連載

PCの理想と現実

第4回 USBの建前と本音、IEEE 1394の理想と現実?
1. USBの建前と本音

元麻布春男
2000/07/18

 2000年4月、USB 2.0の正式規格がついにリリースされた。USB 2.0は、現行のUSB 1.1との互換性を維持しながら、最大データ転送速度を480Mbits/sまで引き上げたものだ。USB 1.1の最大12Mbits/sに比べ、最大データ転送速度は40倍になる。

 このUSBの高速化で、微妙な関係になりそうなのがIEEE 1394だ。USBの最大データ転送速度が12Mbits/sであれば、100Mbits/s〜400Mbits/s(IEEE 1394-1995)の最大データ転送速度を誇るIEEE 1394とは、用途やデバイスにより棲み分ける、という説明は説得力を持っていた。マウスやキーボードのような低速・低価格のデバイスはUSB、ハードディスクに代表される高性能ストレージ デバイスや動画データを扱うAV機器はIEEE 1394というシナリオだ。

規格名
転送レート
USB 1.1
12Mbits/s
USB 2.0
480Mbits/s
IEEE 1394-1995
400Mbits/s
USBとIEEE 1394の最大データ転送速度

 しかし、USBのデータ転送速度が480Mbits/sに引き上げられると、話が大幅に変ってくる。これだけのデータ転送速度があれば、動画データを扱うことは十分可能だし、ストレージ デバイスの接続に対する適性も向上するからだ。

 そもそもUSB 1.xがリリースされたとき、最大データ転送速度が12Mbits/sどまりであることからも、ストレージ デバイスの接続はUSBアプリケーションの本命とは考えられていなかった。スキャナやプリンタといった静止画を扱うアプリケーション、キーボード/マウス/ジョイスティックなどの入力デバイス(HID:Human Interface Device)が本命で、Windowsなどのデバイス サポートも、それを意識していた。ただ、この時点においてもインターフェイスの使い勝手のよさから、USB接続CD-ROMドライブの登場は予見されており、その登場を(促進しないまでも)妨げるつもりはない、と明言されていた。

デバイスや用途
必要となる転送レート
備考  
テレビ会議用カメラ
75M〜150Mbits/s
MPEG-2程度の画質を持つ非圧縮の動画像に対応
イメージ スキャナ
50M〜100Mbits/s
今後の高解像度/多色の画像取り込みに対応
プリンタ
50M〜100Mbits/s
今後の高解像度/多色の画像印刷に対応
外部ストレージ デバイス
20M〜400Mbits/s
ハードディスクやCD-R/MO/ZIPなどのリムーバブル ディスクなど
ネットワーク
10M〜100Mbits/s
100BASE-TXイーサネットやADSL/CATVインターネット接続、無線LANなど
周辺機器にとって望ましいインターフェイス部分の転送速度

USB 1.1の利用形態

 当初は、一般には提供されないOSRのみでのサポート(Windows 95 OSR 2.1)など、ソフトウェア サポートの不備により、つまずいたUSBだが、Windows 98がリリースされてからは、ソフトウェア サポートの問題が解消された。対応する周辺機器が爆発的にリリースされ、あっという間に普及してしまった。それも、当初の想定を超え、ストレージ デバイスのインターフェイスとしても、非常にポピュラーなものとなっている。

 USBインターフェイスを用いたストレージで、最も普及しているものは、おそらくスマート メディアやコンパクト フラッシュ(CompactFlash)といった、フラッシュATAデバイスのリーダーだろう。デジタル カメラに採用されたことで急速に普及したフラッシュATAデバイスを読み取るためのリーダーは、当初はパラレル ポートやSCSIに対応したものが主流であったが、USB対応製品が登場するや否や、アッという間に主流はUSB対応製品へと切り替わった。

