Insider's Eye

ベールを脱いだWhistler

―― MicrosoftがWinHEC 2000にてWindows製品群の最新ロードマップを公開 ――

デジタルアドバンテージ
2000/05/07

 米Microsoftは、2000年4月25日〜27日にかけて、主にハードウェア ベンダのエンジニアなどを対象として毎年開催している恒例のテクニカル カンファレンス、WinHEC 2000をルイジアナ州 ニューオーリンズで開催した。このカンファレンスの開会宣言にあたるビル・ゲイツ氏のキーノート スピーチ、およびそれに続き行われたWindowsハードウェア戦略担当ゼネラル マネージャのカール・ストーク氏のキーノート スピーチなどにおいて、今後のWindows製品のロードマップが公表された。以下本稿では、これら2つのセッションにおける発表を中心として、Microsoftが現時点で思い描いているWindows製品の将来をまとめる。なお、これらのセッションでのスピーチ内容は、テキスト データとしてインターネット上に公開されているので、興味のある読者は参照されたい(ビル・ゲイツ氏のキーノート スピーチカール・ストーク氏のキーノート スピーチ。いずれも英文)。

2000年中にはWindows MEを発売、そして2001年にはWhistlerへと移行

 2000年2月18日、Microsoftは、Windows NT 4.0の後継OSであるWindows 2000を発表した。これから約1カ月後の3月14日付けの米Microsoftのニュースリリースによれば、Windows 2000(Professional/Server/Advanced Server)の全世界での販売数が100万本を超えたという。機能性よりも実績や信頼性を重視するビジネス ユーザーを主なターゲットとするOSとしては、上々の滑り出しといってよいだろう。

 しかしMicrosoftは、2000年中にもう1つのWindows OSを発表する計画である。これは現在販売されているWindows 98 Second Edition(Windows 98 SE)の後継にあたるWindows Millennium Edition(Windows ME)と呼ばれるものだ。開発コード名は単に「Millennium」と呼ばれていた。Microsoftによれば、一部に16bitコードが残されたWindows 9xのコードをベースとする製品は、このWindows MEが最後になるとしている。

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クライアント向けWindows OSのロードマップ

2000年2月に発表されたWindows 2000に引き続き、Microsoftは、2000年中に現行のWindows 98 SEの後継となるWindows MEを出荷する予定だ。過去のソフトウェアとの互換性を維持することなどを目的として、綿々と続いてきたWindows 9xコードベース製品の歴史は、このWindows MEを最後に市場から消える。そして2001年には、ホーム ユースからビジネスまで、Windows 2000のコード ベースを持つWhistler(ウィスラー)に移行する。

 2000年2月に発表されたWindows 2000に引き続き、Microsoftは、2000年中に現行のWindows 98 SEの後継となるWindows MEを出荷する予定だ。過去のソフトウェアとの互換性を維持することなどを目的として、綿々と続いてきたWindows 9xコードベース製品の歴史は、このWindows MEを最後に市場から消える。そして2001年には、ホーム ユースからビジネスまで、Windows 2000のコードをベースにしたWhistler(ウィスラー)に移行する。

 振り返ってみれば、1998年6月にMicrosoftがWindows 95の後継OSとしてWindows 98を発表したとき、「16bitアーキテクチャを受け継ぐWindows OSはこのWindows 98が最後で、次のメジャー バー ジョンアップは、完全な32bit環境であるWindows NTのコア テクノロジをベースとしたものになる」と述べていた。ところがその翌年の1999年夏には、Windows 98のマイナー バージョンアップ版が登場した。これがWindows 98 SEである。当時は一部の開発者などの間でWindows 2000のベータ テストが進められており、「Windows 9xコードベースはWindows 98 SEで終わりだろう」という憶測もあったが、実際にはWindows 98 SEの後継OSの計画がほどなく発表された。これが2000年中の出荷が見込まれているWindows MEである。

 WinHEC 2000において、Microsoftは、「Windows MEこそ、Windows 9xコードベースの最後の製品」と断言した。再び約束がホゴにされることはないと信じたいところだが、これが現実のものとなるかどうかは、次に述べるWindows Whistler(ウィスラー)の出来と、周辺機器各社によるデバイスドライバの対応状況にかかっているだろう。

