ニュース解説
USBの次なる一歩 島田広道 |
USB Implementers Forumのチェアマン(議長)であり、Intelのテクノロジ・イニシアチブ・マネージャでもあるジェイソン・ジラー氏 |
次世代の高速シリアル・インターフェイスとして提唱されたUSB(Universal Serial Bus)は、1996年にRevision 1.0の規格が策定されて以来、現在では市販されているPCのほぼすべてに搭載されるほど普及している。その点では、すでにUSBは「成功」したインターフェイスといえるだろう。このUSBの最大転送速度を従来の40倍にあたる480Mbits/sに押し上げる新しい規格「USB Revision 2.0」(以下USB 2.0)が、この春の2000年4月に決定・公開され、各メーカーはすでにサンプル出荷を始めつつある。そんな中、USBの規格策定を担っているUSB Implementers Forum(以下USB-IF)が、6月15日、東京都内のホテルでUSB 2.0の開発者会議を開催した。最初に行われた基調講演では、USB-IFのチェアマン(議長)であるIntelのジェイソン・ジラー氏(左写真)が、USB 2.0の概要などを説明した。そしてこれに引き続き、USB 2.0の技術的なセッションが精力的に行われた。
USB 2.0で広がる接続可能な周辺機器
現在市販されているUSB対応の周辺機器のほとんどは、USB Revision 1.1という規格に準拠している。このUSB 1.1では、「ロー・スピード(1.5Mbits/s)」と「フル・スピード(12Mbits/s)」という2種類の転送モードが定義されており、マウスやキーボードなど低速なデバイスは前者を、また比較的高速なデバイス(ストレージやネットワークなど)は後者を利用するのが一般的だ。USB 2.0では、これらに加えて最大480Mbits/sの「ハイ・スピード」という第3の転送モードが定義された。
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USBがサポートする3種類の転送モード |
ハイ・スピード・モードが追加された意義は非常に大きい。というのも、多くの周辺機器は、USB 1.1の最大12Mbits/sという転送速度より高速にデータを転送できる能力を持っており、USB 1.1ではインターフェイスの性能がボトルネックになってしまうからだ。それに対してUSB 2.0の最大480Mbits/sという性能は、以下の表のように多くの周辺機器にとって望ましい転送速度を超えており、十分といえる。
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周辺機器にとって望ましいインターフェイス部分の転送速度 |
実際にUSB 2.0のハイ・スピード・モードの効果を示すため、基調講演の最中に、開発中のUSB 2.0対応機器によるデモが行われた。このうちイメージ・スキャナ(以下の写真)のデモでは、USB 2.0インターフェイスに対応した試作機が、USB 1.1の製品に比べてA4原稿のスキャンを約半分の時間で済ませた(インターフェイス以外のハードウェアは同一)。また、MOドライブから23Mbytesのファイルを読み出すデモでは、USB 2.0のほうがUSB 1.1より3倍以上速いという結果になった(なお、このMOドライブは、ATAPIタイプのGIGAMOドライブをUSB-ATAPI変換チップでPC側のUSB 2.0ホスト・コントローラに接続したものだった)。
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デモに使われたUSB 2.0対応イメージ スキャナ |
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スキャナ内部に見えるコントロール基板には、NetChip社のUSB 2.0ペリフェラル・コントローラNET2290が用いられていた。このチップは汎用性があり、ストレージ・デバイスやデジタル・カメラなどスキャナ以外にも利用できる。スキャナ自体のデバイス・ドライバはUSB 1.1でも2.0でもまったく同じとのことだった。 |
下位互換性を非常に重視しているUSB 2.0の仕様
USB 2.0のアーキテクチャはUSB 1.1の延長線上にあり、ハイ・スピード・モードの導入による性能向上のほかには、特にエンド・ユーザーの目につく機能拡張などはない。これは、USB 1.1対応機器とUSB 2.0対応機器が混在していても動作することが重視されているのが一因だ。前述のとおり、すでにUSB 1.1対応のPCやデバイスは広く普及しているので、これらを破棄して一気にUSB 2.0へ切り替えることは不可能である。つまり当分の間、USB 2.0対応機器は、USB 1.1対応機器と混在させて利用せざるを得ないのだ。
