ハイエンド 30万円 25万円
ノートPCの予想価格
2000年の第3四半期における各クラスの平均実売価格を想定すると、2001年の第3四半期の価格は概ねこのようになるだろう。エントリ・クラスでは実売価格で10万円を切ったものが、大手ベンダからも発売されるようになるはずだ。

薄型・軽量ノートPCは流行するか?

 ノートPCの低価格化とともに、ノートPCの薄型・軽量化が2001年の流行になりそうだ。プロセッサの低消費電力化によって、薄型にしても発熱の問題が解決できることに加え、液晶パネルの薄型・軽量化も進んでいることから、薄型・軽量のノートPCが設計できるようになったためだ。特に日本市場では、薄型・軽量のノートPCは人気が高いことから、各PCベンダがこの方向で製品開発を行うのは間違いないだろう。

日本IBMのサブノートPC「ThinkPad i Series 1124」
超低消費電力版Pentium III-500MHzを搭載し、オプションの「Full Dayバッテリー」を使うことで、7.5時間のバッテリ駆動が可能である。2001年はこのクラスのノートPCも各社から登場するものと思われる。

 また、より小型・軽量なサブノートPCは、Crusoe搭載機を除けば、このところ新製品がほとんどなく盛り上がりに欠けていたが、2001年には各PCベンダから発表されそうだ。すでに日本IBMは、高性能と長時間のバッテリ駆動をともに実現したサブノートPC「ThinkPad i Series 1124」を2001年1月31日に発表している。2001年夏に予定されている次世代携帯電話の登場により、携帯電話のデータ通信速度が向上することで、外出先でインターネットやe-Businessへのアクセスがいままで以上に一般的に行われるようになるはずだ。そこで、モバイルPCが流行することが予想される。その結果、このクラスのノートPCがこれから盛り上がるのは間違いないだろう。

 2001年のノートPCのキーワードは、低価格化と薄型・軽量化である。ここで挙げた予想のように低価格化が進み、薄型・軽量の魅力的なノートPCが数多く登場することに期待したい。記事の終わり

  関連記事
AMD PowerNow!テクノロジ
ロードマップ
AMDのプロセッサ ロードマップ(2000年11月版)

  関連リンク
超低消費電力マイクロプロセッサ発表のニュースリリース
低消費電力プロセッサに関するリリース
液晶パネルに関する調査
ThinkPad i Series 1124の製品情報ページ

「PC Insiderのニュース解説」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間