 当初のロードマップでは、Windows MEの後継となるコンシューマ向けWindows OSとして、コードベースをWindows 9xからWindows 2000のそれに切り替えたNeptune(ネプチューン)が発表される予定だった。しかし2000年が明けると、Microsoftは当初のこの計画を見直し、コンシューマ向けだけでなく、コンシューマ用途とビジネス用途の双方を対象とするWindows OSの開発に切り替えた。このWindows OSの開発コード名がWindows Whistlerである。クライアント向けのWhistlerには少なくとも2つの製品群があり、一方は現行のWindows 2000 Professionalの後継となるビジネス用途向けに最適化された製品、もう一方はWindows MEの後継となるコンシューマ用途向けに最適化された製品である。コードベースが共通化されることから、両者は同一のデバイス ドライバを使用可能であり、双方で完全なアプリケーションの互換性が保証されるとしている。

Windows MEは2000年クリスマス商戦用プレインストールOS!?

 最新版OSに期待を寄せるは人は少なくないだろうが、Windows MEには多くを期待しないほうがよさそうだ。冒頭で紹介したWindowsハードウェア戦略担当ゼネラル マネージャのカール・ストーク氏は、Windows MEを次のようにカンファレンス参加者に披露した。

「基本的にWindows MEは、今年のクリスマス商戦、および翌20001年にかけて、コンシューマ向けPCにプレインストールされて販売されることを想定している(So fundamentally, Windows Millennium Edition is our consumer version of Windows that we expect to be pre-installed on the vast majority of new PCs sold to the consumer segment this Christmas, and into the year 2001.)」

 ビル・ゲイツ氏のキーノート スピーチ、および続くカール・ストーク氏のキーノート スピーチで紹介されたWindows MEの主要な改良点をまとめると以下のようになる。以前のMillenniumのプランと比較すると、Desktop Ver.2と呼ばれていたHTMLベースの新しいシェルが見送られるなど、抜本的な改良は先送りにされたようだ。改良点は、数としては少なくないが、ほとんどはブラッシュアップ(磨き直し)というレベルにとどまるものばかりである。

強化ポイント 内容
デジタル エンターテインメント関連機能の強化 オーディオ機能の強化、新しいWindows Mediaプレイヤーの搭載、著作権管理機能、携帯オーディオ機器などの接続性の向上
静止画サポートの強化 Windows Image Acquisition(WIA)アーキテクチャを実装し、Windowsアプリケーションがデジタル スチル カメラやイメージ スキャナなどのイメージ処理機器とシームレスにやり取りできるようにする
ユーザーインターフェイスの改良 System File Protectionの改良、ヘルプ システムの改良、自動アップデート機能の改良
ホーム ネットワーク機能の改良 インターネット接続共有機能の改良、TCP/IPセットアップの改良、IPデバイスの自動検出機能の追加、Universal Plug and Playの標準サポート
標準アプリケーションのバージョンアップ 最新版のInternet ExplorerおよびOutlook Express
レガシー フリー システムのサポート BIOSおよびSuper I/O依存部分をカーネルより除去。レガシー フリー システムをサポートすることにより、梱包を解いてすぐに使えるPCをWindows MEで構成できるようにする
起動時間の大幅な短縮 システムの電源投入やハイバネーションからの復帰など、システムの起動にかかる時間を大幅に短縮する。このため、起動に時間がかかっていたリアルモードでの処理を一掃。高速に初期化してシステムに組み込み可能なWindows 2000のTCP/IPスタックをWindows MEに移植。デバイス ドライバの開発者による起動時間短縮をサポートするためのツールを開発・提供する
電源管理機能の強化 ハイバネーション機能に加え、レジューム機能を強化
WinHEC 2000で発表されたWindows MEの主要な機能強化点

 インターネットを利用した音楽配信サービスが開始されたり、好みの音楽CDのデータをMP3形式にエンコードしてポータブルMP3プレイヤーで再生できるようにしたりと、今やコンシューマ用途では、PCと音楽データは不可分の関係にある。Windows MEでは、音楽データを取り扱うための数々の機能が追加される模様だ。具体的には、新しいWindows Mediaプレイヤーの標準搭載、著作権管理機能の追加、携帯オーディオ機器とPCの接続性の向上を図る。