メルコ製のUSBハブ「UHB-S7」 |
これはUSB 1.1対応の7ポート・ハブだ。USBでは、ハブを用いることで、PC側のポート数より多数のUSB周辺機器を同時に接続できる。 |
USB 1.1/2.0のシステムをハードウェア面から見ると、PC側のUSBインターフェイス(ホスト・コントローラあるいはルート・ハブ)と周辺機器、ハブという3種類の機器から構成される。ハブ(左写真)とは、多数のUSBデバイスをPCに接続するのに用いる機器である。周辺機器は、ハブを介してホスト・コントローラと接続してもよいし、ハブを省いて直結してもよい。
USB 1.1に対応している既存のPCの場合、USB 2.0対応のハブや周辺機器を接続しても、基本的に動作はするものの、以下の表のように480Mbits/sというUSB 2.0の最大性能は発揮できない。なおUSB 2.0では、ハイ・スピード・モードにしか対応しない周辺機器の存在も許されており、これは例外的にUSB 1.1のホスト・コントローラやハブでは利用できない。
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既存のPC(USB 1.1対応)にUSB 2.0対応機器を接続したときの最大転送速度 |
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既存のPCに内蔵のUSBホスト・コントローラはUSB 1.1対応なので、周辺機器がハイ・スピード・モードに対応していても、その最大性能は発揮できない | ||||||||||||||||
*1 480Mbits/sから12Mbits/sに速度が落ちている。またハイ・スピードのみに対応するデバイスは利用できない。 |
一方、ホスト・コントローラをUSB 2.0対応にしたPCでは、以下の表のように、USB 1.1対応ハブと併用しなければUSB 2.0の最大性能を活用できる。
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USB 2.0対応PCにUSB 2.0対応機器を接続したときの最大転送速度 |
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USBホスト・コントローラとハブの両方ともUSB 2.0対応なら、ハイ・スピード・モード対応の周辺機器が最大性能を発揮できる | ||||||||||||||||
*1 480Mbits/sから12Mbits/sに速度が落ちている。 |
ケーブルやコネクタは、少なくとも規格上では、USB 1.1に対応していれば、そのままUSB 2.0のハイ・スピード・モードで利用できる。
こうした混在環境を実現するため、USB 2.0対応のホスト・コントローラやハブは、3つの転送モードすべてをサポートする。特にハブは、周辺機器を接続する各ポートごとに転送モードを別々に選べるようになっている。さらに、ロー・スピードやフル・スピードのデバイスがバスを占有して、ハイ・スピードのデバイスの邪魔をしないような工夫もされている。またUSB 2.0の周辺機器については、ハイ・スピード・モードをサポートするなら、フル・スピード・モードもサポートするよう推奨されている(前述のように必須ではない)。またUSB 2.0対応の周辺機器は必ずしもハイ・スピード・モードをサポートする必要はなく、ロー/フル・スピード・モードで動作してもよい。
ソフトウェア面では、ホスト・コントローラとハブを制御するデバイス・ドライバを新たに開発する必要があるが、それより上位のデバイス・ドライバについては、USB 1.1から変えずにそのままUSB 2.0で使えるとのことだ。
USBでは、USBケーブル経由で電力を供給するしくみがあり、消費電力の少ないUSB周辺機器なら電源ユニットを省くことができる。このUSBケーブルによる電力供給量についても、USB 2.0はUSB 1.1と同じ規定のままだ。省電力機能も共通である。
小型コネクタの標準化
「Mini-B」コネクタのプロトタイプ |
小型の周辺機器にも実装できるよう、従来のシリーズBに比べて、ケーブル側コネクタ(写真右側)は体積比で1/6、また周辺機器側コネクタ(写真左側)は1/20と小型化されている。 |
ジェイソン・ジラー氏の話からは、いくつか注目すべき情報を得ることができた。1つは、携帯機器のような小型の周辺機器のために、従来より小さなUSBコネクタの標準化が進んでいることだ。現状のUSBコネクタは、PC側(ホスト側)のシリーズAと、周辺機器側のシリーズBという2種類しか規定されていない。しかし、デジタル・カメラや携帯オーディオ プレーヤなどの小型機器をUSB対応にする場合、シリーズBのコネクタではやや大きく、実装が難しい場合がある。そのため、各メーカーは独自の小型コネクタを採用してしまい、小型機器に関してはコネクタの互換性がとれなくなりつつある。そこでUSB-IFは、シリーズBよりずっと小さい「Mini-B」と呼ばれるコネクタを標準化し、規格書に追加する予定だという。ただしその扱いはオプションであり、独自コネクタも許容されるようだ。それでも、小型のシリーズBコネクタの標準が決まれば、独自コネクタの乱立も収束することが期待される。
