“かざす”を商機につなげるFeliCa、
ソニーの次の手は
岡崎 勝己
2008年1月9日
非接触ICカードやRFID技術が社会にもたらす変化とは何か。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に取材活動を続けるジャーナリストが、独自の視点で“近い未来”の行く末を探っていく(編集部)
ソニーの非接触ICカード技術方式「FeliCa」が誕生して13年。もはや、われわれが生活をするうえで不可欠の存在となっている。ソニーがこれまでに出荷したICチップの累計は、カード用だけに限定しても日本の人口を上回る1億8900万個にも達するほどだ。
では、ソニーではこれほど普及したFeliCaの利用を拡大させるために、どのようなビジネスのロードマップを思い描いているのか。同社のB2Bソリューション事業本部でFeliCa事業部事業戦略部商品戦略担当部長を務める竹澤正行氏の話から、将来ビジョンを探りたい。
“かざす”利便性を武器に利用を拡大
駅の改札や店のレジで、携帯電話やカードをかざす。日本を訪れた多くの外国人が、いささかの困惑とともに感銘を受けるという日本ならではの光景だ。
EdyやSuica、iDにQUICPayと、“かざす”サービスはその利便性が好感され、いまも着々と多様化が進んでいる。そして、この“かざす”文化を支えているものこそ、1994年に産声を上げたソニーの非接触ICカード技術、FeliCaにほかならない。
FeliCaはこれまで、鉄道(電子チケット)と決済(電子マネー)という2つの用途を軸にわれわれの生活に根を下ろし、利用を拡大させてきた。決済系に限っても、EdyやSuicaを利用できる店舗は2007年10月末時点でそれぞれ6万9000店と2万2750店に達するほどだ。
また、流通企業が発行する初の電子マネーとして注目されたセブン-イレブン・ジャパンのnanacoは、2007年4月のデビューからわずか半年余りでカードの発行枚数が500万枚を突破した。さらに、日本郵政公社は2006年10月の民営化を機に、接触型ICカードとFeliCaの非接触ICカードの機能を1チップで実現したデュアルインターフェイスICカードの提供を開始するなど、“官”の色がいまだ色濃く残る分野にも進出を果たした。
このように、FeliCaがわれわれの生活に欠かせない存在となる中で、FeliCaをマーケティングツールとして自社のビジネスに活用しようとの各社の気運も盛り上がりを見せている。
2005年春、ポイントカードやクーポン、会員証、チケットなどの顧客サービスを容易かつ低コストで導入するための汎用アプリケーション「FeliCaポケット」をソニーが開始したのも、企業ニーズの高まりに対応するためだ。
「カードなどの“デバイス”と、認証の基盤となる“プラットフォーム”、そのうえで提供する“サービス”。当社のFeliCaビジネスはこの3つから成る。そのそれぞれの高度化を図ることが、ビジネスを拡大させるための基本的なアプローチ」。竹澤氏は、ソニーにとってのFeliCaビジネスをこう説明する。
FeliCa拡大に向けた次の“一手”
FeliCaの普及に向け、FeliCaチップは携帯電話向けも開発され、通信速度の高速化やより多くのアプリケーションを利用できるよう、メモリ容量の大容量化などが図られてきた。新たな利用シーンを開拓するため、USB対応のリーダ/ライタ「PaSoRi」もリリースされ、同社のPC「VAIO」では「FeliCaポート」の搭載が積極的に進められている。
竹澤正行 ソニー B2Bソリューション事業本部 FeliCa事業部事業戦略部商品戦略担当部長 |
しかしながら、「当社単独での取り組みには限界がある」(竹澤氏)のも事実。そこで、アライアンスを通じて他社のリソースを活用しようというのが、FeliCaのさらなる普及に向けた戦略となる。
その一環としてソニーが2007年11月にぐるなびや大日本印刷、三井物産などと共同で設立を発表したのが、「フェリカポケットマーケティング」だ。同社は今後、前述の「FeliCaポケット」の利用を、流通、飲食、エンターテインメントなど多彩な分野に拡大させることで、FeliCaの普及を後押しするとともに、各社の収益向上に寄与するマーケティング活動を展開するという。
情報活用の必用性が強く叫ばれる中で、フェリカポケットマーケティングの果たす役割が決して小さくないことは明らかだ。FeliCaの利用履歴をたどれば、原理的には「誰が」「いつ」「どこで」「何を(購入)した」のかまで、事細かく把握することが可能になるからだ。
例えば、ある携帯電話事業者は、顧客の通話履歴や利用する通信サービスといった各種の情報の分析基盤を整え、仮説の検証作業を通じて顧客の解約食い止めに役立てている。厳しい経営環境の下で利益の極大化を図るためには、顧客情報を基に顧客の優良度を見極め、顧客ごとに効果的に商品やサービスを提案する作業を欠かすことはできない。
分析活動を通じ事業者の採用を後押し
フェリカポケットマーケティングの設立に先立ち、ソニーやぐるなび、大日本印刷などの5社が2007年2月から約1カ月かけて宮崎県で行った「CHORUCA」プロジェクトでは、いわゆるスタンプラリーを実施。FeliCaリーダとその設置場所、読み取ったカードの情報をひも付けることで、宮崎を訪れた観光客の動線を把握することに活用した。
人の動きが商売に大きな影響を及ぼすことを考えれば、1企業のみならず、あるエリアの企業が共同で同様の取り組みを同社に依頼することも、決してあり得ない話ではない。
「市場がますます成熟する中にあって、企業にはマーケティング活動のさらなる高度化が求められている。他社の知識を活用できれば、当社だけでは行えない分析活動も可能になる。もちろん、個人情報の扱いには万全を期す」(竹澤氏)
こうした企業経営の支援活動において見逃せないのが、フェリカポケットマーケティングを共同で設立する各社に、例えばぐるなびであれば飲食店の豊富な情報といった具合に、独自の“強み”が備わっていることだ。
それらの能力を相互補完することで、FeliCaによるサービスのメリットを企業に認知されることができれば、FeliCaの発行枚数もさらに伸びることになる。併せて、EdyやSuicaといった電子マネーサービスの利用を促すことができれば、各社にとってビジネス上のメリットも大きい。
「フェリカの利用促進に向けた好循環を他社と共同で編み出すこと。それがさらなる用途開拓のために不可欠なのだ」(竹澤氏)
一方で、ソニーのFeliCa用ICチップの累計出荷数は、2007年9月末時点で2億5400万個に達する(モバイルFeliCa用ICチップを含む)。「1996年にチップの出荷を開始し、9年がかりで1億個にまでこぎ着けた。しかし、そこから2億個までに要した期間は約1年半」(竹澤氏)というほど、加速度的な利用の伸びを見せている。
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“かざす”を商機につなげるFeliCa、ソニーの次の手は | |
Page1 “かざす”利便性を武器に利用を拡大 FeliCa拡大に向けた次の“一手” 分析活動を通じ事業者の採用を後押し |
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Page2 新会社でMIFAREとFeliCaを相乗りさせる 果たして世界でFeliCaは普及するか? |
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