 静止画処理機能としては、昨年のWinHEC 99で発表されたWindows Image Acquisition(WIA)アーキテクチャがWindows MEに実装される。このWIAは、画像処理アプリケーションが透過的にデジタル スチル カメラやパーソナル スキャナ、フィルム スキャナなどにアクセスできるようにするためのしくみである。たとえばWindowsアプリケーションは、Windows対応のデバイス ドライバを備えるプリンタなら、特定のプリンタを意識することなく印刷処理を行うことができる。アプリケーションは、Windowsによって提供された印刷用のAPI(Application Program Interface)を呼び出すことで、どのプリンタに対しても印刷処理を行うことができる。WIAは、こうしたアプリケーションとプリンタの関係を、デジタル スチル カメラなどの画像デバイスに対しても適用可能にするものだ。具体的にWIAは、上位のアプリケーションに対してはイメージ処理用のCOMインターフェイスを提供し、下位のデバイス ドライバに対しては、デバイス ドライバ インターフェイス(DDI:Device Driver Interface)を提供する。アプリケーション プログラマは、WIAによって提供されるCOMインターフェイスを経由してイメージデバイスを操作するようにし、一方のデバイス ドライバ プログラマは、DDIに従ってデバイス ドライバを作成する。こうしてアプリケーションは、特定のイメージ処理デバイスに依存することなく、デバイスを制御可能になる。

 前述したとおり、当初はMillenniumで計画されていたユーザー インターフェイスの改良は、次のWhistlerまで持ち越された。Windows MEでのユーザーインターフェイスの改良は、System File Protectionやヘルプ システムの改良など、マイナーなものだけにとどまるようである。

 TCP/IPネットワーク機能の強化もさることながら、Windows MEでの最大の注目ポイントは、Universal Plug and Play(以下UPnPと略)の標準サポートだろう。UPnPは、家庭内のさまざまな電化製品や情報機器をネットワーク接続し、それらの間で情報交換や資源の共有を簡単に行えるようにすることを目的として、Microsoftが中心となって提唱した規格である。1999年1月にラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)でMicrosoftにより発表された。Sun Microsystems社は、同様の目的を持ったJini(ジーニー)を発表しているが、UPnPはこれに対抗するMicrosoft社の標準規格だといってよい。UPnPの特徴は、TCP/IPネットワークなど、既存のテクノロジやインフラストラクチャをベースにするという点であり、そのプロトコルはTCP/IPをベースとしている。ただし既存の標準テクノロジをベースにするといっても、UPnPは特定のOSや物理媒体などに依存するものではなく、接続バスとしてはISAやPCIを始め、USB、IEEE 1394、IRなどが、接続メディアとしては10BASE-Tネットワークに加え、HomePNA(Home Phoneline Networking Alliance)やHomeRF(無線通信規格)、IEEE 1394、PLCなどが幅広くサポートされる模様だ。

 一部で16bitコードが残されたWindows 9xコードベースのWindows MEだが、レガシー フリー システムをサポートするために、カーネルからBIOS(Basic I/O System)やSuper I/O依存部分が除去される。BIOSやSuper I/Oは、PCのマザーボード上にROMなどとして組み込まれており、システムを初期化し、制御するための基本ルーチン群を提供している。PCの電源を投入すると、最初にこのBIOSコードが実行され、デバイスの検査や初期化などが行われ、続いてWindowsなどのOSコードが読み込まれて実行されるようになっている。またBIOSは、チップセットやディスク インターフェイス、メモリ インターフェイスなど、システムの基本デバイスを制御するためのサービス ルーチンを提供している。システム性能が低く、搭載メモリ容量も少なかったMS-DOSの時代には、このようにハードウェアとして提供されるBIOSのコードを積極的に活用し、少ないメモリでシステムを稼働できるようにしていた。しかしシステム性能が大幅に向上し、大量のメモリを搭載することが常識化した現在では、機種ごとに異なるBIOSのサービス ルーチンに依存することなく、OSがシステムを完全に制御する要求が高まってきた。