 フラッシュATAデバイスは、その主な用途がデジタル カメラで撮影したデータの保存とデータ交換であることもあって、見方を変えればストレージ デバイスではなく、静止画イメージデバイス(つまりはスキャナの同類)という見方もできなくはない。USBの当初の想定を逸脱していないという見方だ。しかし、USBを用いたストレージ デバイスは、フラッシュATAリーダーやCD-ROMドライブにとどまらず、CD-R/RWドライブ、MOドライブ、さらにはハードディスクまで登場してきた。こうした高速ストレージ デバイスにUSBを用いた場合、性能面での制約は免れ得ない(CD-Rは4倍速まで、ハードディスクは本来の性能を発揮できないなど)。それでも製品がリリースされ、ある程度売れているのは、やはり使い勝手のよさと、新しいPCであればどんなPCであってもUSBを備えている、という安心感があるからだろう。Windows 2000やWindows Meでは、ついにUSB 1.1対応のストレージ デバイスさえOSの標準サポートとなった。

USB 2.0ではストレージ デバイスが快適に利用可能に

 性能面での制約のあるUSB 1.1でさえストレージ デバイスの接続に用いられているというのに、その最大のボトルネックである最大データ転送速度が40倍になったUSB 2.0が高速ストレージの接続に用いられないハズがない。IEEE 1394の領域とみられてきた分野のうち、まず高速ストレージ デバイスの接続で、USB 2.0とIEEE 1394は競合することになるだろう。

 というより実際には、1999年春のIDF(Intel Developer Forum)でUSB 2.0が最初にアナウンスされた時点で、Intelのロードマップ上、IEEE 1394は高速ストレージ デバイスのインターフェイスの座を降りている。もっと言えば、この時点でIEEE 1394は、PC周辺機器を接続するインターフェイスではなくなっている。だからこそ、IntelのチップセットにIEEE 1394が統合されることがなくなったのである。きわめてIntel的な見方をすれば、この時点でUSBがPC周辺機器のインターフェイス、IEEE 1394がPCとCE(Consumer Electronics:家電製品)間のインターフェイスということになっており、USB 2.0とIEEE 1394は競合しない、ということになるのだが、すべてのメーカーやベンダがこれに同意しているかどうかは、また別の問題だ(これについては後述する)。

USB 2.0の利点

 USB 2.0の最大の強みは、現行のUSB 1.1と互換性を持ちながら、高性能化を実現したインターフェイスということだろう。現在市販されているUSB 1.1対応のデバイスは、すべてUSB 2.0対応のホスト コントローラで利用することが可能だ。これはあくまで原則としてであり、なかには動作しないデバイスや、ケーブルが存在するかもしれない。とはいえ、すでに普及しているインターフェイスの上位互換であるということは、普及を容易にするのは間違いない。

 加えてUSB 2.0は、事実上、無料でユーザーに提供されるインターフェイスになるであろうことも、普及が確実視される大きな理由だ。2000年内に提供されるUSB 2.0ホスト コントローラは、チップセットに集積されず、マザーボード上、あるいはPCI拡張カード上の、独立したコントローラとして実装される(コストの上乗せが必要)。また、この時点ではOSサポートも、限定されたものになる予定で、広く普及はしないかもしれない。当初の発表ではWindows Meに対して、OSRのような形での初期サポート提供が予定されていたが、現在は初期サポートのプラットホームはWindows 2000に変更されている。

 しかし、2001年に提供されるIntelのICH3(I/Oコントーラ ハブ チップ)は、現在のICHがUSB 1.1対応のホストコントローラを内蔵しているように、USB 2.0対応のホストコントローラを内蔵する。この時点で余分な追加コストは不要となる。また、OSも2001年に提供されるWhistler(次期Windows 2000)は、最初からUSB 2.0に完全対応したものとしてリリースされる予定だ。たとえば、USB 2.0の登場時に、USB 2.0の規格を完全に満たせないような(互換性問題が生じるような)不完全な製品が市場に流通する、といった「事故」でもない限り、USB 2.0は確実に普及するだろう(プラグフェスタなど、このリスクを解消するイベントも予定されており、事故の確率は極めて低いと思われるが)。

 ここまで述べてきたことをまとめると、USB 2.0には

  1. 現行のUSB 1.1との互換性
  2. 最大データ転送速度480Mbits/s
  3. 事実上、PC側のインターフェイスが無償で提供される

という3つのメリットがある。1.にはUSBが持つプラグ アンド プレイ機能や、細いケーブルといった要素も含まれている。また、480Mbits/sという最大データ転送速度なら、ストレージ デバイスにも十分対応可能だ。しかし、USB 2.0がストレージ インターフェイスとして万能かというと、そうではない。

