「猫に小判」的なPC組み立て記

渡邉利和
2001/05/08

 プロセッサの高速化が加速している。1つの壁と思われていた1GHzにAMD、Intelが相次いで到達してから早くも1年が過ぎた。現在ではIntelがPentium 4の動作クロック1.7GHzを大幅な値下げを行ったうえで市場投入している。もう、2GHzも目前である(Intelは、夏明けにもPentium 4-2GHzを出荷するらしい)。

 一方で最近は、プロセッサの高クロック化の「ありがたみ」が以前よりも下がっているようにも感じられる。例えば、Pentium 4では1.7GHz版投入以前の最高クロックは1.5GHzで、その差は0.2GHzである。これを、単位をMHzに換算してみると、1500MHzから1700MHzに増加したことになる。その差は200MHzである。最高クロック数が1GHzに到達する以前であれば、200MHz増えたら大変な高速化に思えたものだが、「1.5GHzが1.7GHzになった」と聞いても、「たった0.2GHzだからそう気にしなくても」という気がしてしまうのが不思議なところだ。これはMHzからGHzへの単位が変わったことによるトリックでもあるのだが、何となく損した気分がする。もっとも、増分をパーセンテージで見てみると、1.5GHzから1.7GHzへの増加は約113%、同じ比率を例えば500MHzに適用してみると約565MHzということになる。分母の動作クロックが上がったことで、200MHzのクロック向上も比率としてみればそう大きな増加でないのは確かに間違ってはいないようだ。

きっかけはグラフィックス・カードの故障

 私事であるが、最近新しいPCを組み立ててみた。これまで、筆者が所有するPCの最高クロックは、2000年3月上旬に購入したPentium III-800EB MHzというプロセッサのものだった。実のところ、筆者にとってはパフォーマンス上、これで特に問題はなく、不足を感じなかったため、これまでこの環境で満足していた。しかし、内心では「1GHz以上のクロックのマシンも1台くらいは持っておきたい」と思っていたのも確か。必要かどうかというよりも、単なる根拠のないブランド志向のようなものではある。根拠が薄弱な分だけ動機も弱く、これまでは単に何となく思っている程度のことで実行に移すことはなかった。

 ところが、4月上旬になって、テスト機として利用しているAthlon-650MHz機のグラフィックス・カードが故障してしまった。実はこのときテスト作業の最中であったこともあり、急きょ代用のグラフィックス・カードを調達することになった。急だったこともあり、よく調べもせずに近くの量販店に出かけて、手ごろと思われるカードを適当に購入してきたのだ。筆者は、最近の3Dグラフィックスを多用したゲームにはまるで縁がなかったのでよく知りもしなかったが、最近はグラフィックス・カードといえばNVIDIAのGeForceシリーズを使ったものが一般的になっているようだ。筆者がろくに知りもしないで急いで購入した製品も、GeForceを搭載したものだった。もちろん、秋葉原のPCパーツ・ショップとは異なり、品ぞろえが多岐にわたっている店でもなかったので、こうした比較的人気のあるパーツしか置かれていなかった、という事情もある。もちろんこれで何の問題もなく、当座の用は無事にしのぐことができた。

 そして、落ち着いてからよく確認してみると、実はこのグラフィックス・カードはAGP 4xモードをサポートしている。もちろん、これは不都合なことではない。が、筆者がこのカードを装着したAthlon-650MHz搭載PCのマザーボードは古く、AGP 2xモードのサポートもあやしいものであった。急いでいたとはいえ、何とも無駄な「猫に小判」状態である。というわけで、この機会にAGP 4xモードをサポートしたマザーボードに交換しようかと思ったついでに、1GHz超のプロセッサを導入してみることにした。そこで、新しいPCの組み立てが始まることになった(正直にいえば、「グラフィックス・カードが猫に小判」というのは言い訳にすぎない。単に1GHzを超えたプロセッサが欲しかったのだ)。

本末転倒のPC組み立ての始まり

 グラフィックス・カードを生かすためにPCを組み立てる、というのも本末転倒な話だが、しばらくこうした作業から遠ざかっていたため、ずいぶんと事情が変化しているのに少々驚いてしまった。まず、プロセッサの世代が変わっており、それに伴いマザーボードも変わっている。さらに、メモリもずいぶん新しくなっているのだ。Athlon-650MHz搭載PCのプロセッサはSlot A対応のカートリッジ型パッケージだったのだが、秋葉原のパーツ屋を数件回ってみても、すでにSlot AのAthlonは販売していない。Slot A対応マザーボードだけは数種類見かけたのだが、マザーボードだけを交換してAGP 4xモードに対応させるのではつまらない。一方で、最近の1GHzを超えるAthlonはSocket A対応であることはともかく、メモリもDDR SDRAMを要求するものが多いようだ(もちろん、これはマザーボードによって多少変わるが)。というわけで、アップグレードするにはプロセッサとマザーボードとメモリを新規購入して入れ替えるという話になる。さらに、実は電源にも注文がつけられているようで、「AMD推奨の電源ユニットを使え」と指示されている。