 すでにWindows 2000は、従来のPC BIOSやSuper I/Oに依存することなく、システムを制御できるレガシー フリー システム対応になっている。このWindows 2000に続きWindow s MEでも、Windows 98 SEに残されていたBIOS依存部分、Super I/O依存部分が取り除かれる。カール・ストーク氏によれば、これにより、完全なレガシー フリー システムにWindows MEを組み込んで販売することが可能になり、梱包を解いて10分〜15分ですぐに使い始められるPCを構成できるようになるという(Microsoftは、このように簡単にPCを使い始められることを「out-of-box experience」と呼んでいる)。

Windows MEの起動時間はPlayStation よりも高速

 Windows MEでは、システムの電源投入時、およびハイバネーションからの復帰時の起動時間が大幅に短縮される。ビル・ゲイツ氏は「天気予報や最新ニュースをいつでも得られる対象としてPCが機能するためには、起動が高速でなければならない」と述べ、「Windows MEでは、起動時間を25秒以下にする」と発言した。ゲイツ氏によれば、「ソニーのPlayStationをCD-ROMドライブから起動するには33秒かかる。Windows MEの起動時間はすでにこれよりも短い。我々は起動時間短縮へのチャレンジを続けており、次のWindows Whistlerではさらにこれが短縮されるだろう」と述べた。

 起動時間を短縮させるために、Windows MEでは、従来は起動時に行っていた遅いリアルモードでの処理を一掃した。またWindows MEでは、Windows 2000に組み込まれたTCP/IPスタックを移植した。このTCP/IPスタックは、素早く初期化してシステムに組み込み可能だという。

 起動時にWindowsは、システムに存在するデバイスの検出・列挙(enumeration)と初期化をデバイス ドライバを通して行っており、これが起動時間の中で大きな割合を占めている。これらはハードウェア ベンダが作成するデバイス ドライバに依存しているため、Microsoftの努力によって直接時間短縮を行うことはできない。代わりにMicrosoftは、デバイス ドライバ開発者が、ドライバの処理によって起動時間がどのような影響を受けるのかを知ることができるツールを作成した。これによってデバイス ドライバの開発者は、自身が設計したドライバの出来具合を手元で評価できるようになる。

 比較対照としてPlayStationが登場するあたり、Windows MEのターゲットがコンシューマであることを強く印象付けられる。自宅のリビングに置くPCとして考えれば、夜通し冷却ファンを回しっぱなしにするというのは、騒音の面でも、電力消費の面でも考えにくいことだ。家庭にあるPCのほとんどは、普段使っていないときにはシャットダウンされるか、ハイバネーションによって電源をオフにされるはずだ。しかしその一方で、必要なときには情報にすぐにアクセスできなければならない。これから出かけようというのに、天気予報を調べるために何分もかけてPCを起動するというのはナンセンスだからだ。周知のとおり、ソニーは新世代ゲーム機のPlayStation 2の発売を開始し、MicrosoftはPCテクノロジをベースとする次世代ゲーム専用機のX-Boxを発表した(X-Boxに関するマイクロソフトのニュースリリース)。Windows ME搭載PCを加え、リビングルームを巡るコンピューティングの覇権争いはいっそう激しくなるだろう。

ついにベールを脱いだWindows Whistler

 これまでも、一部のインタビューやリーク記事などとして、「Whistler(ウィスラー)」の存在はささやかれてきたが、おそらく公の場で、ビル・ゲイツ氏の口からこの開発コード名が聞かれるのは今回のWinHEC 2000が初めてだろう。本稿の最初でも説明したとおり、WhistlerはWindows 2000のコード ベースを持つ次世代Windows OSである。当初はコンシューマ向けに特化したNeptune(開発コード名)を開発中と報道されたが、コンシューマに加えビジネス向けも視野に加え、現行Windows 2000の後継OSとすることが決定された。これがWindows Whistlerである。

 Whistlerは、開発の初期段階にあるアルファ バージョンがごく一部のプログラマ向けに提供されているレベルであり、キーノート スピーチにおいても多くは語られなかった。後述するとおり、Windows Whistlerはクライアント向け製品だけでなく、現行のWindows 2000 ServerやAdvanced Serverといったサーバ製品群に対応するバージョンも発売される予定である。クライアント向け製品についても、Windows Whistlerには少なくとも2つの製品があり、一方は現行のWindows 2000 Professionalのバージョンアップとなるビジネスクライアント向け製品、もう一方はWindows MEの後継となるコンシューマ向け製品である(前出の図「クライアント向けWindows OSのロードマップ」参照)。