USB 2.0の問題点

 Microsoftは、自社のOSでUSB 2.0をプライマリ起動デバイスとしてサポートしないことを明らかにしている。これは、USB 2.0上のストレージに、ブート パーティション、ページング ファイル、ハイバネーション用ファイルといったものを置くことをサポートしない、ということだ。市販されているノートPCなどの中には、USB接続のCD-ROMドライブからCD-ROMブートで、システム リカバリするものもあるようだが、これはPCMCIAインターフェイスのCD-ROMからの起動をサポートしたノートPCがあったのと同じだ。特にBIOSを拡張したあくまでも特別な例であり、原則としてシステムの起動やOSのインストールには使えない、と考えておく必要がある(HIDデバイスに関しては、OSのインストール時にも使える)。

 つまり、ストレージ インターフェイスとしてのUSB 2.0は、あくまでもセカンダリ インターフェイスであり、外付のアドオンデバイス専用ということになる。もちろん、システム起動に用いるプライマリ インターフェイスにはATAの発展型(当面はUltra ATA/100、そしてSerial ATA)を用いるというのがIntelのシナリオだ。そして、実現する可能性が極めて高いシナリオでもある。

USB 2.0は家電製品にも進出するのか?

 だが、本当にIntelはUSB 2.0の用途をPC周辺機器に限定するつもりなのだろうか。AV機器など家電製品との接続にUSB 2.0の利用を考えないのだろうか。この問いを先日東京で開催されたUSB Developers Conferenceのために来日したIntelのTechnology Initiatives Manager(USB Implementers Forum議長)であるジェイソン ジラー(Jason Ziller)氏にぶつけたところ、USBを家電機器との相互接続にプロモートするつもりはないと、ハッキリと否定された。

 確かに、Intelがリリースしている資料のほとんどは、USBをPC周辺機器との相互接続に、IEEE 1394をAV機器など家電製品との相互接続に用いる、という公式見解をなぞっている。唯一、2000年春のIDFのプレゼンテーションの1つのみが、USBはAV機器との相互接続にも最適、と述べているだけである。このとき、会場にいたIEEE 1394 TAのメンバーから、真意を問う質問が出たのを覚えている。

 USBを家電機器向けにプロモートする際の最大の難点は、ホスト コントローラを内蔵したPCが不可欠である(PCなしでは使えない)という点にある。これは致命的な問題のようにも思えるが、全家庭への普及を目指すのであれば、実は大きな障害ではない。すべての家庭にPCがある、ということを前提にできるからだ。

日立製作所のDVDCAM
8cm DVD-RAMに記録するデジタル ビデオ カメラ。PCとの接続端子にはUSBを採用する。記録時間は標準モードで2時間(片面記録1時間、両面記録2時間)。

 デジタル カメラは家電製品なのか、PC周辺機器なのか。携帯型のMP3プレイヤーは、PC周辺機器なのか、それとも家電製品なのか。すでに両者の境界線上の製品でUSBを採用したもの、事実上USBを標準インターフェイスとするものが登場している。また、2000年夏にも販売される日立製作所のDVD-RAMを用いたデジタル ビデオ カメラ「DVDCAM」も、USBを採用している(日立製作所の「DVDCAM」のニュースリリース)。これはデジタル スチル カメラの延長線上の使い方を想定しているのと、DVコーデックを搭載しないため、一般的なDV対応デジタル ビデオ カメラとの間で相互ダビングできないことによる混乱を避ける、の2つの意味からだろう。だが、より家電的製品にUSBが採用されたという点で、ある種の可能性を感じずにはいられない。建前としてはPC周辺機器しか考えないとしても、家電製品が使ってくれるのであれば、決して反対しない、むしろ使ってくれることを望む、というのが本音ではないかと思えてならないのである。記事の終わり

関連記事
USBの次なる一歩
Insider's Eye:Windows Meの全貌
Insider's Eye:ベールを脱いだWhistler

関連リンク
USB 2.0に関する情報ページ
IDFに関する情報ページ
「DVDCAM」のニュースリリース

 
     

「連載:PCの理想と現実」



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