 Athlon-650MHz搭載PCのケースは、その昔、Gateway 2000(現社名はGateway)のPentium Proマシンであったものの流用である。このケースは古いうえに巨大で重く、実験用途に頻繁にパーツを組み替えながら利用するには不便なことこの上ないし、当然電源もAMD推奨も何もあったものではない。そんなこんなで、1GHz超のAthlon搭載PCを組み立てようと思うと、手持ちのパーツで流用が利くのは、ハードディスク、フロッピーディスク、CD-ROM/DVD-ROMドライブといったストレージ関係だけなのである。何とまぁ、ここに至ってさすがにアップグレードはあきらめ、新規マシンの追加、という方針に転じたのだった。

 実際に購入したのは、バルク品のAthlon-1.2GHz版(FSB 266MHz)である。これに、DDR SDRAMのPC2100メモリを256Mbytes分購入した。筆者が購入したマザーボードには、DDR SDRAM用のソケットが2本しかないため、256Mbytesのメモリ・モジュールを1枚購入し、後で512Mbytesに拡張できる余地を確保しておきたかったのだが、購入時点では256MbytesのDDR SDRAMは店頭で見つけられなかった。仕方なく、128Mbytes×2という構成になった。プロセッサも、「できれば1.33GHzを」と思っていたのだが、これも回った店すべてで売り切れだったため、あきらめることにした。

気が付けばプロセッサ/マザーボード/メモリの3点を交換

壊れたPentium Proのマザーボード
いまさら使い道はないが、何となく捨てるに忍びなく残してあるPentium Proとマザーボード。いま見ると、USBもAGPもなく、実にシンプルな構成だった。マザーボードのBIOSを復元できればまだ使えるのだが、もちろんいまさらそうまでして使う価値はない。Socket 8にセットされたPentium Proは巨大だが、それでもヒートシンクのみでファンが付いていないところが、まだのどかだった時代を思い出させてくれる。

 時々PCを組み立てたり、場合によってはオンラインのBTOで適当な仕様のマシンを購入したりする筆者だが、主たる実験マシンとして利用しているPCの系列を追ってみると、アップグレードの機会がほとんどなく、基本的には買い替えの連続であった。Socket 7でMMX Pentiumなどを利用していたころには、プロセッサだけを交換する機会もあったのだが、これはもう昔話のようだ。

 いまの実験マシンの系列を時間軸に沿って追ってみると、まずはPentium Pro-200MHzから始まる。このときは、メモリも72ピンのSIMMだった。このマシンはオペレーション・ミスでBIOSを飛ばして*1しまい、起動不能に陥ってしまった。そこで、ケースとストレージ関係だけを流用して、Athlon-650MHzに組み替えた。ここで、メモリはPC100のDIMMに変わり、プロセッサはSlot A対応に変わった。次に、今回のAthlon-1.2GHzではプロセッサはSocket A対応で、メモリはDDR SDRAMである。


*1 「BIOSを飛ばす」とは、BIOSのコードが記録されているフラッシュメモリの内容を、不正に消去または書き換えてしまったということ。BIOSコードが書き変わった結果、マシンが起動しなくなるため、基本的にはメーカーで修理しなければ回復しない。

 この実験マシンの系列のほかに実作業マシン(つまり原稿執筆マシン)の系列があるのだが、こちらはMMX Pentium-200MHz(後に233MHzにアップグレード)というものが1台。これはメモリが72ピンSIMMで、Socket 7対応である。後に追加交換した現在使っているマシンは、Pentium III-800EB MHz、Slot 1でPC133 DIMMを使っている。また、IPルータとして利用しているコンパックの省スペース・デスクトップPCは、中身をいじる気がないのであまり気にしていないが、確かSocketタイプのPentium IIIを使っているはずだ。Socket/Slotとメモリの展覧会みたいな状況になってしまっている。

 というわけで、筆者の選択が悪いという話もあるが、実のところプロセッサを新しいものにするたびに、プロセッサの取り付け方法や利用するメモリの規格が変わってしまっており、結果としてプロセッサ/マザーボード/メモリの3点セットで丸ごと入れ替えを余儀なくされているのだ。