 Windows 2000 Professionalを使用しているビジネス ユーザーにとっては、Windows Whistlerはちょっとしたマイナー バージョンアップとして位置づけられそうだ。具体的にキーノート スピーチでは、デバイス ドライバの更新やアプリケーションの互換性の向上、ビジネスクライアントの展開作業を円滑にする機能強化などが紹介された。なおWindows Whistlerでは、CD-R/CD-RWサポートが標準で追加され、エクスプローラからファイル アイコンをドラッグ&ドロップするだけで、これらのドライブにデータを書き込めるようになる予定だ。

 Windows 98 SEやWindows MEを使用しているホーム ユーザーにとっては、Windows Whistlerはこれらの機能性や使い勝手を継承しながら、堅牢性や信頼性を高めた次世代OSとして位置づけられる。

 まだ詳細は明らかではないが、Whistlerでは、ユーザーインターフェイスの改良も行われる予定である。

サーバー向け戦略の合い言葉は「scale up」と「scale out」

 次はサーバ サイドのロードマップに注目してみよう。Microsoftのサーバ サイドの基本戦略は「scale up」と「scale out」だという。ここで「scale up」とは、論理的に単一で、最高性能のサーバ システムをWindows OSで提供可能にすることを意味している。このため2000年夏には、Windows 2000の最上位製品であるData Center Serverが出荷される予定だ(以下の図を参照)。このWindows 2000 Data Center Serverでは、32個までのマルチプロセッサ、および最大64Gbytesまでの物理メモリをサポートする。

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サーバ向けWindows OSのロードマップ

夏までには、残されていたWindows 2000シリーズの最後の製品であるWindows 2000 Data Center Serverがリリースされる。またIntelの次世代64bitプロセッサであるItanium搭載システムの出荷に合わせ、64bit版のWindows 2000 Serverがリリースされる予定である。Whistlerはサーバ向け製品についても出荷される。基本的に、現行のWindows 2000 Professional、Server、Advanced Serverに加え、前出のData Center Serverに対応する製品が出荷される予定である。

 このように単一システムとしてパワフルなサーバ システムを提供しようとするのが「scale up」なら、もう一方の「scale out」は、複数の分散サーバ システムを効率的・効果的に利用しようとするものだ。具体的には、クラスタリングとロードバランシング機能により、既存システムを停止することなく、必要に応じてサーバのキャパシティを増加できるようにし、かつ万一のトラブルに対しても、フェイルオーバーの機能を実現させる。Microsoftは現在、アプリケーション プログラマがクラスタリング機能を効果的に利用できるようにするために、新しいインターフェイスを準備中だという(おそらくはCOM+インターフェイスだろう)。なおカール・ストーク氏によれば、現在のWindows 2000 Advanced Serverは、2ノードまでのクラスタリングをサポートしているが、4ノードクラスタリング機能が追加される予定とのことだ。

 これら32bit版のWindows 2000とは別に、2000年中にはIntel Itanium(アイテニアム)搭載システム向けの64bit版Windows 2000 Serverがリリースされる。Microsoftは、1999年8月にはItaniumシステム上で動作するWindows 2000を披露し、2000年2月にはIntelとともに共同開発した64bit版のSDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)を発表している。64bit版Windows 2000 Serverの出荷時期についてカール・ストーク氏は、「Itanium搭載システムの発売に合わせる」と述べた。現時点の予定では、7月にハードウェア デザイン レビューを行う予定だとしている。なおビル・ゲイツ氏は、今回のキーノート スピーチの中で、64bit版のWindows 2000システム上で動く64bit版のSQL Serverのデモンストレーションを行った。このようにコア オペレーティング システムだけでなく、64bit対応のアプリケーション開発も進んでいることをアピールした。