新しいロゴの策定
USB 2.0対応機器のために、従来のものとは異なる新しいデザインのロゴが作成中であり、8月から9月にかけて発表される予定だ。USB 2.0対応機器がUSB-IFのテストをパスすると、そのメーカーは製品パッケージなどに新しいロゴを表示できるようになるという。テスト対象は周辺機器やホスト・コントローラだけではなく、ハブやケーブル、コネクタにも及ぶ。エンド・ユーザーが店頭で製品を購入する際に、USB 2.0のテストにパスしていることが、このロゴで簡単に分かるわけだ。また、ハイ・スピード・モードに対応する機器については、その高速さが一目で分かるようなロゴ・デザインの追加も考えられているようだ。そのほか、USB-IFとは独立したテスト機関も増やして、USB機器のテストと認定をより素早く行うという計画も進んでいる。こうした努力により、互換性問題が発生しないことを期待したいものだ。
Intel製チップセットにUSB 2.0が組み込まれるのは2001年
展示されていたUSB 2.0対応のPCIホスト・コントローラ・カード |
日本電気製のホスト・コントローラ・チップを用いたこのカードは、外部に4ポート、内部に1ポートのUSB 2.0インターフェイスを備える。Plug and PlayのはずのPCIカードなのにジャンパが多いのは、開発用としてデバッグのために各種の設定を変更できるようにしているからだ。 |
USB 2.0が普及するには、やはりUSB 1.xのときと同様、USBホスト・コントローラがPCのチップセットに内蔵されるのが必須だろう。2001年に登場するIntel製のPCチップセットにも、USB 2.0対応ホスト・コントローラが内蔵されるという。おそらくはIntel 820EチップセットのI/Oコントローラ・ハブであるICH2の後継製品のことだと思われる。このチップセットが登場するまでは、左の写真のようなUSB 2.0対応のPCIホスト・コントローラ・カードを装着しないとUSB 2.0デバイスをハイ・スピード・モードで利用することはできない。しかし登場後は、PCIカードを追加することなくユーザーはPCにUSB 2.0デバイスを簡単に接続できるようになる。USB 2.0デバイスがどれくらいの勢いで普及するかは、このチップセットの出荷時期とその出来にかかっているといえるだろう。
USB対応機器の登場当初は、互換性問題やソフトウェア サポートの未熟さによる不具合などがよく生じた。しかし、現在ではすでにUSB 1.1対応製品が問題なく利用できる環境が広まっている。そのUSB 1.1と高い互換性を持つUSB 2.0は、順調に普及することが期待できる。
USB 2.0とほぼ同等の速度とよく似た機能を備えるのが、IEEE 1394である。現行のIEEE 1394は最大400Mbits/sでデータを転送可能で、DVカメラなどのデジタル家電への実装が進んでいる。また最近ではPCに標準搭載される例が増えている。しかしUSB 2.0と違い、IntelはチップセットにIEEE 1394を内蔵する計画はないという。つまり将来において、IEEE 1394インターフェイスをPCに組み込むには、USB 2.0以上にコストがかかることになるので、PCへの普及という点ではUSB 2.0のほうが有望だと思われる。
USB 1.1で性能が落ちることを恐れて、SCSIやIEEE1394をインターフェイスに採用してきたストレージ・デバイスなどの周辺機器は、USB 2.0へ移行する可能性が高いだろう。
なお、開発者会議と同じ日にインテルは、USB 2.0対応デバイスの開発を支援するUSB 2.0 PDK(Peripheral Developer Kit)を発表した。これは、日本電気製のUSB 2.0ホスト コントローラを搭載したPCIカードと、マイクロソフトによるWindows 2000用のUSB 2.0ドライバ・スタック、そしてインテルが開発したデバッグ・ツールで構成されており、7月上旬から800ドルで提供される予定である。
関連リンク | |
USB 2.0の最終仕様公開に関するニュース・リリース | |
USB 2.0対応周辺機器開発者向けツール・キットの発表に関するニュースリリース | |
USB 2.0対応ハブ・コントローラ・チップの製品化に関するニュース・リリース | |
USB 2.0対応ホスト・コントローラ・チップの製品化に関するニュース・リリース |
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