プロセッサの性能向上が一括交換を要求する

 これほどさまざまな規格が現れては消えるのも、どうもプロセッサの性能が突出しており、しかもその進歩が急激であるためと思われる。コンピュータを構成するには、プロセッサだけがあればよいわけではなく、メモリやデータ・バスなどと組み合わせるわけだ。そのためのベースとなるのがマザーボードである。Socket 7のころは、マザーボードの性能(?)に余裕があり、プロセッサを交換してもマザーボードの側は手を加えなくてもそこそこ対応できていたが、最近ではそうはいかなくなったのが、やたら規格が切り替わる理由だろう。コンピュータ全体のバランスから見ると、データ・バスやメモリ・バスに余裕があり、プロセッサの処理を待つくらいの方が、設計は安定して熟成も進むし、プロセッサの能力を十分に引き出せてよいように思う。しかし、現状ではとにかくプロセッサだけが猛烈に能力向上を果たしているため、周辺が必死になってプロセッサを追いかけているという状況のようだ。特にメモリは、プロセッサの能力向上を無駄なものにしないために何としても帯域幅を拡大しなければならない。このおかげで、DDR SDRAMやDirect RDRAMといった新しい規格が市場に投入され、値下がりする間もなく、新しいものに置き換えられていく、という状況を生んでいるのではないだろうか。1世代のPCごとにメモリ・モジュールを使い捨てにしていくのは、何とももったいない話に思えるが、それはプロセッサを単体で強化しても周辺に影響を与えるほどではなかった、まだプロセッサが低速だった時代の牧歌的な状況と考えるべきなのだろうか。

 もちろん、プロセッサとマザーボード、メモリ・モジュールなどを独立に提供し、ユーザーが組み合わせてコンピュータ・システムを構成する、というのはPC固有の文化というべきものだ。IAアーキテクチャを採用するPC以外のコンピュータでは、こうしたコンポーネント単位での入れ替えや組み合わせ変更というのは、基本的にユーザーが行う作業ではない。本来は、全体で1つのシステムとしてメーカーが最適な設計を行い、個別に変更しない方が一定の性能を維持するうえでは有利なはずだからだ。例えば、自動車を考えてみてもそうだ。自動車では、エンジンがプロセッサに相当するが、エンジンと車体の組み合わせは何でも自由になるわけではない。サイズや必要となる強度をきちんと設計し、最適な組み合わせを決定して製品化される。エンジンだけを強化しても車体が付いていかなければ単にバランスが崩れるだけの結果に終わる。

 従来はPCのプロセッサ性能は相対的に貧弱であったため、周辺パーツにはプロセッサの載せ替えに対応できる余力があったのだろう。ところが、プロセッサ性能がこれだけ上がってしまうと、もはやそのような余力はなく、プロセッサと組み合わせることができるパーツの種類が極めて限定され、特殊化していくのではないだろうか。もはやPC関連のパーツ類も、汎用性よりも性能優先で考える必要があるのかもしれない。だとすると、「Socket 7のマザーボードに72ピンSIMMを載せておけばしばらくは大丈夫」的な定番構成は、今後はもう期待できず、プロセッサ単体でのグレードアップは基本的には想定されない状況になるだろう。そして、こんなところからもPCのアプライアンス化の流れが強化されるような気もする。

高速なPCの恩恵を受けるアプリケーションがない

 さて、最後に筆者が新しく追加した新実験機Athlon-1.2GHzの現状をご報告しておこう。実際使ってみると、確かに速かった。もちろん、この機会にハードディスクもUltra DMA/100のものに交換したのも効いているような気がする。ケースは、Pentium 4対応かつAMD推奨、という電源を載せた新しいものだが、この電源ユニットが小さく軽くなっているのに驚いた。定格出力は300Wで、能力的には以前に使っていたものとあまり変わらないのだが、Pentium Pro時代の電源に比べて体積で約6割、重量で約5割くらいになっているような気がする(持ち上げた感触での話だ)。最近の流行なのか、ケースの前面にUSBポートが付いているのも便利だった。というわけで、プロセッサのみならず、全体として実験マシンとしての利用環境は予想以上に改善され、その点では満足度は高かった。唯一の問題は、この性能を生かすアプリケーションが3Dゲーム程度しか思い付かず、結果的にはPCが丸ごと1台「猫に小判」状態に陥ってしまったことだ。記事の終わり


「Opinion:渡邉利和」


渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp

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