組み込みシステム向けWindows

 これら以外にもMicrosoftは、PDA(Personal Digital Assistant)機器や専用機器向けの組み込み用OSの開発を進めている。こうした組み込み用途向けとしてMicrosoftは2つの製品ラインアップを持っている。1つはパームサイズPC向けなど、ハードディスクを持たない携帯用システムを対象に開発されたWindows CE、もう1つはWindows NT 4.0のテクノロジをベースとして、組み込み用途向けの変更を施したWindows NT 4 Embeddedである。このうち2000年の施策としては、Windows CEの最新版となるWindows CE 3.0を出荷する計画だ。このWindows CE 3.0では、現行のWindows CE 2.xに搭載されているPocket IEから表現力を大幅に高めたWebブラウザを搭載するなど、いくつかの抜本的な機能向上が図られる。

 今回のWinHEC 2000の参加者には、Windows 2000を専用機器に組み込むためのWindows 2000 Server Appliance Kit(SAK)がCD-ROMで提供された。このServer Appliance Kitを利用すれば、たとえばネットワーク接続機能を持つストレージ デバイスなど、専用機器にWindows 2000を組み込んで使用できるようになるという。

 恐らくはWindows NT 4 Embeddedの後継に位置づけられるものとして、Microsoftは、Windows Whistlerの組み込み版の開発も進めている。カール・ストーク氏は「デスクトップ向けWhistlerの出荷からほどなく組み込み版を提供できるだろう。ターゲットはWhistlerのリリースから90日遅れである」と述べた。

 このようにMicrosoftが手がける組み込み用OSには少なくとも2種類があり、どのような場面でどちらを使うのか、必ずしも自明ではない。Microsoftは、自分自身でもさまざまな特定用途向け機器を開発しており、2つのプラットフォームから適当なものを選んで利用していくようだ。カール・ストーク氏によれば、現時点で自社開発を進めている特定用途向け機器として、次のようなものがあるとしている。

機器 内容
MSN Webコンパニオン MSNを始めとするWebアクセス機能に特化した端末。高速な起動、デバイスを容易に取り扱える点が特徴
Microsoft TVプラットフォーム テレビ受像器に接続して機能拡張を行うためのデバイス。すでにMicrosoftはWebTVを販売しているが、これに加えデジタルTVやエンハンストTVの機能性を追求するセット トップ ボックス市場を獲得するためのデバイス
「Web blade」と呼ばれるもの Webサーバ機能を組み込んだ専用機器。前出のServer Appliance Kitを用いることでこうしたデバイスを作成可能
Windows for Express Networks スモール ビジネス市場をターゲットとするデバイス。SOHO環境に持ち込み、WANに接続することで、インターネット アクセス機能、LAN機能などを提供する。容易な管理が特徴
Microsoftが開発を進めている特定用途向け機器

 これらはいずれも、今後市場の急速な発展が期待されるものばかりだが、それだけに未知数も多い。早急にプラットフォームを絞り込むのではなく、対応プラットフォームの間口は広げておき、ニーズに柔軟に対応していくという意向だろう。

マイクロソフト帝国の繁栄は21世紀も続くのか?

 現在マイクロソフトは、独占禁止法違反の疑いで米司法当局と争っており、先ごろ司法省は「クロ」の判定を下し、同社をアプリケーション部門とOS部門に分割すべきという是正案を提示した(米司法省、米Microsoftに対する是正措置案を公開[英文])。この影響でMicrosoft社の株価が急落したことを始め、同社株を扱うNASDAQ市場の指数も大きく低迷することとなった。この提案に対しMicrosoftは、真っ向から対立する声明を発表しており、徹底的に争う構えをみせている。

 同社が独禁法に抵触するような不当な行為を行ったのかどうかは、1ユーザーにとっては判断しかねることだ。司法当局が主張するとおり、Microsoftの商慣行によって消費者の利益が損なわれているとすれば、何らかの是正が必要だろう。しかし少なくとも、これまでのMicrosoftの努力によって、PCが多くの人にとってより使いやすい身近な存在となったことは事実であるし、この点については評価すべきだろう。

 良いにしろ悪いにしろ、Microsoftにとって21世紀が新しいステージであることは間違いない。Microsoftの繁栄は21世紀も続くのか、それとも20世紀末をピークに衰退に転じるのか? その答えは、前述の独禁法問題と、この影響による株安や優れた人材の流出などというマイナス要因を乗り越えて、同社が魅力的なコンピューティング環境を私たちに提案し続けられるかどうかにかかっている。End of Article

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