第3回
生産現場におけるRFIDシステムの投資対効果を考える
小野田 久視
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
アドバンストソリューション本部
RFIDビジネス推進部
担当マネジャー
2006年12月1日
RFIDの技術的な理解は進んだ。これからは、RFIDを使ってどのようなシステムを構築していくべきかが問われる。RFIDシステム構築エンジニアに必要なスキルと知識を解説する(編集部)
現在、RFIDを利用したシステムの活用が本格化に向かっています。2003年の総務省発表の予測からはやや遅れている様相ではありますが、急速に活用事例が増えてきています。
実際にさまざまな企業の情報システム部門、経営企画部門、業務改善部門から受けた相談や会話の中では、まだまだ実験的な利用というのが多いのも事実ですが、2005年の後半を境にこれまでのように単なる期間限定の実証実験ではなく、本格的に運用していくことを前提としたシステムが増えてきています。
段階としてはまずは小さく始めてその中から徐々にブラッシュアップをしてROI(投資対効果)を出せる形でのベストプラクティスを見つけていきたいという方針が多いようです。すでにそういったシステムを活用して一定の効果を上げている企業も増えてきました。
本稿では、国内外の生産現場でのRFID導入事例や使い方を見ていこうと思います。
RFIDシステム導入の実際
これまでのようにPCにシリアル経由で1台のRFIDリーダ/ライタを接続し、非常に小規模にシステムを構築するという使い方から、ネットワークを活用し、多くのRFIDリーダ/ライタを接続して、業務に生かしていきたいというケースが増えています。
つまり、小規模でコストを抑えたRFID技術の実験ではなく、ある程度の規模でROIを見据えたシステム構築を行い、RFIDシステムの導入効果のほどを見極めていきたいという方向に変わってきているといってよいと思います。
従って、具体的な効果を明確に出すことを目的としたシステム作りが非常に重要です。単にRFIDシステムを導入すれば何か劇的な改善があるわけではなく、複雑に絡み合った業務の問題点を解決するテクノロジーの1つとしてRFIDという技術が存在し、ほかのテクノロジーとうまく組み合わせることで高い効果を出すことができます。もちろん、システムだけでなくさまざまな業務の工夫が必要であり、その結果で高いROIを出すことに成功する、そういった企業が徐々に増えてきています。
また、生産の現場ではRFIDタグは使い捨て型で使うことはまだ少なく、再利用可能なタグを利用することが多いのが現状です。具体的な例を挙げると、ロイコ式のカードやシートにRFIDを内蔵しているものを活用し、その印字面は必要に応じて書き換えを行い、その都度RFIDのデータも書き換えていくという使い方になります。
販売計画系と生産計画系を連携してリードタイムを改善
多くの工場で、不良在庫をどのように抑えるか、リードタイムを短くするかは大きな課題です。もちろん不良在庫が存在すること自体が問題なのですが、特に少量多品種生産の工場では出荷在庫の情報を正しく管理する必要があります。
例えば、キャンセルが発生した場合や見込みで生産してしまったものを放置してしまった場合には、それが不良在庫になってしまいます。しかも、出荷できないだけでなく、工場の倉庫に何年も眠ってしまうということも考えられます。
「今時、そんな企業は少ないだろう」と思われるかもしれませんが、まだまだそういった状況の工場は少なくありません。もっといってしまうと、工場内のさまざまな情報が正しく把握できておらず、データベース内のデータでは存在しない在庫が存在しているケースもあり得ます。もしくは、部分的にはデータは持っているものの、全体としての流れの中で情報の遷移が把握し切れていないケースも非常に多いのです。
このような状況は、規模が小さく情報化が比較的進んでいない企業だけではなく、情報化が高度に進んでいると思われる大企業でもまだまだ多く見受けられます。これを改善するためにRFIDを適用するという話が増えてきましたので、その代表的なケースを紹介します。
具体的なペインとしては、
- 生産を行うためのサプライヤからのパーツの入庫関連情報
- 生産ラインに対する投入実績情報
- 生産途中のステータス情報
- 完成品の出荷用在庫情報
- 出荷実績情報
などの情報が、別の業務からは非常に見えづらい状況になっており、工場や物流倉庫の情報をフロント側の部門はリアルタイムに把握することが非常に難しい状況でした。
RFIDシステムを活用することで、上記のデータを人手を介すことなくリアルタイムに取得できるようになります。その結果、工場内の生産実績系システム、物流実行系システムとフロント側の販売計画系システムが正しく連携できるようになりました。また、販売サイドの業務からも生産の状況をリアルタイムで把握でき、業務プロセス全体のリードタイムを短縮させるためのデータを提供できるようになりました。
既存資産を生かしたRFIDシステム構築
従来、上述のようなシステムを構築するためには、非常に多くのコストと労力、期間を要してきました。しかし、その状況も徐々に変わってきました。その背景には技術の成熟化と実導入実績の増加の伴うノウハウの蓄積があります。
販売計画系と生産計画系がリアルタイムで連携するシステムを構築する場合、
- RFIDタグは、工場内で再利用できるものを利用する
- 多くのRFIDリーダ/ライタから集まるデータは、RFIDミドルウェアを活用して集約する
- 既存の生産システムや販売システムに大幅な改変は行わず、SOAの技術を活用して連携する
- 業務プロセスの連携はビジネスプロセス連携ソフトウェア(BPELなどのBPMツール)を活用して連携する
- 追加で必要なシステムだけを新規開発する
など、既存資産を生かした形で開発するという方法があります。
筆者が実際に携わったケースでは、市場のニーズの変化に合わせて工場内の業務を細かく改善し、仕掛り在庫の低減を行いました。その結果、工場内の在庫量を約30%程度下げることが成功し、業務全体のリードタイムも25%以上短縮することに成功しました。
こういったシステムで効果を出すことができる業務・業界は、
- 少量多品種生産を行う必要がある製造業の工場・倉庫
- 受注ベースでの生産を行う製造業の工場・倉庫
- 製品完成から納入までのリードタイムに厳密な時間設定のある食料品などの商品を扱う工場・倉庫
などが挙げられます。実際に、このような業界では急速にRFIDの導入検討が進んできており、1〜2年の間に非常に多くの企業がシステムを構築することが予想されます。
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Index | |
生産現場におけるRFIDシステムの投資対効果を考える | |
Page1 RFIDシステム導入の実際 販売計画系と生産計画系を連携してリードタイムを改善 既存資産を生かしたRFIDシステム構築 |
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Page2 リアルタイムな位置情報による在庫探しコストの低減 時間の短縮とミスの削減、そして人件費の圧縮 作業実績をRFIDで取得し、業務を改善する |
RFIDシステム構築エンジニアへの道 連載インデックス |
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